第11話、料理人ではないけど、食堂を運営することになった
「それで、スタッフはどんな人を集めればいいの?」
食堂の方は、お義母さんであるマリーさんが責任者に決まった。
ギルドの直営店である事から、純利益の30%を俺がもらい、あとはギルド職員にお任せでよかった。
「そうですね。クリーンのスキル持ちは必須ですけど、あとは味覚の鋭い人、清潔な人、笑顔の人くらいですね。」
「人数は?」
「混雑時を考えて、厨房に三人は欲しいですね。フロアに二人と会計に一人ってところですか」
「テイクアウトはやるの?」
「様子を見ながらですけど、下の酒場でお弁当の販売をやってもらえれば分散できますよね」
「それはいい考えね。どうせ昼時なんて空いてるしね。
それで、スタッフの教育は任せちゃっていいのよね?」
「ええ、大丈夫です」
スキル「講師」をセットすれば、料理の作り方や、素材の加工法、接客指導も的確に伝授可能だった。
なんか、万能マシンになった気分だ。
「じゃ、講習会は3日後で、新規オープンは一週間後でいいわね」
「はい、それと5日後の夕方にプレオープンをやりましょう。
ギルドの職員だけでなく、領兵団にも声をかけて、無償で振舞う代わりに感想をもらうって形で」
「へえ、宣伝も兼ねてるのね。いい考えだわ」
「それで、メニューの方なんですが、とりあえずはイノ丼と、親子丼、唐揚げ丼の3種類でどうでしょう。
スープ付きで銅貨2枚(800円)を考えているんですけど。
弁当は唐揚げ弁当一種類で同じ金額です」
「えっ、安すぎるんじゃない?」
「町の食堂と同じレベルですよ。 この金額なら毎日でも食べてもらえるかなって感じです」
「そうだけど・・・これだけ美味しければもっと高くていいと思うんだけど」
「薄利多売ってやつです。利益率を下げる分多く買ってもらう。その代わり、食器は自分で下げるとか、カウンターで直接受け取ってもらって、スプーンやフォーク、子供の取り皿も自分で持って行ってもらうとかのセルフ方式にするんです」
「じゃあ、フロアの二人って何するの?」
「誘導係とテーブルを綺麗にしたり、相席をお願いするとかですね」
「ふうん、やっぱりシュウッて変わってるわね。
普通は、儲け中心よ」
「採算は十分にとれますし、何度でも来たいって思ってもらう方が大切ですよ。
じゃ、僕は機材の準備がありますのであとはお願いします」
町の人口が2000人程度だから、多く見ても200食・・・は多すぎかw
100食出ればいいところだろう。
原価率50%として、1日4万円の利益・・・月120万。俺の取り分は40万ってとこか。
平均の給料が15万って言ってたから、6人で90万・・・ありゃ、足んねえよ・・・まあ、原価削るしかないよな。
食材は自分で調達か・・・。
玉子はドラッグストアで売ってる一個10円で、一人前2個。鶏肉も大量買いすれば100円/100gで仕入れられるから原価は・・・ありゃ、調味料と玉ねぎ入れても100円ちょい。
イノシシは自分で獲ってきて、玉ねぎと牛丼のタレ業務用・・・あれっ?
唐揚げは肉100gとして、唐揚げ粉と油・・・一人前200円くらい・・・
麦飯は一人前50円として、味噌汁がひと袋10円のがあったな・・・光熱費入れても、原価率は40%で十分だな。
弁当用の容器は・・・ポリ製なら20円以下だけど、紙製で50円か・・・
ゴミのことを考えると高いけど紙製だな。とりあえず500個注文しとくか。
牛丼のタレと昆布だし醤油、唐揚げ粉にサラダ油と。
あとは・・・そうだニワトリ。
ペットショップから、直接販売先に取りに行くよう連絡があった。
♂10羽に♀50羽。一羽あたり2000円程度だ。
レンタカーで2tの平ボディーを借り無事入手。
受け取ったら見えないところで瞬間移動する。
当面は数を増やすためにオスメス一緒に飼うが、ニワトリはメスだけにしておいても日に一個の無精卵を産む。
7個くらい産んだら抱卵を始めるらしい。 このへんはザムザくんに伝えておかないといけない。
オス同士は序列争いをするというから、負けそうな子は遠慮なくいただこう。
配合飼料も一緒に購入したが、ヒヨコが生まれ出したらヒヨコ用の配合飼料が必要となる。
多分、一人じゃ無理だから、先生にお願いして応援を出してもらおう。
こんな事をしていると2・3日はあっという間に過ぎる。
食堂の講習会に、プレオープンの仕込み。
そしてプレオープン当日を迎えた。
「皆様、本日は食堂のリニューアルオープンを明後日に控えたギルド食堂マリーネにお越しいただき、ありがとうございます。
・・・
俺は来客者を前にして挨拶していた。 なんでこうなったのか・・・お義父さんとお義母さんの陰謀によるものだ。
料理長的立場の俺は、裏方に徹するつもりでいた。そう十分前までは・・・
ギルド職員と領兵団。道場のメンバーに対するプレオープンだったはずが、領主がお見えになりギルマスはその対応にあたっている。
更に、隣町のギルマスが来所され、実は副ギルド長だったマリーさんが対応していたりする。
挨拶が終わったら、そっちに料理をお持ちしなければならない。
カエデはマリーさんの方だ。
「チーフ、あとは任せたぞ!」
「はい、承知しました」
応接室のドアをノックし、声をかける。
「シュウです、お食事をお持ちしました」
「おお、シュウ君、すまないね突然押しかけて」
「いえ、このようなところへお越しいただき、ありがとうございます。
こちらが、本日提供させていただいております、イノ丼・親子丼・唐揚げ丼になります」
領主用に、小盛りした茶碗を二人の前に並べる。
「あれ?」 ギルマスが変な声をあげた。
「イノ丼はイノシシのドンブリですね。 他のものはどのような食材をお使いなんですか?」
「親子丼も唐揚げ丼も、私の国のトリ肉を使っています。
クセのない淡白なトリですので、親子丼は煮込んであり、唐揚げは衣に味がついています。
親子というのは、同じトリの玉子でとじてありますので、まあ本来はトリの子供はヒナなんですがね」
「玉子って、結構貴重品ですよね。そんなに多くの玉子を確保できるんですか?
それに、お高くなってしまうのではなくって?」
「全部、街中の食堂の価格と同じくらいです。3品とも銅貨2枚でお出ししますから」
「まあ、そんなにお安く出せるんですか」
「ええ、ところで冷めないうちにお召し上がりいただいた方が・・・」
「うん、お言葉に甘えていただこう」
「あれ?」 またギルマスが変な声をあげた。
「お召し上がりいただきながら、少し話を続けさせていただきたいのですが」
「うん、私も続きを聞きたい」
「実は、先日ご了解いただたいた郊外の土地に、そのトリの飼育施設を作っています」
「うんうん、・・・ちょっと待ってくれ。 このイノ丼ってやつ美味すぎる」
「あら、親子丼も素晴らしいですわよ。 タマゴがふわふわで、お肉にもしっかり味がしみこんでいますわ」
「唐揚げも、この前のよりカリッとしてるし、肉の旨みがジワっと染み出してくる。
領民の食生活が改善されるのは大歓迎だよ」
「ええ、そこなんです。 トリの繁殖が順調にいけば、遅くとも1年後には玉子と鳥肉を市場に提供できます。
原価計算はできていませんが、最終的には玉子10個を銅貨1枚で提供できればと考えています。
玉子は栄養価も高く、様々な料理に使えますから、一般家庭の食生活が変わると思います」
「そんな金額で出せるのか! それなら、一般家庭でも毎日食べられるじゃないか」
「そんな夢みたいなことが実現できるんですか?」
「今、40羽のメス鳥がいます。 早ければ、一ヶ月後の魔物暴走の時期あたりには5倍程度のヒナが孵ります。
そのヒナが、玉子を産むようになるには120日くらいです。その時点で、メス鳥は140羽くらいまで増えます。
次のサイクル、つまり今から300日後には300羽以上のメス鳥が確保できます。
半数は増やすために残しますが、オスの肉や一部の玉子はその頃から出荷を見込めますし、日々増えていきますから出荷個数もそれなりに期待できると思います」
「夢のような話だが、もし実現可能だというのなら、いくらでも協力しようじゃないか」
「ええ、婦人会の方でも、協力いたしますわよ」
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