「クロエ……!」

『仕方がないわね!』

 エレンの上から、転がるように退く。

 その場に横になりながら、クロエがエレンを助ける様を眺める。


 ドクン……。


「ああ……!」

 瞬間、揺れる視界。

 まるで、体が燃えているかのように熱い。

 襲い来る体中の痛み。


 懐かしい、この感覚――


「ごめん……エレン……」

 ああ、あの時を思い出すな。

 まだ人間で、勇者だった頃。

 ふたりで魔王に剣を突き刺した、あの時を。

 まるで、昨日のことのようだ。

 あの時、始まったんだ。

 やっと、目が覚めたんだ。

 新しい人生が、幕を開けたんだ。


 また、幕が上がる。

 次のストーリーが、始まる。


 今度は、一人で。


 薄れゆく意識の中、まだ目覚めないエレンの目尻から一筋の涙が零れたのを見て、おれはまた心の中で謝るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る