第10話、養鶏場を開設したいんだが、誰かやってくれないか

 家に帰ってメールをチェックするとペットショップから鶏入荷の通知が届いていた。車で取りに行き、帰って道場に瞬間移動する。


「先生、この間話したニワトリです。 しばらく、面倒をお願いします」


 注意事項と、配合飼料を渡して丸投げする。

この世界では、クリーンというスキルがあるので、スキル持ちであればそれほど手はかからない。


 そういえば……ふと思いつき、家に戻る。

キーボードを認識させ、倍々攻撃を「仮想キーボード」に書き換え、音声で起動した。

すると、視界の下方にキーボードが現れる。両手をキーボードの位置に合わせタイプしてみた。

正直なところ、タイミングが難しいが、それも慣れてくれば容易になる。


 これでどこでもスキルを書き換えられるため、例えば出先で瞬間移動に書き換え帰ってこられるのだ。

しかも、一度設定したスキルであれば、二度目はスキル名だけで発動することも分かった。


スキルエディット:音声発動「スキル」

         スキルの書き換えが可能となる

鑑定:音声発動「カンテイ」もしくは対象に意識を集中する。

   対象のステータスや本質を視界内に表示する。

無限収納:音声発動「シュウノウ」

     排出時は「デロ」。

     専用空間に生物以外を収納もしくは排出する。

     時間経過による劣化を防止する。

言語変換:常時発動  言葉・文字を自動で変換する

絶対防御:常時発動  物理・魔法の攻撃を受けても全て自動で反射する。

体力・魔力自動回復:音声発動「回復」  体力と魔力を全回復する。

状態異常無効:常時発動  全ての状態異常を無効化する。

治癒:音声発動「チユ」  あらゆる傷を治療する。

仮想キーボード:音声発動「キーボード」

        視界下方にキーボードを出現させ入力可能になる。


こんな感じで、9スキル設定し、最下部は書き換えて使うようにした。



 次は、物体を自在に加工する「クラフト」を設定し試してみる。 

素材さえあれば、鉄球のコーティングや、武器・道具を自分で作成できるスキルとなる。

とは言え、手元に鉄球はあるが銀なんてある訳もなく、悩んだ末に思い当たった。

コーティングの練習なら、アルミでいいだろう。アルミ箔なら台所にある。

そして、鉄球10個に0.1mmの皮膜をイメージしてコーティングしていく。

完璧だ!


 翌日、銀の鉱石が適量あれば試験できる事を伝え、その翌日領兵団と共に効果試験を行うこととになった。

領主館で20cm四方の銀塊を受け取り、鉄球200個にコーティングを施す。

アラソンで注文してあったスリングショットも無事受け取りこちらには「強化」をかけておく。


 ここまで来て、シュウは自分の特異性を隠す必要性を感じられなくなっていた。

中古の軽四輪駆動オートマチック車を50万円で入手し、「クリーン」と「強化」、更に部分的な「摩擦係数軽減」でレストア。

ガソリンも知人からドラム缶で購入する。

40リットル以上のガソリン保管は、消防法で届け出が必要だからだ。

これで、馬に乗ることを回避。自身のお尻を守ることができる。

前回はしばらくまともに歩けないくらい痛かったのだ。


 翌朝、車に俺とカエデとお義父さん。 領兵団は馬で出発する。


「なんだこの速度は!」 「機械式馬車ですから」


「なんだこの安定感は!」 「4輪独立サスペンションですから」


「なんで涼しいんだ!」 「エアコンついてますから」


 10kmなんて、時速40kmで15分だ。

カエデはキャッキャと喜んでいる。

全てのガラス部分には、アルミの合金であるジュラルミンでガードを取り付け、フロント部にもガードを施してあるため、ちょっとした装甲車並みになっている。



 領兵団の見張り小屋で後続を待つこと15分。 

全員集まったが、小休止が入る。


「シュウさん、機械式馬車とやらは本当に早いですね。

馬車に馬が負けるなんて……情けないですよ」


 この間手合わせしたムラ君だ。


「僕の国で、200年かかって進化した最新式ですからね」


「ああ、シュウ君の国と戦争したら確実に負けるな。

敵国じゃなくてホントによかったよ」


「そうそう、なんたって食いもんが違うからな」


「あっ、今度ギルドの食堂を運営することになりましたから、オープンしたら食べに来てくださいね。

肉料理やドンブリのメニューを用意してお待ちしていますから。

それに今、道場で玉子を沢山産む鳥を試験的に飼っているんです。

そっちが軌道に乗ったら、卵料理も提供できますからね」


 カエデが食堂の宣伝をする。


「それは楽しみだ。 この間、領主館でご馳走になった料理は、とんでもなく美味かったからな。

家に帰って家内に自慢したら、なんで自分だけって怒られちまったよ。

これで埋め合わせができるな」



 さて、迷宮である。

銀の玉がかすっただけで、スケルトンはバラバラになるし、ゾンビやマミーは行動不能となった。

本来、物理攻撃が効かない悪霊系にも効果があった。

もちろん、俺以外にも試射してもらっている。


「驚いたな、ここまで効果的だとは……」


「しかも、うまく狙えば一発で2体・3体と突き抜けていくしな」


「こうなってくると、次の魔物暴走は射的大会になっちまうな」


「こらこら、気を抜くんじゃない。

シュウ君を見てみろ。 

これだけ上手くいったにもかかわらず、もう次のことを試してるじゃないか!」


「団長、シュウは別格だと諦めようじゃないか。

俺も、色んな冒険者を見てきたが、銀の塊から糸を繰り出して魔物を討伐する奴なんて見たことがない。

ありゃあ、錬金術の世界だ」


「いや、奴の作った銀をコーティングした戦斧や銀糸を織り込んだムチ、それにカエデさんが使っている銀製のレイピア。

どれも実用性がありながら、装飾も見惚れる程だ。

あいつは優れた鍛冶師としか思えませんよ」


「料理人でもあり、冒険者でもあり、そして一番は私の旦那様でーす。テヘッ」


「ウーッ、うちの婿とはいえ、なんか腹が立ってきたな」


「そうか、じゃあ団で引き取ろう!」


「やらん!」



 銀玉の効果試験は大成功に終わった。

その日のうちに、ギルマスと団長で領主様に報告され、銀コーティング弾の量産とスリングショット200丁を受注した。

銀の効果を発見した俺は、報奨を含め、金貨200枚(800万円相当)を受け取った。

そして、城壁に隣接した土地の使用許可も得た俺は次の事業である玉子とニワトリに取り組む事にした。


「本当にできるの?」


「ああ、大丈夫だと思う。

スキルに土魔法と強化をセットして、外側に堀を作って内側にその土を使った城壁を作る。

城壁も堀面も熱で乾燥させて強化で固めれば完成だ」


「じゃあ、堀沿いに植樹でもして公園みたいにしましょうよ」


「あっ、それいいね。 ベンチとか作っておこうか」


「堀の土を一旦収納で取り込み……そうか、収納の中で圧縮とか加工して取り出せるようにしてやろう。

まったく、便利なスキルだよな」


「そうね。神様に感謝しなくっちゃね」


「ああ、君とも出会えたし……」 チュッ


「よし、『収納』『圧縮』『加工』、『デロ』」 簡単に、長さ10m×幅1m×高さ5mの壁ができた。

これを繰り返して、幅50m×長さ200mの養鶏場ができた。


「あとは鶏舎だな。鶏舎もおんなじ造りでいいだろう。」


「それで、ここを運営する適任者はいるの?」


「ああ、ザムザがクリーンのスキルを持ってた。

今も、道場の鶏はザムザが一人で世話してる」


「へえ、そんな特技があったんだ」


「ああ、剣の道は断念して、本気で取り組みたいって言ってきた。

そうだ、ここに部屋も作って、住み込みで……」


住み込みと聞いて、ザムザの将来に不安を感じるカエデだった。

お嫁さん、来ないよ……

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