終章

 

「ん……」

 目を開けると、そこには皆がいた。

 安堵に胸を撫で下ろすシャーロット姫。

 ホッとしつつも、険しい顔をするという難しいことをしているルーカスさん。

 ちらとこちらを見て、目を閉じたクロエ。

 そして――

「バカダレン! この愚弟!」

「ぐて……随分だね、エレン」

 泣きながら怒っている同じ顔が、そこにいた。

「バカ」

「ごめん」

「許さない」

「うん」

「どうして」

「うん」

「どうして、こんなことをしちゃったのよ……」

 こんなこととは……聞かずともわかっていた。

 もう、エレンからは魔力を感じない。

 普通の人間に戻ったんだ。

 そうして感じるのは、つい先程よりも強力な、魔力の波動。

 本当に二分の一になっていたのかと、改めて実感した。

「ダレン……お前というやつは……」

「ごめんなさい、ルーカスさん」

「でも、とりあえずはお二人ともが無事で良かったわ」

「ありがとうございます、姫様」

 姫の顔は晴れない。

 それはそうだ。実の母の正体を目の当たりにして、そして殺されてしまったのだから。

 ルーカスさんも俯いている。

 仕方がない。正気でなかったとはいえ、魔女を葬るために多くの人間の命を奪ってしまったのだから。

「結局、おれはあの女を殺してしまった」

「それは、あたしを助けようとして……!」

「それでも、だよ」

「ダレン……」

 おれが重ねてきた数々の罪。

 それをきちんと償ってゆかねばならない。

 そして、魔王はおれで終わらせる。

 そのために――

「すべてをやり直しましょう。天族はもういないけれど、魔族も随分と減ってしまったけれど、それでも諦めずに」

「ダレン……そうだな。俺たちは、もっと考えなければならない。与えられたものだけを、疑問に思わず受け入れるだけでは、変わることはできない」

「ルーカスさん……」

 二度と、同じことを繰り返さぬように。

 始めよう。

 そうだ。まだ始まってすらいない。

 何も終わってなんかいない。

 これからおれたちは、挑んでいかなければならない。

 きっと、また間違ってしまうかもしれない。

 とても気の遠くなるような時間が掛かるかもしれない。

 それでも、おれはおれのやりたいことをやり遂げたい。

 そのためには、おれは自身の力を最大限に使わなければならないだろう。

 そして、それはきっと、おれだけの力では何年経とうが成し得ないのだろう。

 そのために必要なのは、何なのか……。


 ――もうずっと前から、おれはその答えを知っているはずだ。


「エレン、ルーカスさん、シャーロット姫……一緒に茨の道を歩いてくれますか?」

「ダレン……」

「あったり前でしょう! やっと言ってくれたね、ダレン!」

 四人で頷き合う。

 おれたちは、決意をした。

 たった四人から始まる、困難への道。

 人間も魔族も、すべての命が共存していけるような、そんな世界を実現するために。

 英雄と魔王、勇者と姫が、手を取り合う。

『それだけで良いの?』

「え?」

「いいや、ダメだ」

「そうね、ダメよ」

「ええ、ダメです」

「な、何? 何なの?」

 皆の目がこちらを向く。

 それは、どれも優しいものだった。

「俺は、お前のことも家族だと思っている」

「絶対にダレンのこと、諦めたりなんかしないからね!」

「それって……」

「魔王システムは、まだ終わっていない。天族がいなくなったのに、だ」

『何かあるはずよ。永遠に続く術式なんてものは、ないわ』


 おれが、人間に戻れるかもしれない……?


「再建も、願いも何もかも諦めたりなんかしない」

「一緒に探そう」

「きっと見つかります」

「皆……ありがとう」


 こうしておれたちは、固く誓いあった。

 まずは、それぞれができることを取り組む。

 クロエとの契約は終了したが、いつでも呼び出して構わないと言ってくれた。

 おれは、エレンと魔族を束ねるための旅を始める。

 姫とルーカスさんには、まず国の再建を託した。

 王妃の手が及んでいた国を、一から見直すのだ。

 きっと、何年もの時がかかるのだろう。

 もしかしたら、彼らの生きているうちには成し得ないのかもしれない。

 それでも、おれたちは誓ったのだ。

 純粋な魔族たちのためにも、散っていった彼らの分まで、絶対に諦めたりなんかしない。

 おれたちは歩き出す。

 また二人に戻ってしまったけれど、固く握られた手は、離さない。


「さあ、行こうかダレン!」

「うん、行こうかエレン!」


 再び指に光るお揃いの指輪を、永遠の誓いの証にして。

 まだまだおれたちの冒険は、終わらない。


◆◆◆


「新しい魔王様の気配……」

 長く艶やかな紫色の髪に、金色の瞳。

 とある暗闇の中で、一人の女が目を覚ましていた――

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双子勇者、最弱魔王に強制転職 広茂実理 @minori_h

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