これは凄い。凄い戦力だ。

「ありがとう、サラマンダー。きみの凄さが伝わったよ」

『うむ』

 どこか嬉しそうなサラマンダーを戻し、おれは左の手をぐっと握り締める。

 強くなった。

 精霊が味方してくれるほどに。

 しかし、大きな損害を出してしまった。

 アメリアという魔女を失ったことは大きい。

 まるで人形になってしまったかのように、転がされていた彼女を思う。

 どうして突然、あの地にいることが知れてしまったのだろうか。

 そして、掴みかけたあの女への糸が、手を擦り抜けていってしまった。

 また振り出しに戻ってしまったというのか……。

「エレン様、ダレン様。粛清が進んでおりますね。次はあの狼男を?」

「エマ……やめてくれ。もう粛清はやめたんだ」

「何故ですか?」

「何故って……」

「では、今度は人間を?」

「エマ。頼むから黙っていてくれないか」

 酷くイライラしてしまった。

 わかっている。

 エマはそういう人だ。悪気はない。

 だからこそ、ぶつけられない。

「ったく、あの副官は……しかし、これからどうする。女への手掛かりがなくなったぞ」

「そうだね……」

「それにお前ら、人間どもから狙われる立場になっちまったじゃねえか。いずれはこの城にも攻めてくるぞ」

 おれは黙ってしまった。

 言葉がない。

 いや、考えるのが辛いだけだ。

 あの英雄を敵に回すことが、嫌なだけなんだ。

「あれ……何か飛んできた」

 ふいに、エレンが声を上げる。

 誘われるように上げた視界へ、確かに何かが見えた。

 鳥? こちらに向かって飛んできている……。

「あ、来た」

 スーッと流れるようにして降り立ったのは、紙で折られた鳥。

 エレンの手のひらを目掛けて降り立った。

「何だろう?」

「魔力を感じる。この匂いは、西の魔女だな」

「アメリアが?」

 リアムの言葉を聞いた途端、エレンは丁寧に折り目に沿って鳥の体を開いていく。

 と、中から文字が現れた。

 広げた彼女が、内容を読み上げる。


 ――親愛なる主殿。急いでいるので挨拶は省略させていただくよ。主殿がこれを読んでいるということは、アメリアはやはり不覚を取ったということなのだろう。今、人間たちによって茨の魔法が破られた。本来ならば、人間がその茨にすら近付かぬように魔術を施しているのだが、入れ知恵をした奴がいるようだ。だから念のために、ここへ記しておこうと思う。例の天族の女の居場所がわかった。人間の国。西の城にいる。彼女が人間に紛れて、人間たちにいらぬ入れ知恵をしている。どうか、十二分に気を付けておくれ。そして主殿たちの願いの叶わんことを祈って。主殿の永遠の味方、アメリア――


「アメリア……」

 それは、紛れもなく彼女からの手紙。

 逃げることよりも、戦うことよりも、何よりも、伝えることを優先した、彼女からの最期のメッセージ。

 それは、暗闇に一筋の光をもたらした。

 しかし――

「どういう、こと?」

「城に、女が?」

 愕然とした。

 天族が、城内にいるなんて……。

「金髪の女なんて、いるよね?」

「いた。金髪なんて、珍しくもないよ」

 城内に人間がいったいどれほどいるのか。

 王族はもちろん、城を護るための衛兵たち。

 政治を助ける者や、王族の側仕えなど、数えたらキリがないほどだ。

 その中で金髪の女と絞れば、数えられるほどにはなるかもしれない。

 しかし、それでも全員を把握しているわけじゃない。

 それに、今のおれたちはお尋ね者だ。

 そう易々と、城へ行くことなどできないだろう。

 行くにしても、狙いを絞って行かなければならない。

「でもよお、人間がうじゃうじゃいてバレねえのかね、あの目」

 リアムが口にした疑問。

 それは、おれたちの目を輝かせるには十分だった。

「それだー!」

「な、何だよ突然!」

 二人でリアムに飛びつく。

「さっすがリアム!」

「リアムさっすが!」

「ちょっ、おい、こら! 離れろ、お前らあー!」

 おれたちは、しばし無邪気に戯れていた。

 それは、束の間の休息だった。

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