大河と華音と学校

「お。やっぱりそうか。七宮さんって、タレントか何かだったりするのか?」

「なぜそうなる!?」

「だってその過剰反応、何かあるとは思っていたし、あんな可愛い女子が大河と一緒に歩いているとか、絶対芸能関係者かなにかなんだろうなって」

「どうしてそういう結論に至るんだ?」

「それ以外にお前が女子と歩くとか考えられないだろ」

「……おい」

「それにお前、あんな美人な音楽の先生と同棲してるじゃんか?」

「…………」


 有理紗は見ようによっては間違えなく美人だ。あの暴力さえなければの話だが。


「さしづめ、あの美人先生に教わりに来たアイドル歌手が近くに引っ越してきて、そのアイドル歌手様を大河がいろいろ案内してるとか、そんな話だろ?」


 惜しい。幸いなことに肝心なところが不正解だ。唯一正解と異なる点は引っ越してきた場所について。もはや近くとかそういうレベルじゃないのが俺の悩みの種でもあるのだが。


「まぁでも大河も七宮さんもどこか距離を置いてるみたいだし、恋愛関係になりそうもないところがちょっとつまらないんだけどな」

「それのどこがつまらない話なんだよ?」


 互いに距離を置いているのは、これ以上妙な噂が立たないようにだ。その予防線を俺と華音で共有して、学校の中ではなるべく近寄らないようにと約束をしているだけ。登下校中も可能な限り距離を取って、間違っても同じマンションから出てくるところを見られないように注意しているつもりだ。


「そしたら大河は、ひょっとして七宮さんと恋愛関係を築きたいのか?」

「なわけねーだろ。あんな小動物のどこがいいんだ?」

「小動物……?」


 しまった。ややいらぬ反応をしてしまった。宏は首を少し斜めに傾け、俺の顔をじっと見ている。


「ま、いいや。なんか急に大河の元気が出てきたみたいだから」

「は!?」

「その辺りは好きにやってくれ。俺は特に邪魔したりねーから」

「おい宏。なんか、とんでもなく勘違いしてないか? しかもかなりどでかいの」


 だが宏はそんな俺の反論をどうでもいいみたいな顔で話を流してきた。それはそれであまり好ましい結果じゃない気もするが、下手に反論して華音と同じ部屋で暮らしてることがバレるよりはまだマシかもしれない。そう思って俺も宏の反応に合わせることにした。


「そっか〜。やっぱし七宮さんって芸能人だったのか〜」

「あんまり大きな声で言うんじゃね〜ぞ。いろいろめんどくさいやつもいるだろうからな」

「だな。勘違いした人間が七宮さんを困らせたりすると厄介だしな」

「ああ。だからなるべく他のやつには黙っててくれ」


 ここは至って普通の高校だ。そんな学校に芸能人が通ってるとなれば、下手すると大騒ぎになる可能性だってある。結果として、華音が傷つく可能性だってあるんだ。だからあいつのことはほっといてやるのが一番いいに決まってる。


「もちろん黙っておくよ。七宮さんのことはな」

「よろしく頼む」


 その点、宏は良き理解者だ。だからこそ俺はこうして親友を続けられるのだろう。


「ところで大河。七野かのんって声優、知ってるか?」

「……!?!?!??」


 ……いや、前言撤回。良き理解者であっても、こうもど真ん中へストレートを投げてくる親友というのも、さすがにどうかと思うんだ。

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