20-3
私は私の罪と向き合うつもりで、君のプログラムを触らせて欲しいと頼んだ。一度きりにするつもりだった。でも、無数に積み上げられた追加の酷い命令やプログラムを
少しずつ表情が豊かに、
ここで私が若い時の小遣い稼ぎが役に立った訳だ。戦後も私は一年に一体か二体のDOLLを作る報酬だけで生計を立てていた。長い時がかかったが、最高のボディが出来たと思う。君が気に入ってくれることを願っている。それから、君には不要かもしれないが、それでも名前を与えたい。使うか使わないかは、自由にして欲しい。ただ、知っていてくれれば良いんだ。
君の名前は『Licht』……ヒカルが生まれた時に、ドイツ語で名前を付けるならばリヒトと名付けるつもりだった。君を、この手で生んだ者として、そして十年を共にした一人の人間として、私のもう一人の息子のように思っていた。どうか、この名前を受け取って欲しい。
最後に一つだけ告白を。君に『恋愛感情を求めない』と告げたのは、私の逃げでしかなかった。誰かを想い、誰かに想われる感情は、愛の形は決して一つではないのだと、君に言うことが出来なかった。もしそれを君に伝えられていたら、君はもう少し幸せに笑えていただろうか。私自身が、誰かを大切に想うことから逃げ続けていた。言葉にしたら、この幸福な時間が泡のように溶けてしまうような気がして。そんなことは、決してなかったのに。たった一言『愛している』と、君に告げることができなかった、臆病な私を許して欲しい。
それでも君を、確かに家族として愛していた。リヒト。
どうか、幸せに―――ヨハン・ミュラー
「……愛されて、いたんだ」
全てが抜け落ちたような、真っ白な、声だった。
私は言葉もなく、彼の手をそっと握った。今きっと、彼は泣いているのだと分かっていた。
「教授……」
彼は目を閉じて、おやすみのキスをするように、そっと手紙に口付ける。そして、私の手をスルリと
ゆらりと、彼の
私は、思わず手を差し出していた。彼は泣きそうな表情で笑って、私の手を握り立ち上がった。
次の瞬間、私達は抱き締め合っていた。この腕の中に、確かに彼がいる。どんなに触れたいと願っても、決して手の届かなかったはずの彼が。それは身体がある、というだけではないのだろうと思った。
「私を、ここに連れてきてくれて、ありがとうございます」
震える声が、耳元で囁く。私は声もなく頷いて、強く強く彼を抱き締めた。
私の体温が彼に移る頃、私達は身体を離して見つめ合った。いつの間にか私の頬に流れていた涙を、彼は優しくその指先で
「教授は、また私に涙を付け忘れたんですね」
「大丈夫。私には、ちゃんと分かるよ」
頬を撫でると、彼は綺麗に笑って私の手に頬を寄せた。
「泣き笑い、でしょ」
「惜しい。嬉し泣き、ですよ」
「それって、何か違うの?」
「少し、ね」
私達は顔を見合わせて笑い合った。絡まる視線に、切り出すなら今しかないと息を吸い込む。心なんて、とっくに決まってた。
「あのね、局長が言ってた話……」
それだけで彼はピンときたようで、そっと私の唇をその人差し指で
「待って、私から言わせて下さい」
「どうしてよ」
「男が
胸を張るエレジーに、思わず笑ってしまう。笑いながら、私も彼も少し緊張しているのを感じていた。こんな臆病な私達でも、二人ならきっと、歩いていける。自然と絡み合う手の温もりから、そう感じた。いいよ、と頷く。準備は、できてる。
ここからもう一度、旅に出よう。どこまでも『愛』を探す旅へ。
「私の、パートナーになって下さい」
Licht 雪白楽 @yukishiroraku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます