第7話、告白したくても、元の世界に戻っちゃうんだから…

 翌朝、ギルドへ行くと既にカエデさんがいた……

ギルマスの部屋にも一緒に付いてくる。


「おはようございます」


 挨拶をして部屋に入ると、麦ご飯が三膳用意してあった。


「おい!」思わず突っ込んでしまう……


「気にするな、家族水入らずの朝食だ」


「家族?」


「あら、言ってませんでしたか。コンゴウの妻、マリーでございます」


 そう言いながら、部屋の扉を閉めるマリーさん。


「俺は入婿だ。オヤジはマリーの父親になる」


 そんな情報はどうでもいいが……イノシシを期待してんだろうな、やっぱ。


「多分、イノシシを期待しているんでしょうが、まだ調理してませんよ」


「ガーン……」言葉と共に、涙目になるカエデさん。やっぱ可愛い……


「お前、期待させといてそれはないだろう」


「そうですよ。昨夜からカエデがどれだけ楽しみにしていたかご存知でしょうか」


 知らんがな。


「いいか、カエデはなお前のせいで幼児退行を起こしてるんだぞ!」


「えっ、俺のせいなの……ていうか、幼児退行?」


「そうだ!

俺たち夫婦がギルド勤めしているせいで、カエデをろくに構ってやれなかった。

カエデの面倒を見たくれたのはオヤジだが、飯は……弟子たちが作っていた。

知ってるだろう、あいつらの作る飯ときたら、やたらと塩味を効かせただけのろくでもないものばかりだ。

それでも、カエデは泣き言を言わず喰っていた。

2・3ヶ月に一度、俺たちが二人で休みをとれた時に、外で飯を食うようになったのは当然のことだろ。

だから、美味い肉は家族とのふれあいの時とカエデの意識に刻み込まれたようで、普段甘えられない分思い切り甘えてくるようになった」


「それでも、ここ数年はそんなきざしはなかったのよ。

でも、あなたのお肉を何日も続けて食べさせられたのよ!

それが急に食べられなくなるって思った時に、たぶん逆の思考で……甘えれば、きっとお肉を食べさせてもらえるって……」


 マリーさんは目に涙さえ浮かべている。


「理解したか、お前がどれだけひどい事をしたか」


「親子三人で美味しいお肉を食べられれば、少しは元に戻ってくれるかと……うっ……ううっ……」


いや、完全にあんたら夫婦のせいだろ……とは言えない。

発症のは多分俺なんだろう。


「はあ、まあ理解しましたよカエデさんの状況は。

でも、イノシシはそれなりに考えていますんで、今日のところは一角うさぎの香草焼きで我慢してください」


「うむ、分かってくれて何よりだ」


 何が楽しくて、家族団欒だんらんの食事風景を眺めているんだろう……

でも、カエデさんの楽しそうな顔を見られてよかったとするか。


「で、本題だが、領主への謁見が今日の午後に決まった。

15時に領主館で会おう」


「服装は?」


「普段通りでいい」


「手土産とかは?」


「気遣い無用だ」


「町の真ん中にある塔みたいな建物だな」


「そうだ」


「了解した。15時少し前に領主館にいく」


 そう言って部屋を出ようとするとカエデさんが「お肉~」といいながらついてきた。


「仕方ない。カエデの事はしばらくお前に任せる。

だが、何かあったら責任をとってもらうからな」


 何かってなんだ、責任ってどうとるんだよ……

そんな事を考えながら部屋を後にした。


「さて、5時間か……一旦家に戻って料理を作って……間に合うな。それでいいですかカエデさん」


「あら……気づいていたんですか?」


「ええ、お肉~と言った時にテレが入ってましたから」


「だってぇ……両親の告白は、流石に聞いてられなかったから……やめて~っ!って思ったら意識がはっきりしてきたの」


「幼児退行中のカエデさんも可愛かったですよ」


「やめてください!微かに記憶があるんですよ……

呆れましたよね……でも……できれば……せき」


「あっ、その先は少し待ってください。

俺はいつまでこの町にいられるのか分からないんです。

それがハッキリしたら、俺から言いますから」


「はい」


「サクラ、家までの時間を短縮する方法ってない?」


『瞬間移動で帰れますけど』


「えっ、そんなのあったんだ。もっと早く言ってよ~」


「えっ?」


「ああ、サクラとクロウは念話が使えるんだ。サクラ、カエデさんとは話せないのかい」


『大丈夫ですよ。カエデさん、サクラです。よろしくお願いしますね』


「あっ、こちらこそお願いします。クロちゃんもね」


『いっぱい撫でてほしいにゃ』


「あら、うふふ」


 俺たちは一旦町の門から出て、サクラの瞬間移動で家に戻る。


「えっ、ここがシュウさんの家なんですか。見たことがない品物ばかりで……」


「ええ、実は俺……この世界の人間じゃないんです。

なんか神様の世界のトラブルでこっちに家ごと紛れ込んじゃったみたいなんです」


「サクラちゃんとクロちゃんもですか?」


「ええ」


「普通じゃ信じられない話ですけど、シュウさんのお料理とこの部屋をみたら信じない訳にはいきませんよね。

……それで……元の世界に帰っちゃうんですか……」


「今は……こっちの世界でもいいかなって思ってます」


「ホントですか!」


「ええ、大切な人もできましたし……」


自然と顔が近づき……


『ウオっホン』


「えっ、……もしかして神様?」慌てて離れた。


「……?」


『そうじゃ、綻びも修復できたし、お前がどういう選択をするか確認に来たんじゃが、わしの気も知らんでイチャラブしとるじゃないか。

天罰落としたろうか!』


「まて、被害者は俺だろう!なんで天罰喰らうんだよ。

会社にだって迷惑かけてるし……」


『ああ、会社の方は、お前の関係で利益があがるようにしておいた。

お前が出社できないのは、そのプロジェクトの関係だということにしてある。

いつでも復帰できるぞい。

でどうするんじゃ?』


「できれば、この状態を維持したい。

可能なら、元の世界へも行き来したいし、物置も使いたいけど」


『まあ、この状態で安定してるから、わしも余計なことをしなくて楽チンだけどな。

元の世界は縁側から出入りできるはずじゃがのう……どれどれ……

すまん、ロックしてあったようだ。解除したから、好きな時に戻れるぞ』


「あと、向こうの金貨を、こっちで換金できないかな?」


『それは、スキルに設定すればいいじゃろうに』


「スキルでそんな事までできんのかよ!」


『スキルは両方の世界で使えるぞい。

じゃあ、わし忙しいからこのままにして行くぞ。何かあったらサクラに相談せい。じゃあな……』


「ああ、色々とありがとう……ございます」


 なんか、神様とタメ口きいていた事に罪悪感を感じた。


「神さまとお話できたんですか?」


「ああ、今よりずっと好条件だ。

カエデさん……俺、こっちの世界……ゴルの町で生活していきたいんだけど、……その……ついてきてくれるかい?」


「はい、もちろんです。もっと美味しいもの、いっぱい食べさせてくださいね」


それからさっきの続きで、長いキスをした。


「さて、そんじゃあ料理にとりかかるか……」


「私もお手伝いしますね」


 まずは、背ロースでトンカツ……いやイノカツだ!

調味料を気にする必要もなくなった。

油も十分あるし、パン粉と玉子とキャベツもある。


「カエデさん、このスライサーでキャベツ千切りにしてください!」

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