2-1
*
「……ナ……ディアナ」
耳元で
「おはようございます、ディアナ」
「ん……おふぁよぅ」
少し不機嫌そうな声が聞こえ、小さく
「私の新しいマスターは、随分と
「もう、びっくりした……朝からおどかさないでよ。ログの最終行が『びっくりして心臓発作を起こす』とか言う死因じゃ、死んでも死にきれないわ」
「でも、おかげで目が覚めたでしょう。私が何回起こしたと思ってるんですか」
「さあ……寝てる時の事まで、責任持てないわ」
エレジーは、その端正な顔立ちに青筋が浮かびそうになるのを、必死に
「あの、ピーチクパーチク
「だから、あれだけ早い時間に掛けてるんでしょ。朝は弱いのよ……それ以外は強いから安心して」
「全く……独りの時は、どうしていたんですか」
「長時間掛けておけば、いつかは目覚めるものよ」
彼は頭が痛いとでも言いたげに顔をしかめて、のそのそと起き上がって顔を洗いに洗面所に立った私に、呼び掛けて来た。
「朝食に、卵は食べますか?」
「うん、たまに食べてる……って、まさか、作ってくれるの?」
「それがサポートAIというものでしょう?前任者には、作らせていなかったのですか?」
私は、少し言うのを
「アレクは、トラウマで料理が作れなかったの」
「……悪いことを、訊きました。申し訳ありません」
目を伏せて頭を垂れるエレジーに、気にしないで、と肩を叩こうとして寸前で止める。彼と話していると、人間と話している時のように接してしまう。
眼の前の彼は映像。映像だから、触れられません。そう自分に言い聞かせながら、言葉にして伝え直す。
「気にしないで。私のトラウマじゃないもの。疑問に思ったことは、悩まなくて
「承りました」
「で、朝ごはんだっけ?」
「ええ、スクランブルか目玉焼きかオムレツ、どれがお好みですか?」
「オムレツ!オムレツがいい!ふわふわしてるやつっ」
「はいはい、了解です」
子供みたいな返事を返した私に、エレジーが苦笑してキッチンに去っていく。
本当に、AIっぽくないなあと思いつつ、手早く顔を洗って、きっちり化粧を済ませる。クローゼットから例の目立つ白い制服を出して身に
「出来ましたよ……っ」
先程とは打って変わって、背筋を伸ばして身だしなみを整えた私を見て、エレジーが目を見張った。
「見違えましたね」
「……それって、褒めてる?」
「褒めてます、褒めてます。貴女は、本当にオン・オフの激しい方のようですね」
呆れたように眉を下げて、どうぞ、とエスコートされた先では、
「わぁ、すごい……王様の朝ごはんみたい」
「さすがに、王族の方はもっと良いものを食べるとは思いますが、ありがとうございます」
少し照れたようなキラキラした王子スマイルと、テーブルの上のキラキラした朝食を交互に見詰めながら席に就く。
私では何度試しても、切ろうとすればボロボロになってしまっていた堅パンは、薄くスライスされて
「チーズオムレツだ!私、これ大好きなの。お母さんが昔、たまに作ってくれて。自分じゃ上手く作れないんだけど」
「お熱いうちに、どうぞ」
微笑ましそうな顔で勧めるエレジーの言葉に従って口に運べば、溶けるような舌触りと柔らかなチーズと卵の味が広がった。軽く振られた胡椒が利いて、薄く焼かれて堅さの
昨日まで私が食べていた朝食と、ほとんど変わらない材料を使っているはずなのに、人の作った温かいごはんはこんなにも
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