第45話、古代だか現代だかのエジプトに行ってみた

オセロットはたちまち兵士達の人気者になった。


「もし、アメリカ大陸に人間が入り込まなかったら…という、仮設の世界を体験できるのだろうか」


「ひょっとしたら、人間すら誕生していない可能性がありますからね」


ダダダダッ!


「どうした!」


「ぞ、ゾウです」


「なに!」



射殺されたゾウは、体高2m体長3mで小型のゾウだった。


「まさか、コロンビアマンモスの末裔か…」


「すまないが、今後はできる範囲で麻酔銃を使ってくれないか。

いろいろと確認してみたいんだ」


「アメリカにもゾウがいたんですか?」


「150万年前はベーリング海峡が地続きだったんだ。

その頃に、多くの動物がシベリア経由でアメリカ大陸にやってきた。

当時の人間も同じなんだが、もし人間が入り込んでいなかったら、絶滅を免れただろう大型の哺乳類も確認されているんだよ。

このゾウは、おそらく北アメリカに多く存在していたマンモスの子孫ではないかと思われる」


「でも、小さいですよね」


「平原の草だけ食べるのであれば、小さいほうが有利なのかもしれないね」



ゾウは本国に運ばれ調査が始まっている。

その夜、星空がアメリカのものと照合され、ここがテキサスであると結論付けられた。


「さて、明日から本格的な調査を始めるとして、今日は帰ろうか」


そう、何もここでキャンプをする必要はない。

グリーンホールを抜ければ現代なのだから。


兵士は3交代で常駐するようだ。

基地から電源ケーブルを引いているので、電気は使い放題である。

投光器で周囲を明るく照らし、食事も交代制で格納庫内の仮設キッチンでとる。


翌朝、プレジデントがやってきた。


「ここが、テキサスだとは信じられないな」


「星の確認で、間違いなく同じ地点です」


「大陸の方は?」


「本日から確認に入ります」


「これは?」


「この地のオセロットですよ。

なついてくれましたので、餌付けしようと思います」


「我が家のペットで持ち帰りたいが…」


「個体数を確認してからですね」


「シュウ、夕方には会見を開きたいのだが、同席してくれるか」


「ええ、オセロットと一緒に同席しましょうか」



俺は、軍とは別行動だ。

軽四駆を収納から出して、まずは日本の場所に行ってみる。


日本は列島の形で存在した。


「人の気配はないね」


『人類が生まれていないのでは』


「そうかもしれない」


次に中国へ移動してみると、揚子江流域に集落が見えた。

集落といっても500軒程度のものだ。

数人が集まりこちらを指さしている。


さらに黄河流域、メソポタミア、地中海沿岸、エジプトと集落を発見したが、大きくても1万人程度のものだった。


「ぐるっと回ってきましたが星全体で数万人程度の人がいました。

大陸は、現行のものとそれほど違いません。

火が使われています。

アメリカ大陸には人間の痕跡は見えません。

4大文明…、あっ、インダス流域は未確認ですが、まあ、それなりの大きな河には人が住み着いているようです。

まだ、接触はしていません」


「すると、紀元前2000年頃のイメージか。

ひょっとすると、金属の発見に至らず、生存域を拡大できなかったのかもしれんな」


「ニュージーランドにモアがいましたよ」


「なに!あの、ジャイアントモアか!」


「ええ、上から見ただけですが大きかったです」


「うう、我々も早く行きたいが、まずはアメリカ大陸だな」



その日の夕方、プレジデントにより全世界に向けた会見が行われた。


「我々は、この世界とは違う世界というものに直面し、対応を迫られてきた。

ここにいる、シュウ・スエナガ氏の属するユーフラシア連邦もその一つであり、先日魔界と呼ばれる世界とも接触した。

その後の調査で、これらは地球でありながら違う時間軸を歩んできた”並行世界”パラレルワールドの可能性が出てきた。

現在、我々はとある世界と接続し、その仮説を検証すべく確認を行っている。

その世界では、人間は発現したものの、いまだ発展しておらず、しかもどうやらベーリング海を渡っていない世界である。

つまり、アメリカ大陸に人が入っていない、未開の状態である。

今後、もう一つの世界における各国の調査に入ることになるが、全人類の問題として協力をお願いしたいと考えている。

すでに、現地に入っているシュウ・スエナガ氏からも一言いただきたい」


「シュウ・スエナガです。

最初に、今回アクセスした世界の地形を一部ご覧ください」


「このように、現在の地球に似通った地形となっています。

これは、その世界で遭遇したおそらくアメリカ大陸のゾウです。

ご存じのように、アメリカ大陸では、マンモス種がいましたが、絶滅しています。

おそらくは、マンモス種の子孫と思われるゾウが生息しているのです。

今、抱いているのは、その世界で友達になったオセロットです。

おそらく、現在のオセロットと違わないと思います。

今後、なるべく向こうの世界に影響を与えないレベルで、調査を進めたいと思います。

つきましては、動物学や植物学などの専門知識を持たれた方々のご協力をお願いします。

なお、向こうの世界の所有権は認めません。

もし、それが争いの種になるようでしたら、ゲートは閉じます。

以上です」



このセンセーショナルなニュースは、世界中を駆け巡った。


アメリカは、先発隊として各国2名を選抜し、現地入りを許可することにした。


俺は、とりあえず現地の人と接触することにした。

対象に選んだのは、エジプトだ。



「こんにちわ。

遠くから来たんだけど、ここは何という町?」


「ケメトだ。

変わった猫を連れてるな」


「ここよりも北の寒い地域で育った猫なんだ。

ネコは好きかい」


「エジプトのネコは神の使いだ」


「エジプトは国の名前?」


「そうだ、上エジプトと下エジプトの二つの国がある」


「魔法は使えるの?」


「魔法とはなんだ」


「こうやって、指から水を出したりする能力」


「うおっ、お前は神の使いなのか?」


「うーん、近いかもしれない」


「ならばファラオに会ってくれ」


「やっぱり統治しているのはファラオなんだ」




「ファラオは体調を崩しておるので私が対応させてもらう。

ファラオの娘、ネフィタリア・ビビじゃ」


「シュウ・スエナガです。

もしよろしければ、私が診ましょうか」


「お前は医師なのか?」


「多少の心得はあります」


「国の医師は、ただの食あたりじゃと申して居るが、わらわにはそう思えぬのじゃ」


「腹痛ですね。それならば治せると思います」


「そうか、ではこっちじゃ」


ファラオは脂汗を流してうんうん唸っていた。

こういう場合、もっともらしく振舞った方がいい。

簡単に治してしまうと、たいしたことはなかったと思われるからだ。


「痛み出したのは、いつ頃からですか」


「昨夜の夜中じゃ」


「食事は何を」


「パンとワインと、ひつじ肉じゃった」


「痛むのはこのあたりですか」


軽く押すとひどく痛がった。

虫垂炎かな


『治癒!』 『クリーン!』


「どうですか?」


「お、治まったぞ…」


「再発する可能性もありますから、半日ほどは横になっていてください」


「シュウ、そなたは本当に神の使いなのか」


「僕の神は、あなたたちの神とは違いますが、神の使いであることは間違いありません」


神様にいただいた力だから、まあ、許容範囲だろう。


「サクラ、虫垂炎だよな」


『ええ、炎症を抑えたのでもう大丈夫でしょう』


「おぬしは、ネコと話せるのか!」


「ええ、この二匹だけですけど」

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