16-1
*
「私ってば、本当に馬鹿ね……」
前の時とは同じ
こうして待っている間にも、刻一刻とタイムリミットは迫っている。今この瞬間、リスクを承知で砂嵐の中に飛び込んだとしても、時間内に街へ生きて辿り着けるかどうか怪しいところだ。子どものように膝を抱えて、小さく息を吐いた。こんな砂嵐の中を飛び出して行けば、方角を間違えた
覚悟を決めて、シェルターの扉に手を掛けた瞬間だった。
「ディアナっ!」
この場で聞こえるはずのない声が、聞こえた。
「う、そ……」
慌ててシェルターの扉を開けると、砂と共に何かが文字通り転がり込んできた。最低限の運搬機能だけを搭載した探索機だ。それに酸素ボンベが積まれ、ハウスキーパータイプのロボットアームがちょこんと乗っていた。
「私の声が聞こえますか?話せますか?動けますか?」
ロボットアームがこちらに伸びてきて、ペタペタと異常がないかを確認する。矢継ぎ早の質問に目を白黒させながら、私はしっかりと頷いた。
「まだ大丈夫。身体機能に問題はないわ」
「良かった……」
「馬鹿じゃないですか、貴女っ……『外』に身一つで出るなんて、死にたいんですかっ?貴女の姿が消えていることに気付いた時、私がっ、私がどんな気持ちだったとっ!」
エレジーの悲痛な叫びを聞いた瞬間、自分がどれだけ
「っ、ごめんなさい……ごめんなさいっ」
後から後から涙が零れて、不意にヘルメット越しに、こつりと小さな硬い音が響いた。
「せっかく今日はこんな紛いものでも腕があったのですが、ヘルメット越しでは格好がつきませんね……貴女はよく泣きますから、これは本気でDOLLの運用を考えるべきかもしれません」
戯けたような口調で言葉を落とすエレジーの声は、まだ少し震えているような感じがしたけれど、私は気付かないフリをしてその優しい金属の手に頬を寄せた。ヘルメット越しで、これも格好がつかなかったけれど。
「どうして、ここに?」
「……『前回』の時の記録を漁ったのです。ここで発見されたと。正直賭けでしたが、他に思い当たる場所もなかったもので……お義父上を亡くされていたのですね。私は良く考えもせずに、あの資料を手渡してしまって」
「あんな情報だけで、何も分かるはずないもの。私が臆病者だっただけなの。ずっと言えなかったし、言う必要もないと思ってた。ううん、私の汚い部分を貴方に知られたくなかったの。本当は、今の私を形作ってるものなんだから、言わなくちゃいけないの分かってたのに」
「私も、貴女に言えていないことが沢山ありますよ。ディアナ」
私達は、顔を見合わせて小さく笑い合った。
「どうやら、大暴露大会が必要みたい」
「大会かどうかはともかく、私達には言葉が足りな過ぎたようですね。嵐が止むまで、貴女の話を聞かせてくれますか?」
「ええ。帰ったら貴方の話もね」
「勿論です。聞き苦しい話になるとは思いますが……それで、貴女の目的は果たせたのですか」
私は頷いて、ずっと手に握り締めていたものを彼に見せた。
「旧式のAI端末……お義父上のものですね」
全てを理解したらしいエレジーに、私は頷いた。そうして私の罪を語った。
意識を失った私を救いに来たのは義父だった。後からリンネ局長から聞いたことだけれど、私が手違いの依頼を受けて『外』に向かったことを知り、血相を変えて飛び出して行ったらしい。最後に私のパートナーからのデータ送信があった位置から場所を特定し、酸素欠乏症で倒れた私を発見した。幸いギリギリのタイミングで間に合ったことで、酸素を分け与えることで奇跡的に一命を取り留めた私を抱いて、ヘルヴストの街へと走った。
しかし残りの酸素量から、どう
私は訳も分からないままに街へと走った。足がもつれて転んで立ち上がって走って。それを繰り返すうちに、義父が死を覚悟して私を送り出したことに気付いた。それでも走り続けなければいけなかった。這ってでも街に辿り着かなくてはならなかった。それだけが、義父の助かる唯一の道だったから。
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