大河の部屋と華音の部屋
変わりつつある朝の風景
朝。先月までは感じていなかった朝日を全身に浴び、光に誘われて目を覚ます。
窓がない部屋にずっと慣れていたせいもあるかもしれない。朝日がこんなにも眩しいものだったのかと、つくづく身に沁みて感じるようになってきた。清々しくもあり、鬱陶しくもある。日によって感じ方が変わっていて、今日はどちらかと言うと鬱陶しい。いや、最近はほぼ毎日のように鬱陶しく感じている。俺がひねくれているだけなのかもしれないが、そんな自分がますます嫌になってくる。少し前の俺なら、この程度で自己嫌悪に陥ることなんてなかったはずなのに。
そして、朝起きると黒い化物が視界に飛び込んでくる。なんて変哲なものでもない、ただの黒い箱のようなもの。ただし俺の場合、見ているだけで吐き気がしてくる。こんなものがあるから俺は……。
先月まで俺が使っていた部屋は、今は華音が使っている。どうやら今日もぐっすり眠れたようで、今朝もなかなかに機嫌が良さそうだ。今日の朝食は、俺が作った目玉焼き。それと睨めっこしてみては、ぱくりと口の中へ頬張る。美味しそうにむしゃむしゃと、その小動物のような顎を上下に動かして食べている。
「なんか、むかつく」
「それはあんたがただ機嫌悪いだけでしょ。朝から人に八つ当たりしないでよ」
そして程なく有理紗に怒られる。ますます俺は機嫌が悪くなる。その繰り返し。
こんなしょうもない毎日を、俺は何気なく過ごしている。
毎日が辛い……。一体何が変わってしまったのだろう。
「大河。今日も眠そうだな? 最近何か嫌なことでもあったのか?」
学校へたどり着き、自分の席に座ると、間もなく
「別に。特に何も変わりはねえよ」
「そんな風には見えないんだけどなぁ〜。最近吹奏楽部にも顔出してこないし」
「あんなの宏の付き合いでやってるだけだろ。特に俺は……」
「そんなこと言いながら二学期の終わりまではちゃんと顔出してたじゃないか。今じゃ大河が顔出さないもんだから、ファンクラブの女子連中共がストレス溜まっててめんどくさいんだけどな」
「それこそ知るかよ。そもそもそんな奴のファンクラブとか、センス悪すぎじゃねーのか?」
「お前フツー自分のことをそこまで悪く言うか?」
そもそも俺は吹奏楽部であっても、完璧なる幽霊部員だ。そもそも担当パートすら決まっていないじゃないか。たまに人数を合わせたいからという理由で呼ばれて、その曲に足りないパートの楽器を吹くのみ。楽器はサックスだろうがトランペットだろうが有理紗が大抵防音室に隠し持っているから、それをかっさらって使えばいいだけのこと。あるいは学生指揮者も頼まれることがある。正直言うとそれが一番めんどくさくて、曲の勉強もしなくちゃならないし、合奏には毎回出なくちゃならなきゃならないしで、余程のことがない限り絶対に頼まれたくはない役柄だ。
ただし、頼まれたからには手抜きはしない。それだけのこと。楽器だって苦手な楽器こそあれど、大抵の楽器はガキの頃から吹いていたし、高校の吹奏楽部で使用する楽器程度であれば一通りそれなりに吹ける。だが頼まれたパートは、同じパートの他の連中に絶対に合わせてみせる。パート練習中に泣き出す女子も一人や二人じゃないが、それでも本番の演奏が終わるとそいつはどことなくいい顔している。
ただそれだけでいいじゃないか。
だが、それが俺だ。それ故、俺のファンクラブなんて知ったこっちゃない。
そんな連中、絶対にマゾか何かだろう。趣味が悪いに決まってる。
「まぁどうでもいいけどよ、少しはあの転校生を見習ったらどうだ?」
「ってどうでもいいのかよ? つか転校生って誰のことだ??」
そもそもうちのクラスの転校生って、あいつ以外に誰かいたか?
「ほら、あの七宮さんだよ。なんだか活き活きしてて大河とは正反対だなって」
「ああ……。それだけは否定しないな」
あいつに対しては他に言いたいことが山ほどあるが、ありすぎて言う気も失せるくらいだ。そもそも宏は俺と華音が一緒に住んでることを知るはずもないし……
「でも大河って、七宮さんとよく一緒に歩いてるよな?」
「ふぁ!?」
が、急転直下の不意打ちを喰らい、俺は思わず変な声を出してしまう。華音の声も十分変だが、それに負けず劣らずの妙な声だった。
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