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人間に近い感情を抱くことになったため、例えば主であるパートナーをその死で失ったり、手酷く
前置きが長くなったが、これらのエラーによって起こる全ての問題に対処するために設立されたのが、私の所属する Artificial Intelligence Countermeasure Organization―AI対策機構、通称
最初こそは技術的な問題に対するサポートにのみ当たっていたらしいけど、今では人々の生活にも余裕が出てきたからか、恋愛プログラムのようにメジャーなところから、幼児向けの教育プログラムのような生活密着型、軽犯罪者の社会復帰サポートプログラムまで、AIと人との関わり方が多岐に渡るようになってからは、対応すべき案件もネズミ算式に増えている。
結果として、AIに彼女を
それぞれのメイン業務に対応したセクションに分けられてはいるけれど、正直デスクワークだろうが、人間・AIを問わないカウンセリングだろうが、技術サポートだろうが、自分の脚を使っての聞き込み調査だろうが、それこそ何でも出来なければこの職場ではやっていけない。
『おはようございます。パートナー認証無効のため、本人確認をお願いします』
いつもはフリーパスの職場入り口で足止めを食らう。ここでも『パートナー不在』の弊害か、と溜め息を吐く。たった数日でも、パートナーAIがいないと困ることリストがどんどん増えていく。
「おはよう。ディアナ・ローゼンハイムです」
『顔・虹彩・声紋認証、共にクリアです。どうぞ』
「ありがとう」
受付嬢のホログラムに頷きを返して、歩みを進める。AI相手であっても、最低限の礼節を忘れないのが、この職場における鉄則だ。
十歳の時にAICOでの職業適性が出た時には喜んだものだが、正直に言えば正式に配属されるまではAICOサポート課の、噂に聞く激務を甘く見ていたのは確かだ。それでも二年の苦しい見習い期間を耐え抜いたからこそ、今の私があるのだと思うし、実際この職場を気に入っている。ここは、人とAIの関係の最前線だ。私の人生の全てが、ここにある。
サポート課のメイン業務は、人間の生死・転居・法律関係を取り扱う役所とAIの橋渡し役、というよりも半分は外部に置かれたAI専門部署のような形になっている。加えて問題が発生した時の調査の過程で、それに関与した人やAIのカウンセリングを行うことも多々あるし、何よりAICOの中でも現場出動率が圧倒的に高い。ともあれ依頼達成のためなら臨機応変に、どんな仕事でも
同僚達と軽く挨拶を交わしつつ進んでいると、同期のデニスに声を掛けられる。
「おはよう、ディアナ。君のパートナーは、まだ迷子なのかな?」
「おはよう、デニス。本日付けで配属される予定よ」
彼は私の返事に
「おっと、それじゃあ今日中に君をランチに誘わないと」
「残念ながら、今日のランチで顔合わせなの」
厳密に言えばランチの手前で、だけど。
「えぇ、前はアレクにずっと邪魔されてたから、チャンス狙ってたのにな」
「また今度ね」
「次に来る君のパートナーが、アレクみたいに怖くないことを願ってるよ」
その言葉に苦笑しつつヒラヒラと手を振って、こうしてアレクのことを誰かと話す機会も、もうないのだろうと少し寂しさを感じた。
パートナー交代の時はいつもこうやって苦しくなる。仕事だからと、関係を割り切っている人の方が多数派だけれど、私にとってはやはり『パートナー』であることに違いはない。
AICO職員のパートナーは、一般人とは異なり自分で決めることが出来ない。もちろん、お互いが強く望めば、ずっと共に組み続けることはできるが、そんな事例は滅多にない。
基本的に我々が組まされるパートナーは、長期のカウンセリング対象であることが殆どだ。長期間、公私の生活を共にして、前のパートナーとの関係で受けたAIの心の傷を癒やす。彼らは職務を
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