7-1
*
とろりとした
フライパンが肉を揚げている間に、事前に寝かせておいたらしい生地を出してきて、ざっくりと細く刻むとグツグツと煮え立っていたお湯の中に放り入れた。今度はチーズをガリガリと削り始めたフードプロセッサーを横目に、きつね色に揚がった肉を掬い上げる。私の好物のシュニッツェルだ。
先程余らせていた卵をざっくりとスクランブルエッグに仕上げながら、茹で上がった自家製麺をさっと水で締める。そのままスクランブルエッグを引き上げたフライパンに入れて、細かく削れたチーズをまぶして絡め、丁寧に焼き上げていく。
多分、ロボットアームの使い所が絶妙に上手いのだと思う。
完璧に計算しつくされたタイミングと工程。無駄の一切挟まれない、流れるような動作。もはや美しいくらいに洗練された手並みだと思う。
「貴方の料理は、まるで音楽みたいね」
スルリと零れ落ちた言葉は、我ながらどこか本質を突いているようにも感じた。
エレジーは私の言葉に眼を見開いて、理解してくれたのかまでは分からなかったけれど、褒め言葉だと受け取ってはくれたようで、はにかむような笑みを見せた。
いつの間にか二度揚げしていた黄金色のシュニッツェルに、とろとろのスクランブルエッグと最近作り置きしてくれているザワークラウトを添えて、付け合せには程よくチーズが絡まって綺麗に焼き上げられた自家製麺のシュペッツェレ。最後に家庭菜園で育てたハーブとレタスを品良く散らして、どこの高級レストランかと問いたくなるような昼食が出来上がった。
「どうぞ、召し上がって下さい」
「ありがとう」
まずはおずおずとメインのシュニッツェルを口に運ぶ。
「おいしいっ」
今となっては本物の肉は高級品であり、代用肉が主流となっているが、かつては大して美味しく感じなかったそれは何故かジューシーでほろほろと口の中で解けるような気がする。サクサクとした衣の中から、じゅわりと旨味の詰まった油が溢れてくる。
シュペッツェレは出来たての自家製麺を使っていることもあって、もちもちして噛めば噛むほど甘みが出る。溶けたチーズの濃厚な味と絶妙に絡み合っていて、思わず口が綻んでしまう。最近すっかり私のお気に入りとなったザワークラウトは、どこか『おふくろの味』という感じがして、本当に何にでも合うなと改めて頷かされる。
「お口に合ったようで幸いです」
そう言って微笑むエレジーは、どこまでも完璧だった。最近では、食事中に立っていられるのも落ち着かないので、簡素な椅子をもう一脚買ってきて、私の対面に置いてある。もちろん、実際に彼が座れるわけではないのだけれど、気分の問題だ。
彼は私が食べている最中、そこに『座って』私の食べっぷりを眺めるのがお気に入りだ。最初こそ、じっと食べている様子を観察されているのは落ち着かなかったけれど、とっくに慣れてしまった。私が『おいしい』と食べるのを、あまりに嬉しそうにニコニコと見詰めるものだから、私としても特に不快なことは何もない。
「今日もありがとう」
「いえ、貴女は本当に美味しそうに食べてくれますから。作りがいがあるというものですよ」
そう言って、エレジーが出してくれた食後のコーヒーを呑みながら、最高の休日だと甘い溜め息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます