第28話、アサミンはフェチだった

メーカーへのプレゼンが終わるまで待つように言われ、やっと浅見と二人で話せる時間が取れた。


「当然、この世界じゃないわよね」


「ああ」


「自由に行き来できるってこと?」


「ああ」


「私だって、ライトノベルくらい読むのよ。

異世界ってやつよね」


「ああ」


「そこで末永君は自由にお城を使えるポジションにいる」


「ああ、そこの領主とは親友で、俺の嫁の兄でもある」


「写真のタイムスタンプを確認したわ。

亀から自宅らしい着替え風景、そして城。

瞬間的な移動が使えるのね」


「ああ」


「そういうのに憧れてたのよ。

でも、主人公は君で、私は脇役…」


「俺は、俺の物語の中で主人公をやってるだけだ。

お前にはお前の物語があるだろ」


「でも、私の物語には異世界はやってこない」


「こうして接点はできただろ」


「でも、私は変わらず会社へ通うわ」


「カエデというんだが…」


「最初の奥さんね、黒髪の人」


「彼女と出会って、向こうに永住することに決めた。

こっちの世界には親も兄弟もいない。

俺は向こうの世界に家族を求めたんだ」


「そうなんだ…」


「行き来できるのは単なる幸運だ。

俺は向こうの世界のためにこっちを利用している。

君は何で異世界にこだわるんだ」


「…そうね、子供のころ人魚に憧れたの。

今でも人魚の登場するアニメは欠かさず見てるし、ゲームだってするわ。

でも、本物の人魚はこんなものじゃないって違和感があるのね。

なんだろう、生の魚だってバリバリ食べるだろうし、セックスだってするはずだし、トイレにも行く。

そういったものを超越してなお存在する美しさみたいなものを求めてるんだろうと思う」


「ああ、人間の姿から海に飛び込むときの美しさは表現しがたいな」


「くっ、ズルいよ自分だけ…」


「泣くほどのことじゃねえだろう」


浅見は俺の胸に顔をうずめた。


「感謝はしてるわ。

本物の人魚の画像を見られた。思い描いたとおりの美しさだった。

そして、彼女たちの服を作りたいって心から思った」


「作るのかよ」


「今回のプロジェクトもそうよ。

人魚に服を着させたらってコンセプト。発案者は私。

だけど、あんなものじゃ彼女たちの魅力は引き出せていないわ」


「人魚の美しさは、彼女たちの肌の白さにもある。

胸にかかるソバージュの髪とかな。

それは写真を撮っていて感じたよ」


「もっと露出を多くすればいいの?」


「いや、逆だと思う。

チャイナドレスのスリットのようなピンポイントの露出の方がいい。

それと対比した下着、もしくはスイムウェアかな…

ああ、例えばジムだ。黒のロングコートみないなのに、ヒールの高いサンダル。

脱ぎ捨てたコートの下にスポーツブラとパンツ。胸元に光る汗からのシャワーシーン。

黒のコートを羽織って夜の波止場。パサっと落ちるコートと海に飛び込む女性がマーメイドに戻っていく…

ダメだな、イメージが貧困すぎる…」


「うーん、黒との対比ね。

あーっ、もう!ねえ、会わせてよ、あの金髪の子、奥さんなんでしょ」


「別にいいけど、あっ、晩飯でも食ってくか」


「えっ、いいの?」


「なあ、テイクアウトできる美味いパスタないかな」


「私の行く、テイクアウトもやってる洋食屋さんならあるけど」


「5種類のパスタを3人前ずつ。ついでにスープとサラダもセットで5人前頼む」




シュン!


「ただいま。今日はお客さん連れてきた。

日本の会社に勤めていたころの同僚で浅見。

こっちは、嫁でカエデにルシアにソフィアだ」


「浅見です。今日は突然モデルなんて頼んでしまってごめんなさい。

でも、おかげでバッチリです。一発でOK出ましたから」


「あっ、モデルのお話って浅見さんからだったんですか。

楽しかったです」


「私たちなんかがモデルで良かったんですか?

お化粧だって殆どしてないのに…」


「とても、体にフィットするお洋服で、素敵でした。

あんなお洋服着て、町に出かけてみたいです」


「浅見はマーメイドフェチなんだ。

ソフィア、見せてあげてくれる」


「はい」


パサッパサッ


シャラン♪


「ああ、本物のマーメイドだ…なんて美しいんだ…さ、触っても…」


「どうぞ」


「ああ、魚とは違う、体温の温かさがあるウロコ…ハアハア」


「そのヘンにしとけ、さあ食事にしよう。

今日はパスタを買ってきた。

ちょっとケビンたちに届けてくる」


シュン!


「おい、パスタを買ってきたから置いておくぞ」


「おお、ありがとう」


ケビンたちは営みの最中だった…




「私は…、その、同性愛者なんだ。

だから、末永君との間に恋愛感情は存在しない」


チュルッ


「まあ、そうなんですか。

マーメイドの仲間にもいますよ。同性しか愛せないって子が」


チュルッ


「本当ですか、ぜひ紹介してください」


チュルッ


「おいおい、食事中の話じゃないだろ」


チュルッ


「いや、人前でカミングアウトしたのは初めてなんだ」


チュルッ


「まあ、そうだろうな。好奇の目で見られるからな」


チュルッ


「今日は美形の子ばかりで、目の保養になりましたよ。

特にカエデさんの立ち姿の美しさに目を奪われました」


チュルッ


「カエデの姿勢の良さは女性の間でも羨望の的なんですよ」


チュルッ


「でも、妊娠してますから…」


チュルッ


「まだ、そういう段階じゃないですよね」


チュルッ


「妊娠してるんですか!驚いた、そんな感じはしなかったものですから。

あの…、お腹が大きくなる前に、その…、カエデさんの裸を見せていただきたいんですけど…」


チュルッ


「おい!、何を言い出すんだ」


チュルッ


「それなら、お風呂に入っていけばいいんですよ」


チュルッ  チュルッ  チュルッ




「す、すごいですね」


「そんなに見ないでください。恥ずかしいです…」


「引き締まった体なのに、筋肉質ではないんですね。

女性らしいラインです」


モミモミ


「な、なにを…あっ」


「張りのある胸ですね。妊婦なのにピンク色で…」


チロッ


「あっ、ダメですよ…妊娠してるんですから…」


「妊婦さんにとってダメなのは、精液が子宮の収縮を促すことなんです。

だから、こういう愛撫は全然問題ないんですよ」


「だ、だからって、そ、そこは…」


「おい、浅見…んぐっ」


「シュウ、なんだか、変な感じなんです…

カエデを見てたら、キュンとしちゃって…」


結局、浅見にもしてしまった。




「ああ、女性を愛しながらのセックスって気持ちよかった。

新しい扉を開いた気分よ」


「そ、そうか…」


「マーメイドの体も堪能できたし、またお願いね」


「お、おお…」


翌朝の会話である…


「さて、彼女たちの服を選ばないと。

モデル代も上乗せするから期待しておいてね」


「あっ、嫁たちの服を別枠で頼むよ」


「彼女たちの分はメーカーが提供するって言ってたわ。

気に入ったら写真を撮って送るだけでいいって。

会社宛てに送るって言ってたから、届いたらメールするわ」


「へえ」


「まあ、それを見てから追加するものを揃えればいいでしょ」


「分かった。後で会社には顔を出すから」


「まだ何か必要なの?」


「向こうで牛を流通させようと思ってさ。

牛乳がとれれば、バターやチーズなんかの乳製品も展開できるだろ」


「ふうん、私のトモダチが農水にいるから話しておくわ」


「それはありがたいが、そっち系は無しだからな…」

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