第9話、迷宮ってところに行ってみた。俺は会社員だっての

 領主館での謁見も終わり、ギルドへ戻る。


「あらあら、カエデちゃんなの。少し会わないうちにお嬢さんになっちゃって……お母さん、こんなカエデちゃんを見られる日がくるなんて思わなかった……」


 俺の方から、結婚の話をするとマリーさんは喜んでくれた。

そのまま四人で道場へ行き、先生にも報告する。

同時に、領主館で出した料理も、少量だが提供した。


「ふん、領主館では衝撃的すぎてロクに食わなかったからな……

なっ、なんだこれは……周りはサクサクで、噛むと肉汁が溢れてくる」


「カツレツですよお義父さん、厳密にはイノカツかな。

肉にパンの粉をつけて、油で揚げてあります」


「まだ……お義父さん言うな~!」


「これは……鳥の肉を揚げてあるのか?」


「ええ、唐揚げという料理です。

このタルタルソースも合いますよ」


「全部美味しいわ。

これからの食事が楽しみね。我が家は最高の料理人を手に入れたわ」


「あっ、それなんですけど、この町に生活の拠点を作っていきたいので、ギルドの上の食堂の話を正式にお受けしたいと思うんですが」


「いいのか?」


「ええ、肉の収集もしたいので、冒険者の活動を中心にして、食堂は仕込みだけやったらあとは他の人に任せたいんですが、それでもいいですか?」


「ギルドで美味しいものを提供できるなら十分よ。ねえ、コンゴウちゃん」


「まあ、そうだな」


「まて、道場の飯……いや後継者はどうなるんだ!」


「まあ、オヤジになんかあったら、俺が道場を継ぎますよ」


「道場の食事は、食堂からオカズだけ提供って形もできますよ。

そうそう、食堂用のサンプルですが、親子丼を作ってみました。よろしかったらどうぞ」


 麦飯の上に具を乗せた親子丼を人数分用意する。


「なっ、なんだこれは……このフワッとしたのは卵か……

そんな贅沢品を使ったら、相当高くなるだろ。冒険者の懐じゃあ無理だぞ」


「ええ、今出回っている卵は、アヒルの卵ですよね。もっと玉子を産む鳥に心当たりがありますので、そっちも人を雇って運用しようかなと考えています。

町の城壁の外側って、使えるんですか?」


「まあ、領主の了解さえとれれば問題ないだろう」


 この町では、結婚の承諾が得られればそれで結婚が成立する。

カエデさん……いやカエデはその日から俺の妻となった。

瞬間移動で家に帰り、軽く食事して入浴する。ゴルの町には入浴の習慣がないため、一緒に入ることになった。


「そんなジロジロ見ないで、シュウのエッチ!」


 まあ、お約束であり、身体を重ねる。


 翌日、カエデを伴って会社にいく。正式に辞表を提出するためだ。

会社の方へも、神様が手を打ってくれていたみたいで、既に辞意は伝わっていた。あとは書類を整えるだけである。

会社の得た利益は相当な額になったらしく、特別退職金として200万円が振込まれることになっていた。

入社2年目だと、本来退職金など出ない。ありがたい話である。


 会社の帰りに宝石店へ寄り、結婚指輪を購入する。プラチナのリングに、申し訳程度のダイヤが埋め込んである。

その指輪を持って教会へ行き、二人だけの結婚式をあげる。

俺に家族はいないから、他に報告する必要もない。飛び込みでいっても、教会は親切に対応してくれた。


 家に帰って通販や直販で色々と仕入れをする。

近所のペットショップで鶏のつがいも2組み手配してもらったり、肉のスライサーやミキサーの購入。

やる事は山のようにある。

カエデにもIHや電子レンジの使い方、カップ麺のつくり方?などを教えていく。


 翌日、ギルドへ顔を出したところ、迷宮へいってスケルトン退治などの実践訓練を受けることになった。

同行はお義父さんだ。カエデは実家で荷物をまとめるという。


 北の迷宮まで10km。

馬で30分かかるが、馬に乗れない俺は当然お義父さんの後ろに乗る。


「ええい、鬱陶うっとうしいからそんなにくっつくな!」


「離れたら、落ちちゃうじゃないですか~」当然のやりとりだ。


 北の迷宮の傍らには領兵団の見張り小屋があった。

挨拶をして、作りおきの親子丼を差し入れる。


「ありあとやっした!」 領兵は体育会系のノリだよね。嫌いじゃないよ。


「領主への挨拶の時も思ったが、お前ってホント便利だな……」


「一家に一台、あると便利なシュウちゃんです」 受けなかった。


 お義父さんの後ろにくっついて行こうとしたら、先頭を歩かされた。

サクラにライトボールを出してもらい、慎重に迷宮地下1階を進んでいくとムカデのバケモンが現れた。


『バン!』 火球で退治すると、お義父さんから刀の峯で叩かれた。


「迷宮で火なんか使ったら、空気がなくなるだろうが!」 ごもっともです。はい。


 帰ったら雷球か氷槍に書き換えよう。ちなみに、足元は湿っておりヌルヌルする。氷か風が無難かな。

地下一階と地下二階では、大ムカデ・大ナメクジ・大ヒルの他に虫系しか出なかった。


「お前、初めてだよな・・・何で最短コースを知っているんだ?」


 実は、サクラがショートレンジサーチというスキルを持っており、最短コースで次のフロアに向かえる。

ちなみに、クマとかを探知していたのは、ロングレンジサーチという広域タイプらしい。

地下三階でゾンビとスケルトンに遭遇する。


『鑑定!』


「お前、鑑定まで持ってんのかよ……」


「すみません、静かにしてください」


「……」


*** ゾンビ ***


動く死体

アンデッド

 色々特性の羅列が続く

・・・・・・・・・・

弱点

・光系魔法、陽光か強い光、銀



*** スケルトン ***


スケルトンコアに骨が結合された魔物

アンデッド

 色々特性の羅列が続く

・・・・・・・・・・

弱点

・スケルトンコア、光系魔法、陽光、銀



 こんな感じだった。

とりあえず、物理攻撃で屠っておく。


「どちらも弱点に銀がありますね。特にスケルトンは、銀に触れると骨の結合が解けるみたいです」


「お前の鑑定って、そんな事まで分かんの……」


「銀の鉱脈とかって知ってますか?」


「ああ、西の鉱山だな。そこも迷宮化してるが……」


「迷宮の入口に銀を張って……いやダメだな、後ろのやつは骨を乗り越えてくるか……

じゃあ、銀の玉を作って、スリングショットで撃ち抜けば楽に倒せるかな」


「お前、突拍子もないこと言い出すな。 効くかもしれんが、結構費用がかかるぞ」


「じゃあ、鉄球に銀でコーティングするのはどうですか?」


「まあ、試してみる価値はありそうだな」


 その日は、そこで中断してギルドに戻る。


「銀は、専門の掘削チームがいるから、増産するよう領主に言ってこよう」


「でも、効果を確認してからの方が良くないですか?」


「いや、可能性が見つかった以上、経過も報告した方がいいだろう。

例えば、槍の先に銀の玉をつけて殴るとか、銀の盾を作ってアタックする方法もあるからな。

そういう方面は領兵に任せた方がいいだろう。銀の扱いも、銀細工師がいるしな。

どちらにしても、スケルトンの溢れてくる時期まで一ヶ月程だ。

できる事はやっておこう」


「そうですね。流石はお義父さん」


「よせ、気持ち悪い……

スリングショットの本体は鍛冶職に手配するから、お前は伸びる紐と鉄球の手配をしてくれ」


「分かりました」


 カエデさんも荷造りが終わっていたので、瞬間移動で家に帰る。

アラソンのお急ぎ便でスリングショットの替えゴムを200本、ついでに、銀のコーティングで使えそうな革手袋・ゴーグル・防塵マスク・長めのピンセットなどを手配しておいた。

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