*第二章*駄菓子と薄荷の小競り合い

*第二章ー1❇︎天文部改 椎名の謎解き部

*1*


 水鳥高校に入って、一週間。天文部の活動には毎日顔を出している。しかし、部員は現在男子3名、女子二名というとても寂しい人数だ。多過ぎる椅子が寂しく大気に晒されている。


「もっとたくさんいたんだけどな」

「うん、俺の好きな子も……」


 副部長の霧灯優衣と会話しているのは、元気一杯の二年生の鈴木と佐々木コンビ。三年生はもう進路のために引退がほとんどで、部活は二年生と一年生が中心だ。


「でも、少なくても楽しいと思います」

「想像してみて、ののちゃん。このドームにプラネタリムを映して、等間隔に体育座りする五人を」


 もわもわと想像を働かせて、なんだか空しくなった。


「確かに、寂しいですね……」

「椎名が退部させるんだから、仕方がない。部長には逆らえないし、顧問は来ないし」


 肩を落としながら、霧灯は告げた。


「理由はさだかではないんだけど。どうして部員を減らすのだろうね、椎名は」


 ――確かに。嫌なら、自分が辞めればいい話だ。


「本当は、星を憎んでいるとか」


 聞いていたもう一人の二年生が口を挟んで来た。


 「実は彼女は異星人で」広がった翼をぶった切るような「そんなはずあるか」の声。女子が減って、男子も減った。和気藹々としていた部室はがらんとなって……。野々花は颯爽と会話に割り込んだ。


「星を憎むなんてありえないです。何か理由があるのかも」


 天文部改め椎名の謎を解く部になりつつある部室である。麦茶を片手に、霧灯はまたしょ気た声音になった。


「うん、いないと思いたい。だいたい、勧誘が出来ない現状で、オンラインのプラネタリウムを提案したのは部長の椎名だ。でも、予算が執行会から降りないから、こうして素朴になっているわけで」


 全員で天井をみていると、貼ったばかりのドームがびろーんと外れて落ちて来た。


「……しっかり留めろよ、佐々木」

「天井があったかいから、外れるよ、鈴木。養生テープを買ってこよう」


 まだまだ夜空には遠いパンチングのステンレス板を見上げていると、なんだか情けなくなってきた。もっとこう、夢があっても良いのではないか。しかし現実は、変に切り裂かれた黒いごみ袋が垂れ下がっているだけで。


「やっぱり、予算の問題か。養生テープいくらだったか」


 それでも、もう駄目だ。とは決して言わない。野々花は頭を悩ませる三人に椅子を近づけた。椎名はまだ来ていない。言うなら今だ。


「あたし、同じ女子として、椎名さんに聞いてみたいです」

「やめときなよ! ののちゃんまで追い出されるよ」


 野々花は「大丈夫です」と笑顔を向けた。ぱちっと霧灯と目が合って、ひやりとしながら。


 なぜか霧灯に見られると気まずさを感じ得ない。しかし当の霧灯は気にしていないらしく、眼を僅かに細めるだけ。


 全て知っているよと言わんばかりに。


「部員が減っちゃうの、椎名さんも寂しいと思っているはずです。椎名さん、悪い人じゃないと思う」


「いや、女王様だよ。男使い慣れてるよな」


 二年生二人がひそ、と眉をさげるまえで、霧灯が立ち上がった。


「いや、ここはお願いできる? ののちゃん。どうするつもり?」


 野々花は口ごもるも、下がって来たドームを手で避けて、首を傾げる。


「何ができるのか、わからないけど……わたし、ここがなくなったら寂しいし」


 霧灯は頷いた。


「この天文部は最初はたったひとりが作ったもので、そこから広まって部活動、とりわけ文化部が無くなる中でも、夢を保ってきた。一時期は文化部で一番大きかったらしいよ。だから、僕らで終わるのは申し訳ない。でも、現実はね」


 霧灯は壁に書かれた部員名簿を見詰めた。紙に手書きで貼ってある。一番下に、「須王野々花」と野々花が書いた小さなボールペンの字がなんともみすぼらしい。


「入部した一年はののちゃんだけだ。再来年までに一年生が入部しなかったら終わってしまうんだよ。早くしないと、みな他の部活を決めてしまうし」


 水鳥高校は兼部は禁止である。問題は尽きなそうだ。


「追い出された女子たちに聞いてみたいんですけど……一年生の、どなたか分かれば聞いてきます」

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