現実と夢、そして……
ブルーモーメントの中で①
***
「こっちのほうがいいわよ、のの、やっぱり、こっちにしよ」
部屋に、椎名の声が響いていると不思議と落ち着いた。困った野々花は、椎名にデートの服を相談し、「霧灯の好みなら任せて」とばかりに椎名は颯爽と家にやって来た。
母親も父親も安心したようで、それはそれで良かったが、椎名は部屋のキャンディを見るなり、また悲しそうな顔になった。
後悔の横顔がつらい。
野々花は自分がそう思えて不思議と良かったと思う。後悔している椎名は温かく、本当に優しい人で。
母親の助け舟がやってきた。
「椎名さん、ケーキがあるのよ」と母親が出してきた普通のケーキをほおばりながら、椎名が告げる。
「あたし、あんたと出逢って、優しくなれた気がする。これなら、霧灯も落とせるかな」
そう言いながら、野々花の服を選ぶのだから、椎名砂葉はやっぱり分かりにくい。
「あいつ、意外とフェミニンが好きなのよね。セクシーはだめね。そういう色香は嫌いだって言っていた。スカートよりキュロットのほうがいい。可愛い服がいっぱいね、のの」
「椎名さんは、デートの服、決まったの?」
「ちょうど父親からアクアリウムの招待券を貰ったから、レースワンピースで攻めようかな」
椎名はにやっと笑った。
「霧灯、サメとか苦手なのよね。海に行った時にサメに追いかけられたって小学生の時に行ってて、「嘘つきゆいと」になったのよ。それから、何かあると「嘘だよ」って言う。04/01産まれというのも嫌いみたい」
うそつきゆいと。
本当なのに嘘にしてくれと言ったことを思い出した。
野々花に服を合わせながら、椎名はてきぱきと決めてくれた。決まった服をハンガーにかけると、部屋はあっというまに片付いて。
しんと静まり返った。
「あんた、嫌じゃないの? あたし、意外だった。てっきりあんたは嫌だっていうと思ってた」
「あはは」
椎名はふっと笑うと、長い髪をくるくるいじりながら、ベッドで不敵に微笑んだ。
「だって、あんたたち、両想いだもの。だからわたしも吹っ切れそう」
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