第4章 並行世界

第44話、アメリカの並行世界にいってみた

パラレルワールド、それは同じ時間軸をいくつもの並行世界が存在するというものだ。

それは、例えば膨張を続けた宇宙が収縮に移行する時、数億分の1秒の違いで分裂したり、地球に隕石が衝突した衝撃で分裂したりしてできた世界。

すべての世界は、一秒の誤差の中に存在する。

起点がどこなのかは誰にもわからない。そう神であっても。


その中の一つに現在の地球世界が存在した。

別の地球には、別のシュウ・スエナガが存在するかもしれない。

この30年の間に分裂が生じていればだが。


そして、それぞれの世界はすべて隣り合っていて、ふいに穴の開くことがある。

それが例の穴で、ひょっとすると俺の家が巻き込まれたのもそういったトラブルかもしれない。



「これが、俺の立てた暫定の仮設です。

ですが、確認する方法はありませんが、ひょっとしたら、今の地球とほぼ同じ世界が存在していたらヒントになるかもしれません」


「そうすると、一見別の世界のことと思える魔法も、相対性理論が成立しているということになる」


「質量とエネルギーは等価関係にあるというやつですね。

例えば、魔法を使い続けると極度の空腹に襲われたり、虚脱感を感じます。

保有する魔力と魔法の関係では比例しているように感じますね」


「君の感じていることが本当だとして、我々はどう協力すればいいのかね」


「例えば、その星を一周回って地形を撮影してきます。

地球の地形と比較して、どう違うのか。また、夜空を撮影して、地球のどこから見た夜空と一致するのかチェックしていただけると助かります。

もし、可能ならば、その星を一周して地形を撮影できるような機材があると助かるんですけど。

そうしたら、僕は町を探して生活様式などを確認することができます」


「面白い提案だね。

それならば歴史学者や地質学者を巻き込んで全体的なチェックもやってみよう。

例えば土のサンプルや動植物のサンプルも比較対象にして類似点の確認など面白いかもしれないね。

先日魔界で捕獲されたドラゴンは、地球の白亜紀の恐竜に似た種類のものがいるらしい」


「ネズミは、きわめて現在のネズミに近かったらしいですよ」




こうして、異世界プロジェクトが始まった。

手始めにユーフラシア全体を照合することから始める。


土、海水、空気、植物、動物、昆虫に魚。

地形の撮影は、無人機を提供してもらった。

これをチーターに預け、時速1700kmで航行してもらうよう改造した。

時速1700kmというのは、地球の自転速度だ。


こうして、地球の地形と比較してみると、ヨーロッパの大部分が水没し、かわりに東アジアが隆起している。

スイス以南のアフリカ大陸も隆起し、ドラゴンのいたあたりが北アメリカで南に大陸が続く。

北極海は氷に閉ざされており、南極に大陸らしきものが見える。


ジュールは東南アジアからインドにかかる地域で、ゴルは日本。ダゴンが中国だ。


「地形的に、似通った部分は多いですが、決め手となるものは見つかりません。

人の祖先があらわれたのが200万年前で、ホモサピエンスは20万年前に現れます。

文明の痕跡がみられるのは、たかだか5千年前からです。

仮に、5千年から20万年前の間に分離したとすると、それなりに近い種の動植物が見られるはずです」


「では、動植物の確認報告です。

これまでのところ、まったく同じ種というのは見つかっていませんが、特に変化の乏しい樹木で近似種が見つかっています。

もう少し古い樹木であれば、あるいは同じものが見つかる可能性は高いと思います」


「古いというか、長寿のもの。例えば屋久杉などはどうでしょうか」


「その前に、シュウさんの家の夜空ですが、現在の神奈川県とまったく同じです」


「とすると、屋久島は完全に内陸ですね。うーん地形がわからないですね。」


「アルプスあたりの杉を調べてみましょうよ」


「わかりました」


「あとは、遺伝子の解析待ちですね」




人の遺伝子に関して解析した結果、同じ祖先から分岐したことが判明した。

杉も、まったく同じ種のものが見つかり、地層からは少なくとも新生代第3期までは同じことが分かった。


「パラレルワールド云々は別にして、少なくとも同じ地球ということは間違いないと判断してよいだろう」


「なあ、シュウ君。我々を向こうの世界に連れて行ってもらえんじゃろうか」


「今は、ユーフラシア全体を一つにまとめているとことですから、ダメです。

その代わり、別の穴を開けて、そこで何をしようと関与しません。

ただし、安全は保証できませんけど。

それか、向こうのアメリカ大陸ですね。ドラゴン、いえ恐竜の住む世界ですけど」


「うっ、ジュラシックパークか…」


「ですが、オホーツク経由で人類が行けなかったのか、それとも滅んだのか、興味はあるな」


「それよりも、どこか軍の倉庫みたいなところで、地表から10mくらいの穴を開けて、本腰を入れて調査した方が面白いんじゃないですか?」


「そうか、車両どころかヘリや無人機を入れて探索できるな」




こうして、テキサス州某空軍基地の格納庫内に拠点を整備し、検証が行われることになった。


「じゃあ、ホールを開けますよ」


「頼む」


俺は、それっぽい呪文を唱えて直径10mの穴を開けた。

一応、すべて録画されている…

便宜上、この穴はグリーンホールと呼ばれる。


すかさず陸軍の兵士が観測装置を投入する。


「現地は草原180度確認するも、危険物は見当たりません」


「第一班、突入!」


「「「了解!」」」


ダダダッと、8名がグリーンホールに吸い込まれていく。


「オールグリーンを確認」


「第1小隊、突入」


「「「了解」」」


50名がグリーンホールに入っていく。


「オールグリーンを確認」


「第3中隊、展開せよ」


「「「了解」」」


200名が、車両と共にグリーンホールに吸い込まれていく。


これから、前線基地を構築するのだ。


俺も中に入り、長距離探査ロングレンジサーチで周囲を確認する。


「半径10キロ以内に、大きな生物はいませんね。

ちょっと、空から確認してきます」


空に飛びあがると、クロウとサクラもついてくる。

クロウは雑種の黒猫で、サクラはノルウェージャンフォレストキャット。二匹は俺の飼い猫だが、神様に特殊な能力を与えてもらってからだいぶ成長した。

今では、尻尾を除いて体長1mもある。

ちょっとした、大型ネコ科動物のようだ。


「シュウ、オセロットです」


「本当だ、近づいてみようか」


10m離れて降り立ち、敵意はないとイメージで伝えてみる。


体長1m。クロウと似た体格だ。


クロウとサクラ用に茹でた豚肉を取り出して、前に置いてみる。


『食べていいよ』


念話で伝える。


オセロットは、地球世界でもテキサスあたりから南アメリカにかけて生息する美しいネコ科動物だ。

好奇心が強く、人間にも慣れやすい。

ヒョウ柄で、ガオー系の鳴き声を出す。


グルルルル


まだ警戒している。


初めてのネコと遊ぶには、レーザーポインターだ。


オセロットの足元に赤いポイントを照射し、動かす。


ピクッと反応する。

ユラユラユラ


とびかかる姿勢を見せる。


ふいに、1mほど動かす。


堪らず飛び掛かるオセロット。


次第にエサの方に誘導してからレーザーを消す。


一瞬、キョロキョロするが、次第に興味は足元のエサに…


俺の方とエサと交互に見てからかじりつく。


半分ほど肉塊を食べてから、もう一度こちらをみる。


おいでと念話をおくると、こちらにやってきた。


喉から首元にかけてなでてやると、嬉しそうに喉をならす。

クロウは、残りの肉を食べているが、サクラがすり寄ってくる。


ネコ類も個体によっては体に障られるのを嫌がるものもいる。

俺はオセロットを抱き上げ、ベースに戻った。


「オセロットです。

地球と同じみたいですよ」

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