「話を聞きたい。少し時間をもらえないか?」

「話?」

「そうだ」

「どうして」

 とても不機嫌そうで、少し怯みそうになる。

 だが、せっかくこうして会えたんだ。

 ここまで来て、帰るわけにはいかない。

「知りたいことがあるからよ!」

「嫌だね」

「ええっ……」

 エレンも肩を落としてしまった。

 どうしたら良いのだろうか。

「そうやって、今度は俺を殺すんだろう?」

「え?」

 今度は? 殺す?

 どういうことだ?

「俺は、お前らになんか殺されないからな。ジェームズとメイソンみたいには!」

「!」

「絶対に殺されてなんかやらねえ。人間どもにもだ」

「違う、おれたちは……!」

「ふん。臭い芝居はやめるんだな。どうしてもって言うなら来い。相手になってやる」

 どうしたら良いんだ?

 戦わなくてはならないのか?

「……」

「どうした。怖じ気づいたか。俺に負けるのが怖いか」

「……あたし、そういう安っぽい挑発には乗らないんだけどな……」

「エレン?」

 スッと目を細めたエレンが、おれの前に立つ。

「でも良いよ。相手したげる。……暴れたいんだろ?」

「ほう……良い目をするじゃねえか。生意気だ」

「あははっ、そりゃどうも。さあ、思い切り暴れられる場所はないの? ここじゃあ狭くて無理だよ」

 腕を左右に広げて、エレンは芝居がかった動きをする。

 狼男も興が乗ったのか、笑みさえ浮かべている。

「良いだろう。ついて来い」

 くるりと踵を返して歩き出す男。

 どうやら山に向かっているようだ。

 その後を無言でエレンがついて行く。

 これは、あれだ。怒っている。

 きっと誤解されているのが悔しくて、そして当たらずと雖も遠からず。

 二人は、おれたちが殺したと言われても仕方がない。

 けれど、だから彼も殺しに来たと思われるのは心外だった。

 そうやって決め付けられることに腹が立っているのだろう。

 おれだって、もちろん良い気なんてしていない。

「エマ、彼と会ったことが?」

 何か知っているのなら、知りたい。

 今は、彼の情報が欲しい。

「はい。彼が幼い頃の話ですが」

 エマが日記の魔王とともにここへ訪れた時に、この山で狼男と会ったという。

 その時は、狼の部族長である彼の祖父と魔王が話をしていたそうだ。

 まだ子どもだった彼とは遠目に会ったくらいで、直接話はしていないとのこと。

 彼の面立ちがその時に会った父親にそっくりだったため、すぐに部族長の孫だとわかったそうだ。

「ここらでいいか」

「うん。ちょうど良い感じだね」

 着いたのは、山の入り口から少し進んだところ。

 そこは、やや広めの平らなところで、二人が暴れるにはうってつけの場所だった。

「あたしが勝ったら、話を聞かせてもらう」

「良いぜ……俺が勝ったら帰れ。二度と来るな」

「わかった……」

「で、良いのか? お前一人で。俺は二人でも三人でも構わねえぞ」

 挑発的な態度にも揺れず、エレンは一つ、深く息を吐き出す。

「……良い。一人で十分」

「フン……後でそう言ったことを後悔するんだな」

 エレンが両手にそれぞれ銃を構える。

 そして左手の人差し指に軽いキスを落とした。

「あ……」

 一瞬、何をしているのかと思った。

 そして、すぐに思い当たる。

 指に感じる、慣れない違和感とともに。

「頑張れ、エレン!」

「うん!」

 振り返った彼女は、目一杯の笑顔を浮かべて、そして目の前の狼男を見据える。

 そうして、二人の戦いが始まった。

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