Epilogueー2 恋の逆転、もう大丈夫。
同じ星座なはずの霧灯と、結翔がまた、問答になった。今度は星座の見え方で角を突き合わせている。
「見え方の問題だよ。あれが、うお座だ。まだ見えてるって」
「嘘だろ。あれは違うよ。望遠鏡でみれば分かるけど、肉眼じゃ見えないはずだ。それに……」
ちらっと霧灯が野々花を伺う。野々花はうお座。しかしサカナが大嫌い。あの泳いでる姿もいやだし、流されるままの人生を象徴しているような存在もいやだし、とどのつまり、全てが嫌だった。
でも、逃げなきゃ、とは思わない。流れに乗れば、きっと光る河を泳げるはずだ。
「わたしも、聞きたい」
霧灯の手を掴んで、野々花は会話に首を突っ込んだ。
「あたしの星座、見えるの?」
「のの」「ののちゃん」
野々花は「どーこかな~」と明るくふるまって見せた。
まだ、食べられないものはあるし、サカナも苦手だ。でも、霧灯や、結翔に貰ったこんぺいとうは、無数に野々花の中で輝いているからきっと平気。
そんな中に、自分の存在が消えてしまうことは、やっぱり寂しい。
「だから、こっちだって」
「違うな。あれがアリエスだろ……ってあれ? 合ってるのか?」
霧灯は遠くの星を指してくれた。
「兄さんがいってるの、フォーマルハウトだろ、みなみのうお座だけど、のののうお座には一等星はないから地味……」
「だから嫌い」
しまった、と霧灯は珍しく目を躍らせて、言い訳を考え始める。嫌いだ。何も変わらないけれど、ほんのちょっとだけ、自分にも目を向けてみよう。そう思うと、霧灯の一挙一動が愛おしくなってくる。
ドドド……また、ナイアガラの滝が落ちそうな。
「話は派手だろ。何しろ、女神のように美しいって嫉妬で、サカナに換えられたアフロディーテ……」
「そうなんですか? わたし、女神?」
「そうだよ。魚と女神には繋がりがあって。だから美しい魚も多いんだ。ネオンテトラなんか綺麗だぞ。あと、ペタとか」
「なんだよその、くっつき虫みたいな名前。あんた、熱帯魚の研究でも始めたの? ののちゃんが魚座だからってやり過ぎ」
優衣が悪態をつくのは珍しい。
「いや、子供たちの部屋に熱帯魚が置いてあるから。くっつき虫はないだろ。まだ根に持ってる?」
「持ってるよ! 俺のカバンにいっぱいくっつき虫入れたの、あんただろ!」
優衣も色々黒歴史があるらしい。
野々花は二人から少し離れて、「みんなのいえ」を眺めた。
手術が嫌だとだだを捏ねたから、この家を借りることになった。そこで、また検査が嫌だとだだを捏ねて、結翔にこんぺいとうを貰った。
おやつをせがんで、頑張ろうって決めて。
今日、ここに立っている。
「奇跡はあるんだ」
口にすると、実感が沸いてくる。願いがつまったこんぺいとうは、夜空を探せばいい。たくさんの願い、希望、夢、それはきっと銀河まで届く。
「ののちゃん、僕は戻るから」
――もう、大丈夫だよな? そんな声を残して、結翔は軽く手を上げて、くく、と咽喉を鳴らしている。また笑っている。しかし、結翔は霧灯を見て、笑っているのだ。きっと、結翔の中では、優衣もまた、こんぺいとうだったのだろう。
「お兄ちゃんにかかると、全部こんぺいとう」
「そう? もういつでも逢いにおいで。優衣の面白話、聞かせてほしかったら」
「お兄ちゃんが虐めたんでしょ。……霧灯さん、天文部の存続、頑張ってますよ。ねえ、おにいちゃん、わたしも、同じこと、決めたよ」
まだ、言えない。
まずは、優衣に聞いて欲しい。野々花は独りで、頬を熱くして俯いて、「言えないけど、そのうちにね!」と言い訳をしてみる。
いつの間にか、逆転していた。その恋の想いとともに。
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