防音室の噂
「ちょっと待てよ。なんで俺が部屋を移動しなきゃいけないんだ?」
「さっき華音ちゃんが防音室をチェックしたんだけど、お気に召さなかったようなのよ」
「なんでだよ!?」
わけがわからないまま、俺は華音とかいうやつの顔に迫った。が、その顔はまたまたなぜか半べそをかいていて、相変わらず俺が泣かせたかのような非常にわかりにくい状況を作り出している。
「わ、わたし……だめなの……」
「なにが?」
少し強めの声で問い詰めただけでびくっとなっているその顔は、やはり俺がいじめているみたいだ。いや正直なところいじめられているのは俺のような気もするんだけど。
「お、お、お………」
「お……?」
「お……おば……おば……」
「ああ、口煩いおばさんが嫌いなんだな。大丈夫だ安心しろ。有理紗はこの部屋の主だ」
「誰が口煩いおばさんよ?」
有理紗は間違うと手元の包丁をそのまま投げつけてきそうな勢いだった。つか有理紗は俺の父親の妹。口煩いおばさんであることに間違いはないのだ。実際に口煩いんだから否定のしようがないじゃないか。それ以上にあの父親を自分の父と思うことの方が無理があるくらいなんだけどな。
「違う。口煩い有理紗先生のことじゃなくて……わたし、お化けが……」
「えっと〜、今の話を統括すると、有理紗が口煩いのは素直に認めるってことだな」
「一言余分なのは大河の方だと思うけど、あたし何か間違ったこと言ってる?」
今のは俺じゃない。華音とかいうのが言ったんじゃないか。
「だってあの部屋お化けが出そうで怖いんだもん!!」
だが、そんな俺と有理紗のやり取りなど全く意に介していなかったようだ。華音のやつ、唐突に妙なことを大声で宣い始めている。てか今さっきなんて言った?
「おば……おば……」
「大河。あたしのことそれ以上おばさん呼ばわりしたら、この部屋追い出すわよ!」
「違う。確かに有理紗はおばさんだけど……」
「おいこら」
もはやそんな有理紗の脅しなどは、いつもどおりの口癖でしかないので一切怖くない。だけど今議論したい内容のそんな話ではないんだ。華音とかいうのが急に妙なことを言い出すから……。
「あの部屋にお化けが出るなんて話、あったか?」
だが僕がそれを問うと、有理紗も華音もきょとんとしている。
……いや、二人にそんな顔をされたところで聞きたいのはこっちの方なのだが。
「さぁ〜ね。でも大河だって、うちにはあんな立派な防音室があるのに、それを使わずに今日も駅前でハーモニカ吹いていたじゃない」
「なんでそのことを有理紗が知ってるんだよ?」
有理紗は鼻歌交じりで俺の質問を無視する。絶対遠くから見ていたな。まぁ駅前で吹いてる俺にも責任があるのだが。
「あの部屋やっぱし……出るんですね?」
「…………」
「…………」
……何だろうこの沈黙は。これでは本当にあの防音室が事故物件みたいな扱いになってるんだが。
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