第12話、嫁に手を出したらタダじゃおかない。俺の怒りを思い知れ!
領主の次は、隣町のギルマスか・・・
「サクラ、隣町ってドロンとかいう名前だっけ?」
『ドランです。 人口1万人ですから、この町の5倍ですね。
ユーフラシア郡の中でも2番目に大きな町になります』
「この町が接しているのってそこだけだよね。
そういえばさ、この町ってヒューマノイドタイプが混在してるって言ってたけど、殆ど見かけないよね」
『ギクッ・・・いえ、ドラン側の山脈にドワーフ族が暮らしています。
炭鉱もドワーフ族の管轄になっているんですよ。
獣人やエルフも小規模の集落に住んでいるんです。ほら、イノシシ狩りに行ったような集落です』
「なるほどね。 まあ、獣人をモフりたいとか無いからいいけどさ。
俺にはサクラとクロウがいるからね」
「・・・ありがとうございます」
会議室にやってきた。ドアをノックし声をかける。
「シュウです」
「どうぞ」
俺はマリーさんの斜め後ろに立つ。
「うちの料理長になりますシュウです。 シュウこちらはドランのギルドマスターであるマックさんとゴールドクラス冒険者のガンセキさんよ」
「シュウでございます。 若輩者ですがよろしくお願いします」
「料理人などどうでもいい。 この素材であるトリをよこすのかよこさないのかハッキリさせてくれ」
「トリですか・・・」
「貴様には聞いてない!」
「ですが、トリはすべてシュウの所有ですから・・・」
「問題は町対町の外交上にある。 個人の所有だろうがギルマス権限で取り上げればいいだけの事だろう。
それともコンゴウはその程度の権限もないというのかね」
「「シュウ・・・」」
カエデとマリーさんがすがるようにこちらをみたので、小さくうなづいておいた。
「少し検討させてください」
「な、何を・・・」
言葉を待たず部屋をあとにする。 確か先生が食堂にいたな。
「先生、実は・・・」 会議室での出来事を報告する。
「で、お前はトリを渡したくないんじゃな」
「ええ、せっかくやる気を出しているザムザのためにも、出来ればお断りしようと」
「うむ、少し前なら躊躇してただろうが・・・シュウ、お前1500人の軍隊を相手にできるかな?
断るという事は、その覚悟が必要って事じゃよ」
「1500人ですか・・・団長やお義父さんクラスがいると手こずりますが、まあ何とかできると思います」
「西の山脈を通る道は一本じゃ。 街での戦を避けるには、あそこで叩けば良い。
まあ、わしとコンゴウは気楽に動けるが、団は無理じゃな」
「本当にいいんですか?」
「いつまでもドランの奴らに大きな顔をさせるってのはつまらんからのう。 まあ、やってみい」
「はい! ありがとうございます」
会議室に引き返す途中でマリーさんが駆け込んできた。
「シュウ、大変よ! 返事があるまで預かるって、カエデが連れて行かれたの」
「分かりました。
サクラ、カエデの匂いで追えるな」
『容易いですわ』
「シュウ・・・回答は?」
「1500人程度なら、俺一人でも蹴散らしてみせますよ」
「そう、多分シュウなら可能ね。 気をつけてね。 カエデの事、お願い」
外に出ると走り去る馬車が見えた。
「サクラ、馬車の前に瞬間移動!」
今日は料理用のスキルばかりで、ろくなスキルをセットしていない。
収納から2m鉄筋を取り出して道を塞ぐ。
「どけ小僧!」
御者の言葉を無視して馬車の扉に手をかけるも、後ろから肩を掴まれた・・・と、左脇腹に痛みが走る。
見るとナイフが生えていた。
そのまま引き倒される。
「あっ・・・」
油断だった。普段はカウンターとか防御用のスキルは必ずセットしているのに、今日に限って外してある。
治癒すら外してあったのだ。
馬車は走り去るが一旦落ち着こう。
「サクラ、治療系持ってる?」
『ハイキュア!』
サクラの呪文で肉が盛り上がり、ナイフを押し出す。
「まったく、スキルに頼り過ぎいているからこんな醜態を晒しちゃうんだろうな」
『その通りですね』
「まあ、スキルに頼るしかないんだけどね。
さて、スキルをセットして・・・と、よしいこう!」
今度は自分で馬車の前に瞬間移動する。
馬車は止まる様子がない・・・
「クロウ、御者を頼む」
『楽しょうにゃ』
馬に威圧をかけると馬たちは
「サクラ、馬が動かないようにしといて」
『はい』
馬車の扉を開けると、ギルマスのマックがカエデを横抱きにしていた。
怒りよりも、頭の芯が凍りついていく。体が熱を手放していく。
「離せ」
言葉すらも凍りつくように静かだった。
西新宿の和菓子屋物語。異なる人格を宿した主人公の物語を読んで共感する部分があった。
俺の場合、真の意味で怒りを感じることはない。クズに対しては、怒りよりも侮蔑を感じる。
「小僧がいきがってんじゃねえよ。」
ガンセキとかいう冒険者がナイフの刃を舐めながら言う。
本当にやるヤツがいるとは思わなかった。
「はひっ!」
ちょっと手を押しただけで、ナイフの刃先が頬から飛び出した。
「女がどうなってもいいのか?」
意識をうしなっているらしいカエデの喉元に、ナイフがあてがわれている。
『解体!』
解体のスキルを使うと、部位の解体に適したラインが見えてくる。
あとは、その線に沿ってナイフを入れるだけでいい。
最高の速度でナイフを振るうとマックの腕が落ちた。
「ひい!」
血がかかる前にカエデを抱き上げ、馬車の外に出る。
「ぎ・・・ぎざまぁ・・・」
ガンセキが口から血を流しながら降りてくる。
二人に治癒をかけて血止めだけ施し、クリーンで馬車の内部を綺麗にする。
「ふぁぁ・・・いたたた・・・」
「カエデ、起きたな」
「はい・・・えっと、会議室で・・・あっ、こいつにお腹を・・・」
カエデはそう言ってガンセキを睨みつける。
「まあ、俺の妻に手を出したんだ。
徹底的に懲らしめてやるさ」
「うん、任せる」
「さて、今回の件は独断ですか、それともドランの町としての判断ですか?」
「うぐぐぐぐっ、完全な治療を求める。 このわしにこのような
「ガンセキさんの方は?」
「俺は同行を命じられただけだ・・・」
「そうですか・・・『精神支配!』・・・同じ質問をします。
今回の件は独断ですか、それともドランの町としての判断ですか?」
「町議会の指示でやってきた」
「指示の内容は?」
「この町を攻め落とした場合のメリットと今後の発展性調査だ。
旨味があるようなら難癖をつけて
無理な場合、攻め落とすための糸口をみつける。それはガンセキの役目だ」
「この時期に来たのは、魔物暴走で疲弊したところを叩こうってところか」
「そうだ、毎年この時期は魔物暴走の対策に追われ、西からの攻撃には無防備になる」
「カエデに手を出したのは?」
「個人的趣味だ」
「お前たちに直接指示を出したのは誰だ」
「国務長官のナガイと宰相のフカワだ」
「カエデ、僕はこいつらを連れてドランの町に行ってきます。
君を傷つけた罪を償わせなければなりません。
君は、今聞いたことをお義父さんとお義母さんに報告してください。
最悪の場合、ドランの町を潰すかもしれません」
「分かりました。
無茶しないでくださいね」
「大丈夫です」
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