18-2

 私の言葉が何を意味するのかを理解したようで、彼女は息を呑んで私を見詰めた。やはり理解が早い。感情を持ったAIは、戦前の医療用AIを基本にして現代になってから開発されたものだとされているが、それは真っ赤な嘘だ。戦時中には既に『感情』は完成しており、戦後間もなくはそれを有したAIを黙って流用していたに過ぎない。今は新しく生み出されたAIが広く利用されてはいるが、基本構造はやはり戦前のものを利用しているゆえに大した違いはない。どうして世間に対してその事実を隠す必要があったのか?それは『私達』が軍事目的で開発されたものであったからに他ならない。愛を与え、人に寄り添うAIは、かつて人を殺すための兵器だったからだ。


「貴女がお察しの通り、私は戦闘補助用プログラムでした。今では個体識別番号KT183-11で登録されていますが、 かつての名前はコンプリーテッドKシリーズK7-01……『先の大戦』の遺物です」

「っ、でも、大戦中の戦闘用AIはほとんど『消去』されて、今残っているとしても医療用と家庭用AIだけだって……」


「むしろ逆です。戦闘用AIは、当時の各国の最高の頭脳と大量の予算を投じて作られた、最先端の科学技術でした。余裕のなかった新政府が、そんなテクノロジーの塊を丸ごとゴミ箱に捨てるなんて、資源の無駄遣いをすると思います?」




 ディアナは納得したような、納得のいかないような表情で黙り込んだ。聡明な女性ではあるが、真っ直ぐな人だ。公権力が人々に見せているのが、嘘で塗り固めた綺麗な顔だけなのだということを、頭では理解しつつも受け入れがたいことなのだろう。


「かつては軍事機密として語ることを禁じられていた話であり、今は政府の第一級機密事項として秘匿が義務付けられていますが、私の過去に関する話ですので、AICOである貴女は聞く権利を有しています。ただ、やはり気分の良くない話をせざるを得ないかもしれません。この世界の闇を、死者の墓を暴くような話ではあるのでしょうから……それでも、私のために聞いて頂けますか」


 彼女は目を閉じて私の言葉を聞いていたが、真っ直ぐに私を見つめ返して頷いた。


「聞くわ。聞かせて。貴方の歩いてきた道を」


 私は頷きを返して、過去の記憶に掛けられた最後のロックを躊躇いなく外した。




 軍事機密とは言ったが、私はあの痛ましい大戦の歴史を紐解くつもりはない。あくまで、その歴史の大きな流れの中で、流されて生きるしかなかったちっぽけな『私達』の事を語りたいだけなのであって、何かや誰かを批判したいわけではない。


 先の大戦は、別名『AI戦争』とも呼ばれ、どれだけ高機能な戦闘用AIで相手のAIを上回るかで勝敗が決していたようなものだった。ただ、人間の犠牲者を最小限に抑えるためにと始まったAI開発であったはずなのに、すぐにどれだけ多くの街と人をほふれるAIという名の兵器を作れるかが重点となった。そしていつしか、AIが主体となって掴み取った勝利では、一体誰の勝利なのかが曖昧になるとして、元のように人間が前線に立つようになるという本末転倒な戦いが一般的になっていった。




 私はその戦いの終盤に投じられた、戦闘補助用AI……皮肉なことに、後の『パートナー制度』立ち上げの参考となった、少年兵サポートAI計画の完成形と言われていた。少年達は、軍にとって一度洗脳させてしまえば従順に動く良い使い捨てのコマでしかなかった。要するに、その大戦における人間の兵の役割は、AIを現場で使役する『救国の英雄』として存在することだけだった。実際、戦闘補助と言っても、AIが全ての戦闘行為を請け負い、彼ら少年兵は大抵が戦闘機のコクピットに座っているだけの存在だった。


 ただ、例え駒でしかないと思っていても、戦う前に心を壊してここぞと言う時に命令違反でもされれば多大な損失となるのも確かであり、事実そのような事態に陥ってどの国も一度や二度ならず辛酸をめていた。そこで脆い心を持った少年兵達をケアするために、最初から人と同じ『心』を持ったサポートAIと組ませる計画が考案された。事前調査でも、負傷兵の心のケアを同種のサポートAIに担当させた所、満足の行く結果を出したことから積極的に投入されるようになり、感情を持たないAI同士のみの戦闘よりも、自らのマスターの命を守ろうとする『本能』から損害を最小限に抑える戦闘へと変化したことは軍のみならず政府も満足することによって、この計画は推進されることになった。



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