*第五章ー5❇︎生まれつきの星座の天命
「椎名さん、強い」
「強くならなきゃ、恋なんかできないでしょうが。ちゃんと想い、伝えるわ。結果、霧灯がわたしを選んでも、それは構わないでしょ?」
ちらちらとした狐のような目に、野々花はとうとう弁当の蓋を置いた。咽喉に通らなくなってきた。
――霧灯さんは、椎名さんの強さに負ける気がする。
そうしたら?
野々花はまた、一人に戻る。
もう星空こんぺいとうも、結翔との再会の夢もなくなったのに。何を支えにすればいい?
――いつでも、泣きたかったらここ、貸すよ?
霧灯の声を頭を振って、追い出そうとしたけれど、いっそ、飛び込めたら楽になるのではないか。
もしかすると、結翔も、ただ、楽になりたかっただけで逃げようとしたのだろうか。野々花が霧灯から逃げ続けているみたいに。
「わたし、強くないのにな……」
「あんたのは、強いんじゃなくて、図太いというのよ。そののらりくらりの図太さが、霧灯の白状な部分を惚れさせてるんだわ。そうよね、あんたはゆらゆらの――」
星座の話の気配。野々花はむすっと頬を膨らませた。前で、椎名はぽつりと告げる。
「星座の天命の歯車を逆に回そうとしても無駄。生まれついた星は自分に与えられた贈り物だもの。あんたが大切にしていたこんぺいとうの代わりにはならないだろうけど、精いっぱい接するつもり。でも、あんたは早く、自分の星座を受け入れなさいよ。そのものよ」
「…………気持ち悪いんだもの」
「そんなこと言ったら、蠍座のあたしはどうなのよ。神様が寄越した刺客よ? 莫迦な男を懲らしめるために、出された毒サソリ。ああ、霧灯をぷすりとやってやろうかな」
――羨ましいと思った。
好きな人に立ち向かえる椎名が。
「わたしも、蠍座になりたかった」野々花は小さく呟く。
椎名はふわっと笑うのだった。
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