第8話、領主相手だからって、もう出し惜しみしないぞ
領主様への手土産はペアのクリスタル製ワイングラスにした。
同僚の結婚式で出された引き出物だ。
それなりに豪華な化粧箱に入っているし、この世界にはガラスがないため、喜ばれるだろう。
即席で作った料理とワイン数本にブランデー、ウイスキー、バーボン。
料理には冷凍食品のハンバーグやエビフライ、ポテトフライも加えてチンしてある。
もちろん、ソースとマヨネーズ・ケチャップ・マスタードも忘れてない。
缶ビールも10本追加した。
元の世界に行ける以上、出し惜しみはしない。
料理は、全てカエデさんが試食済みだ。
それから、ちょっとだけ日本の街に出て、カエデさんの服も買い薄くメイクもしてもらった。
初めて見る町並みにキョロキョロしていたが、時間的余裕がない。
サクラの瞬間移動で町に戻るともう15分前だったので、あわてて領主館にいくとギルマスが門で待っていた。
「誰だそいつは、カエデをどうした!」
カエデさんは口元を抑えて笑いを
俺も無言でカエデさんを見る……と、気づいたようだ。
「いかがかしら、お父様……」
水色のノースリーブワンピースが風に吹かれて裾を
シースルーのサマーカーディガンがカエデさんの白い肌を際立たせていた。
「お……おま……」放送禁止用語はダメですよ。
「さあ、時間がありませんから行きましょうか、お義父さん」
俺も、一応ラフ目のジャケットにネクタイ、綿パンに革靴だ。
「お……おとうさん……だと!」
領主は古代ローマで使われていたキトン風チュニックの上にトガという一枚布を巻きつける装いで、婦人はキトンだった。
同席者は他に領兵団長と、副団長2名。
口を切ったのはギルマスだった。
「自衛組織一位、二位の推薦により、長らく不在でありました十五位が決まりましたので、ご挨拶に伺いました」
「うん、ご苦労様。
私は領主のセキと言います。妻はアマンダ。君の名前は?」
「はい、シュウと申します」
「シュウ君だね。色々と大変だろうが、よろしくお願いします」
領主は腰の低い、くだけた方のようだ。
「コンゴウ殿、疑うわけではないが、門下生でなく突然現れた青年だとか。
できれば、お手並みを拝見したいのですが……なにしろ、女性同伴で謁見など初めてのこと……」
副団長と紹介された片方、タケゾウさんだったが
「あらっ、もしかしてカエデちゃん?」 夫人の方が気づいたようだ。
「アマンダ様、ご無沙汰しております」
「えっ、まさか七位のカエデさん!失礼いたしました」
「いやいや、タケゾウ殿のお言葉ごもっとも。シュウ、その格好で大丈夫か?」
「問題ありません。何をおみせすれば……」
「では、うちの15位相当の者と模擬戦をお願いしましょうか」
全員で中庭に出ると団員が勢ぞろいしていた。
ジャケットを脱いでカエデさんに手渡すと、それを見ていた団員の視線が突き刺さってくる。
「スキルは禁止、木刀での一本勝負とする。では、始め!」
すっと、自然体に構える、
うーん、13席のシンラさんほどではないけど、それなりの強さ。確かに互角だろうな。
中段の構えから、一合二合と切り結ぶが、双方とも崩れはない。
ただ、クマほどの緊迫感はないと感じたので、意識的にスキを見せると乗ってきた。
シャツに掠るくらいのギリギリの間合いだ。パチっとボタンが弾けとんだ直後、俺の木刀が相手の肩を捉えていた。
「それまで!」
「団長、まだやれます!」と抗議する相手。おいおい、右肩を抑えてるじゃないかよ・・・
『治癒』で治療してやった。
「ほお、回復スキル持ちですか。これは貴重な戦力ですね」
団長さんの評価ももらった。
「実は、シュウは他にも面白いものを持ち込みましてね。」
そういうとギルマスはスリングショットを取り出して、鉄球を空に向けて打ち出した。
ああ、見たことのある場面だ・・・
「ガーゴイルですよ。今まで手が出せませんでしたが、こいつのおかげで気が付くとこうして狩っています」
「ほう、簡単な造りだが、確かに有効ですな」
もう、いつでも補充できるため、強化しておいた俺の分を差し出す。
「よろしかったら、団長さんも使ってみてください。需要があれば、いつでも取り寄せますから」
「おう、本当か!うむ、喜んで使わせてもらうよ」
領主の部屋に戻り、改めて申し出る。
「若輩者ですが。よろしくお願いします。
それから、領主様にお使いいただければ幸いです」
手土産のワイングラス入の箱を婦人に手渡す。収納まで持っているのかとササやきが聞こえる。
「まあ、何でしょう?」
箱を開けて絶句するアマンダ婦人。
「シュウさんの国で作るコップなんですよ。
透明ですから、綺麗なお酒を注ぐと宝石みたいにキラキラするんです」
「お時間があるようでしたら、俺の国の料理も持ってきていますので、どこかテーブルのある場所をお借りしたいのですが」
「うん、今日は特に用事は入っていないから構わないよ。じゃあ、食堂に移動しようか」
急な予定変更で、メイドさん達が慌てている。
「あっ、一通り用意してきましたから、取り皿とフォークだけお願いします」
メイドさんたちも、ほっとしてくれたみたいだ。
食堂に移動し、まずはワインを3本収納から取り出し、ロゼだけ栓をあける。
それを持って、カエデさんが領主夫妻のワイングラスに注ぐ。
ほう、とか綺麗とか聞こえるが、俺は自分の作業に没頭する。
人数分のワイングラス(安物)と、アルミのパーティー皿に盛り付けた料理の数々。追加のお酒と、氷。ペットボトルのソフトドリンク。
「では、準備が整いましたので、ギルマス、乾杯のご発声をお願いします」
「えっ、……お前は、ホント突然だよな……
まあ、仕方ない、では、ゴルの町の安全と発展を願い、乾杯」
「「「カンパイ!」」」
全員が少しだけ口をつけてグラスを覗き込む。
「しっかし、透明な器でみると、ホントにキラキラしてるよな」
「ああ、見た目で酒の味も変わりそうだな」
「まさか、想像もできないような贈り物をいただけるなんて、感謝のしようもありません」
「お酒によって色も変わります。もし、ワインで物足りない方がおられましたら、こちらをどうぞ」
安物のロックグラスを30コ用意した。
国産ブランデーXOの封を切り、卓越したデザインのボトルを傾けるとコッコッコッと特有の音と香りがする。
少量ずつ、全員に配り説明する。
「少し強いお酒ですが、普通は手で温めて薫りを楽しみながら呑むお酒です。
料理も、私の国のものです。さめないうちにお召し上がりください。
こちらのソースと香辛料も、ご自由にお試しくださいね」
「まったく、シュウ君には驚かされてばかりですね。
優秀な執事ばりの進行もできるし、カエデさんとの息もぴったりだ」
「そうそう、それにこのお洋服……これもシュウさんから?」
「ええ、シュウさんの国のお洋服だそうです」
「あら、うっすらと……お化粧?」
「そんな見ないでください……恥ずかしいです」
「あらあら、あのカエデちゃんが……こんなお嬢様になるなんて……
うふふ、それで、どこまで進んであるのかしら?」
カエデさんが助けを求めるように俺を見る。
「はい、まだお義父さんの許可はいただいておりませんが、結婚したいと思っています」
ブフォーっと、盛大に吹き出す音が聞こえた。
「今朝、カエデさんに何かあったら、責任をとれと言われましたので……」
「いいじゃないですか、これほどの逸材を逃すのは町にとっても損失と言えますよ。
もし、ギルマスがダメだと言ったら、領主権限で認めますよ私は」
「あらためまして、お義父さんカエデさんとの結婚を認めていただけませんか」
「ああ、今朝の時点で諦めていたよ、娘を頼むぞ」
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