第32話、アメリカでミルクを売ろう…元会社員だけど

「ジョン!」


「えっ、シュウだよな…、それと…まさか…」


「はじめまして、ソフィアです」


「う、嘘だろ…」


「ソフィアを知ってるのか?」


「カエデとルシアとソフィア、全部10冊づつ買ってある。

もう、嫁と娘が大ファンでな…、呼んできてもいいか…」


「ああ、カメラも持ってこい。

アップしてもいいぞ」


「ま、待っててくれ。どこにも行くなよ」


ダダダダッ ジョンは駆けていった。


「すごくいい所ですね。風が気持ちいいです」


「ああ、牛たちの生まれ故郷だ」


ダダダダッ ジョンが戻ってきた。一緒に走ってきた娘と母親は立ち止まって絶句している。


「はじめまして、ソフィアです」


「ほ、本物?」


娘の胸にはソフィアの写真集が抱かれていた。


「あら、私の写真集…、恥ずかしいから自分では見てないんです」


「あの、サインしてもらっていいですか…」


写真集とマジックを差し出す娘。


「まだ、練習中なんです。第一号のサインです。

下手なんですけど許してね」


ソフィアに写真集を手渡して娘は母親に抱き着き、声をあげて泣いた。


「こんな田舎なので、ショッピングとかにも連れて行ってあげられなくて。

毎日、こんなに泥だらけになって家の仕事を手伝ってくれるんですよ」


「アニーは、三人の中でもソフィアさんの大ファンなんだ。

天使みたいだって」


ソフィアはサインを終えてジョンに手渡し、アニーを抱き寄せる。


「ヒック、汚れちゃうよ…」


「アニー。私はマーメイドなのよ」


「「「えっ?」」」


「だから土の大切さは良く知っているわ。植物を育み、牛を育てる。

素敵なお仕事よね」


「すてき?」


「そうよ。お父さんの育てた牛が、私の世界にやってきたの。

まだミルクは出せないけどね。いつか私の世界が、お父さんの育てた牛の子孫でいっぱいになるわ」


「そ、それって、ホントのこと?」


「ええ、マーメイドは嘘はつきません」


「だって、みんなが、お前のパパは嘘つきだって…」


「だから来たのよ。ほら笑って」


パシャッ パシャッ


「ママも一緒に」


「ええ、こんな事って…」


「ジョンも一緒に入れ。俺が撮るから」


「シュウ…、このシュウ・スエナガって…」


「ああ、俺だ」


パシャッ パシャッ


「ほら、笑顔じゃないと」


「お、おう」


「奥さんも、それじゃあ顔が写りませんよ」


「は、はい」


パシャッ パシャッ


俺は帽子に仕込んだウェアラブルカメラからSDカードを抜きだしてジョンに渡す。


「今の動画だ。これをアップすれば嘘つき呼ばわりする奴は減るだろう」


「いいのか」


「アニーを、嘘つきの娘にしておきたいのか?

だが、ここに観光客が押し寄せるかもな」


「そんな奴は相手にしないが」


「そうだ、目印を作っておこう。

そこの玄関先に像を置いていいか?」


「像?」


「ああ、ソフィアに抱かれたアニーの像だ」


大理石で作った像をコンクリートに固定する。


「ついでに手形も残しておくか。ソフィア、ここに手をついて。アニーはその横に」


「こ、こうかしら」


「ああ、これを固めて像の前に設置と。

これで観光客も満足するだろう」


「お前、観光スポットにするき満々じゃねえかよ…」


「うーん、牧場といえばソフトクリームだよな。

ジョン、レシピを開発するから取り立ての生乳を分けてくれないか」


「生乳ならいくらでも持って行っていいが…

なあ、さっきのマーメイドって」


「ホントのことだ。

だからこいつには国籍がない。

いずれ俺の方でも公開するから気にするな」




この動画は一気に拡散した。

初日こそ10万再生だったが、翌日には1億を超え、3日目には10億を突破した。


出版社や元の会社にも問い合わせが殺到する中、俺はDearMermaidシリーズの第7弾「Mermaid」を発売した。

ソフィアも金色の尻尾で参加している。

PVもアップし、こちらの再生数は50憶を突破した。


出版社と会社に迷惑がかかるため、俺は首相官邸に電話し面会を申し入れた。


「すみません、首相と面会したいんですけど」


「ご用件とお名前を伺ってもよろしいですか?」


俺は身元を明かし、マーメイドの国籍が欲しいと申し入れた。

多分、何回も段階を踏むんだろうな…


「TV会議でしたら、官房長官が対応できますが、10分がギリギリです」


「ホントですか!ぜひお願いします」


まさかの回答だった。

その日の午後、官房長官相手に、マーメイド20人の国籍取得を訴えた。

正規に仕事を受け、納税のために必要なのだ。

対応が遅くなった場合は、アメリカに行くとも伝えた。


さらに驚いたのは、そのあとの官房長官の定例会見でマーメイドの存在が公表されたことだ。

国籍法の第9条に大帰化という項目があるが、国会の承認が必要となる。

特措法を作るかどうするか、どちらにしても早急に検討すると公表された。


これに対して世界が反応した。

海洋民族であるマーメイドが、一国の国籍を持つのはおかしいとか、世界共通の特例を作るべきだなどが声明として発表された。

特に声高に主張してきたのはデンマークである。

人魚姫で有名な国だ。

本人の希望を優先すべきだというのだ。

本人の希望?ソフィア以外は国籍なんて要らないというにきまっているだろう。


日本はこれらに対し、暫定国籍という形で応じた。


官房長官に申し入れをしてから一週間後、俺はソフィアとバーバラを筆頭に残り18名を選抜し首相官邸を訪れた。

暫定国籍証の授与は記者会見室で行われ、その様子は各局がライブ中継をした。

こうして、ソフィアたちは末永の姓を取得した。


「この度はお騒がせしてしまい申し訳ございません。

こうして、無事に彼女たちが国籍を取得できたことに…、官房長官のご尽力に深く感謝しております」


パシャパシャパシャ


「今回、なぜ彼女たちを公の場に登場させたかと申しますと、私が彼女たちの生計を維持していかなければならないからです。

このソフィアを妻に迎えたことで、私は1000人からのマーメイドに対して責任を負いました。

あっ、日本での妻はカエデです。向こうの世界では一夫多妻制が認められており、その辺りはご理解ください。

ご存じのとおり、マーメイドは基本裸です。

ただ、人間の町で暮らす以上、1000人の衣類、食事、住居その他諸々を調達する必要があり、その資金として金を売却しようにも法的な制約がかかります。

私が鶏肉を1トンも購入すれば、色々と確認されます。

そんな中で、アメリカのジョンが牛を譲ってくれました。

ネットでも公開されていますが、彼の牛は順調に育ち、来月にも最初の子牛が生まれます。

そうすれば、乳をとり、マーメイド達に牛乳を飲ませてやることができます。

国籍がなければ病院にもかかれませんし、子供を産むのも困ります。

今回のことは、彼女たちのために行ったことで、決して世間を騒がせようとして行ったものではありません。

今後とも、私どもの活動にご理解とご協力いただきますようお願いいたします」


全員が立ち上がり、深く礼をする。


パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ


「以上、末永修氏の会見でございました。

日本国といたしましても、その影響性や人道的立場からできうる限りの支援をしていきたいと考えております。

興味本位でない範囲で、質問をお受けしたいと思います」


サッ


「はい、どうぞ」


「マイマイTVの田中です。

今、官房長官は人道的と言われましたが、マーメイドは人間と考えてよろしいのでしょうか?」


「それは私から申し上げます。

人間と交わり、子をなすことが確認されています。

ただ、子供はマーメイドとなる女子のみで、男性は生まれません。

これをもってご判断いただければと思います。

なお、彼女たちの益とならない検査などは一切お断りいたします」


「日日新聞の浅井です。

食事などは人間と同じなんでしょうか」


「はい、ネギ、ニラ、ニンニクも今のところ問題なく食べています。

お寿司や肉料理も私と同じように食べていますので大丈夫だと思います」


「海外タイムスのジョニーです。

その、裸に対する抵抗感とかはないのでしょうか」


「まったくありません。

人間の世界でも、50年100年前は裸で暮らす民族が大勢いましたよね。

逆に、こちらの倫理上で、彼女たちの胸を隠して撮影しました」

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