第29話、ドMなんて聞いてねえよ

「あっ、末永さんの案件は伺っています。

課長、私の担当にさせてください」


「なんだ、聞いているのか。

じゃあ丸川の担当で頼む」


「はーい」




「乳牛を100頭ほどでしたよね。

でも、牛を飼うって法的な制約があって結構むつかしいですよ。

場所によっては一頭でも許可が必要ですし、伝染病に関する管理者の選任なんかは抜け道がありませんし、定期的な報告も必須です」


「正規の取得はむつかしいって事だね。

酪農家に直接譲ってもらう方法は?」


「可能ではありますけど、一か所で数を確保するのは無理です。

それなら…、瞬・間・移・動があるんですよね」


「浅見のやつ…」


「アメリカへ行きましょう!

伝手もありますし、相場は押さえてありますから、適正価格で買えます」


「いや、行くんなら僕一人で行ってきますから」


「えーっ、そういうこと言うんですか。

じゃあ、バラしちゃおうかな、あの事」


「待て、何を知ってる…」


「浅見さんを抱きましたよね。嘘をついても無駄です。

私の嗅覚はごまかされません」


「ああ、抱いた」


「あれっ、普通はもっとうろたえて…

あなた、結婚してるんですよね」


「ああ、結婚してる」


「おかしいな…、奥さんにばれてもいいんですか」


「嫁も一緒だったぞ」


「まさか、3ピーなんて…」


「いや、5Pだぞ」


「そ、そんなアブノーマルな人だったなんて…」


「じゃあな」


「待ってください。瞬間移動のことをバラしますよ」


「そうすると、お前にそれをバラした浅見をお仕置きしないといけないな」


「えっ、そんな…」


「お前にもお仕置きが必要だよな」


「えっ、そ、それは…、どのような…」


丸川は、トロンとした目で頬を赤らめている。

こいつMじゃね…


「そうだな、鎖で天井からぶら下げる」


「は、はい。それから…」


「さ、三角木馬の上に…」


「はい」


「悪い、俺にはそういう趣味はない」


「ひどいです!その気にさせておいて…」


「浅見の奴、トンでもないのを紹介しやがったな…」


「コホン、では時差がありますので、今日22時に会社の前でお待ちしています」


「だがなあ、行ったことのない場所へはいけないんだ」


「写真と地図でなんとかなりませんか」


「それよりも、定点カメラとかありそうなんだが…」


スマホでチェックし、テキサスの定点カメラを発見する。


「カウボーイと言ったらテキサスだよな、ちょっとやってみる」


「えっ?」


シュン!


『長距離探査、ホルスタイン!』

「あれっ、まばらにしか…」


シュン!


「ホルスタインはほとんどいない…」


「テキサスは肉牛ですよね。もっと北にいかないと」


「お、オハイオ州は牧場が沢山ありそうだな。いや、あるな。

定点カメラはクリーブランドか」


「あっ、私も!」


シュン!


「ついてくるなよ」


「だって…」


丸川が左腕にしがみついている。


『長距離探査、ホルスタイン!』

「おお、当たりだぜ、一番多そうなのはこの辺だな」


「この時間に働いてる人がいるな。ちょっと聞いてみよう」


アメリカ人に見えるように認識をいじる。


「こんにちわ」


「うお、どっから来やがった!」


「牛を買いたいと思ってるんだけど、この辺で売ってくれる人いませんか」


「何頭くらいだ」


「50から100頭くらいです」


「一頭105万出すなら、放牧してある中から好きなだけ持って行っていいぞ」


「ホントですか!」


「運送は自分でやってくれ」


「支払いはきんでいいですか」


「ドルでも、金でも好きにしろ」


「今、6500/gくらいだから、6000円で換算して17キロでいいですよね」


「おつりは出せねえぞ、ガハハハ」


「じゃあ、17kgです。夜中に取りに来ますから」


「お、お、マジかよ!」


「純金です。間違いありませんから。

じゃあ、夜中に持っていきますから」


「…」


シュン!


「き、消えちまった…」




「一頭10000ドルなんて高すぎますよ!」


「いいんだ。余計な手間をかけるよりは手軽さを選ぶ」


「それに、防犯カメラでバッチリ撮られてましたよ」


「レンズを汚しておいたから大丈夫だ。

金をドルに換金しなくて済んだのもリスクを回避できたしな。

じゃあ、ありがとう助かったよ」


「浅見さんのところには、来るんですよね」


「ああ」


シュン!




こちら側の受け入れ地を整備してから、牧場に行くとさっきの男が待っていた。


「金は本物だった。

防犯カメラもそのままだ。

どうやって牛を連れて行くんだ」


「秘密にしてくれるか?」


「ああ、口は堅い」


「瞬間移動で連れていく」


「そうか。生後二か月の子牛を10頭連れていけ。

雄雌半分ずつにして、あそこの柵に囲ってある」


「いいのか」


「ああ。その代わり一つだけ教えてくれ」


「なんだ」


「異世界ってやつか」


「そうだ」


「俺の牛が、そこの基盤になるんだな」


「ああ、大切に育てるさ」


「町の名前は?」


「ドランという」


「SNSでアップしてもいいか」


「信じてもらえねえぞ」


「ああ、自己満足の世界だ」


「好きなようにしてくれ」


「ジョンだ」


「シュウだ」




こうして、90頭のメスと10頭のオス。プラス10頭の子牛でドランの牧場がスタートした。

牧畜犬ならぬ牧畜ゴーレムを10台制作し、全体を障壁で囲む。

あとは、搾乳ゴーレムも必要だろう。


すべての牛は鑑定でチェックし、故障や病気は治療してある。

妊娠中の牛も10頭確認済みだ。




カラーン  カラーン♪


ケビンの結婚式の日だ。

宣誓を終えて、皆に祝福される二人は嬉しそうだ。


「失礼ですが、モスバガさんですよね」


「おお、相談役のシュウさんではないですか」


「少し、お話させていただきたいんですが…」




「私とコンゴウとマリーは、同じパーティーでダンジョンに潜っていました。

あの頃は楽しかった。

自分の技量が上がっていくのは実感できましたし、信頼感もあった。

だが、二人ともマリーを好きになってしまったんですよ」


「きれいな人だし、優しいですからね」


「肉好きで、食べる姿が可愛かった。

そして、二人の気持ちを察したのか、マリーは道場を継ぐからと実家に帰ってしまった。

そこが分岐点になりました。

道場に入門して腕を磨く道を選んだコンゴウと、実践第一主義の私。

2年後です。コンゴウから連絡があり、腕試しをしたいと言い出しましてね。

勝ったほうが道場を継ぎ、マリーを娶ると」


「マリーさんをかけた決闘ですか」


「断りましたよ。

私の技術は魔物を倒すことに特化したもので、道場で対人の訓練をしているコンゴウに適うわけはありませんからね」


「それで、オヤジさんとマリーさんは結婚した」


「そうです。

ところが、あいつは未だにギルドにいるじゃありませんか。

とっとと道場を継げよと言いたいんですよ、私は。

でないと、マリーを諦めた私の立場が悲しくなるじゃないですか」


「失礼ですが、まだおひとりで…」


「ええ、マリーに未練がある訳ではありませんが、やっぱり単独でダンジョンに潜っていると、そういう機会もありませんからね」


「オヤジさんは、先生に何かあったら道場を継ぐと公言しています。

それと、秘密を守っていただけるなら、提案させていただきたいことがあります」


「シュウさんがマリーとコンゴウの身内だと知っていますからお話ししましたけど、口は堅いですよ」




「そうか、モスバガがマーメイドの元にな。

頼もしい用心棒ができたって訳か」


「マーメイドに年齢は関係ないからな」


「ああ、バーバラの曽婆ちゃんも抱いたしな…」

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