第四章 涙色マシュマロと恋

*第四章ー1*のの、部員勧誘なう

*1*


「おはよお」とうとう直らなかった寝ぐせに1日の失敗を詰めたような気分。野々花はしっかりと毛先を跳ねさせて登校した。


 夜のぐちゃぐちゃ思考は、眠ることで解消はしたが、「あらあら」と母親が笑いながら朝ご飯を出すくらい、野々花の髪は元気である。


「やだあ、なに、その寝ぐせ」と親友のひろみがやって来て、素早くなおしてくれたけれど、今日の須王野々花は少々外はね気味、スネ気味である。


「はい、口開けて」


 野々花の状態をしっているひろみは、野々花が食べられるお菓子を持ち歩いてくれている。野々花は卵白と、大豆が天敵。従ってお菓子もむやみに買えはしない。


「えへ、ありがと」


「すねたお嬢様、天文部はどう? 怖い人がいるんでしょ? 一年生で噂になってるよ」


 椎名のことだ。野々花は「そんなことない」と手を振ってみた。

 実際の椎名砂葉はサバサバ系の良きお姉さんというイメージで女王と言ってもピンと来ない。


 朝のHRが始まる前の生徒たちは賑々しい。


「天文部、楽しいよ。今、みんなで配信も予定していて。とっても綺麗な夜空を作ってるの。星座の合宿は出来ないんだけど、みんなで。そうだ、良かったら天文部どうかな」


 友人たちは顔を見合わせて、言いにくそうに、順番に答える。


「あたし、もう調理部に入っちゃったからなあ……」

「あたしは吹奏楽の推薦で来たからね……」


 そうはうまくはいかないか。野々花は小さく頭を小突くと、席を離れた。


 聞いていたらしい女子が一人、やって来た。会話をしたことはない。別のグループの女の子だ。


「さっきの話……あたし、どこも入ってなくて、星座好きなんだけど、大丈夫?」


 野々花は顔を輝かせて、その子の手を掴んだ。もしかすると一緒に活動することになるのかも知れない。希望の星だ。

「うん、ようこそ天文部へ」

「わ、わからないわよ」

「うん、うん」


 一人でもいい。自分が何か出来たらと思う。みんな喜ぶだろう。


「放課後、西の校舎でみんなで準備しているの。良かったら来てください」

「ありがと、行くね」


 寝ぐせが治らない代わりに、早速野々花にひとつ、いいことがあった。それだけではない。苦手な日本史の朗読当番に辟易していたが、先生が席番号を飛ばして、野々花は免れた。お昼のお弁当はママのお得意オムライスで、ひろみたちの部活の話も楽しかった。


 これで、放課後に部員が増えれば、また少し楽になる。霧灯や椎名のお役に立てる。野々花はわくわくと声を掛けてくれた女の子を見ていた。


 女の子は目が合うと、にっこりと手を振ってくれた。


 大丈夫、確実。

 

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