*第一章ー2❇︎霧灯優衣(むとうゆい)との再会

***


 分かれたつがいに出逢ったごとく、胸が大きく高く鳴り始めた。野々花はほう、と肩を下ろす。緊張でいかり肩になりそうだ。

(本当に、逢えたら良かったのに……こんぺいとうが綺麗に消えたら)

 裏腹に野々花は会話に興じ始めた。

「さっきのお話ですが、わたしも入部したら、天体観測に行けるんですか?」

(逢えるのかな)

「行けたよ。本当は泊りの伝統行事だった。グループに分かれて、数時間。晴れるかどうかは賭けだった。夜の天気は気まぐれで。月の女神さまはすぐに機嫌が悪くなる」


 のの 星座はたえず地上を見守っているんだーーーー


 優しい声が過去から響いてきて、野々花は涙の熱を堪えて微笑ってみせた。


「それなら大丈夫です。私、天気に好かれるので」

 野々花が産まれた夜は、珍しく流星があって、宇宙ではガンマバーストが走るほど明るかったし、入学式、卒業式はまるで「今まで辛かったね?」とお日様が微笑んでくれるほどに天気が良かった。

「みんなのいえ」からは、春は桜が見えたし、夏の空もすっきりと青く、秋の紅葉の山や、冬の雪景色まで、時には稲光や稲妻、それに夏の御神輿まで楽しむことができた。

「ただ、今は多分それも難しいから、配信するしかないんだけどね」

「配信?」

「夜空を部屋に作ろうって……でも全然だめだめで」

「部屋に? 描いてるんですか?!」

「いや、映し出せるかなって。でも、これが全然できなくて。うち、部員減ってるから、人手もまるで足りていないし」


 チャンスだ。野々花は隙を逃がさずに言葉を繋いだ。


「入部したいです。また、綺麗な星空を見たい」


 相手は驚きもせず、考えるポーズをとってみせた。


「女の子の入部か。男子が騒ぐな。うち、女子が少なくてね」

「え? 女の子はダメなんですか? えと.....」


 呼び名が知りたい。まさかゆいとお兄ちゃんとは呼べないだろう。


「むとうゆい。むとうは霧の灯火、ゆいは優しい衣だ」


 霧灯は言葉を濁した。やっぱり違った。でも雰囲気は変わっていない。言ってみようかと思ったが諦めた。

 新しい人生を歩んでいるなら野々花も一緒に歩めばいいのかも知れない。

 過去の野々花は今できるのかも知れない。


 ――野々花は知る由もないが、天文部の入部希望者は年々激減、天文の科目すら、窮地に追いやられている現状があった。

 霧灯は告げた。


「まもなく、部から同好会に格下げなんだけど、それでもいい?」

「どう違うんですか?」

「予算の話なんだけど……予算も削られたから、うん……」


 会話の途中で、チャイムが鳴った。「あ!あたし社会科教室!」慌てて二人で立ち上がる。


『こんぺいとうが無くなる頃に、また会えるよ』

 もうすぐこんぺいとうはカラになる。


***


 そろーり……そろーり……。席に座ってセーフ。


「のの、みんなとお昼食べないでどこに行っていたの」

 後ろの席の友人、ひろみがこそりと聞いてくる。

「うん、ちょっと想い出におでかけ」

「PCも立ち上げてないから先生がこっち見てる」

 想い出に浸っている場合ではないと、野々花はPCを立ち上げた。


 リモート画面には「社会科確認テスト」想い出から一気に引きずり出された。

結果は言いたくありません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る