第3章 魔界の脅威

第35話、ジュールの町へ行ってみた

おれは、ここ数日ゆったりとした時間を過ごしていた。

5匹目となる牛の出産も終え、ジョンの生乳も順調に滑り出している。


第一回の連邦会議が開催され、正式に俺が議長に就任した。

名称は仮にゴルダゴン連邦となり、21名の議員が配置されている。

議会は、月一回開催され、開催地は月ごとに代わる。


「来月より、ダゴンの城とギルドの2階に食堂を開設します。

ギルドでは、唐揚げ丼・親子丼・牛丼の3種類に加えて、うどんとソバという麺類を提供します。

ドンブリは銅貨2枚で、麺類は銅貨1枚となります」


「銅貨1枚で採算は取れるんですか」


「ええ。その代わり、麺と汁だけの簡単なものになります」


この世界には鉄貨という50円程度の価値のある貨幣が存在するのだが、鉄貨は錆びたものが多く持ち歩くのが嫌がられている。


「城の方は、パンが中心で、総菜パン・菓子パン・カップ麺とドリンク類になります。

その代わり、夜はテラスでバーベキューを提供いたします。

お酒も飲めて魚も食べられます」


「スイーツはいつごろになるんですか?」


「ミルクが順調に確保できるようになりましたので、プリンはあと一か月くらいですね。

そのほかの洋菓子は、職人の頑張りしだいです」


「農水庁です。

今月中には、10頭目の子牛が生まれる見込みです。

そのあとも、妊娠中の牛が5頭。

テンサイも収穫まであと3か月ですね。

ともかく、人手が足りません。

牛の世話だけでなく、牧草の刈入れや保管。

余裕のあるところは応援をお願いします」


「近いうちに、南のジュールに行ってきます。

そこで、移住の可能な人がいないか声をかけてみますよ」




技術者集団であるチーター達は、俺の軽四輪駆動オートマチック車を改造し、空を飛べるようにしてくれた。

ハンドル・アクセル・シフトレバー・ブレーキが地上と同じように使える。

ハンドルを下方手前に下げると離陸し、奥にもっていけば下降する。

しかも、魔力とガソリンのマルチ運用が可能だ。

実際は魔力しか使わないけど…


「よし、みんな乗ったか」


「「「はーい♪」」」


嫁3人を連れて、ジュールまでドライブだ。


ジュールまで、250km/hで2時間。高度100mをのんびりと飛んでいく。


「あっ、見てみて、キングモンキーよ」


「へえ、ここから見ると小さいけど、実際は大きいんだろうね」


『はい。平均で体長8mです。

知能は3歳児くらいです』


サクラが応える。


「マンモーと戦っているみたいね」


『マンモーは平均で体長10m。しかも牙が強力な武器になります』


「シュウ、40kmくらいに落としてくれる。スカイボードを持ってきたんだ」


スカイボードは、ルシアが某タイムトラベルを題材にした映画を真似て作った飛行用のボードだ。

スケートボードにミスリル銀を張り付けて飛行魔法と安全機能を書き込んだ魔道具である。

市販もしており、市販品は高度と速度を制限してあるが、自分たちのものは当然そんな措置はしていない。


運転席からバックハッチを開けてやると、嫁と猫たちが次々に飛び出していく。


スカートをひるがえして飛ぶ3人と、四つ足で起用にボードを操る猫たちの饗宴は楽しそうだ。


ルシアとソフィアの金髪が風に煽られてフワッと広がって浮く。

カエデの束ねた黒髪が風になびく。

エッジが空気を切り裂くたびにシューっと白い雲が発生する幻想的な光景だ。

クロウは器用にクルクルと回転して見せ、サクラはごろんと日光浴だ。


やがてこの大陸最大の都市、ジュールの城や街並みが見えてくる。


ハッチバックを開放してみんなを車内に収容する。


「ああ、面白かった」


『楽しかったにゃ』


「ジュールって人口10万だったっけ。やっぱり規模が違うわね」


『人口の半分は、点在する20の島に暮らしています。

ですから、実質5万人の都市ですね』


町に入った俺たちは、とりあえず冒険者ギルドに向かった。


「ほう、ゴルとドランから来たのか。

今年は、モンスターの暴走も犠牲者なしで駆逐できたと聞いたが、質が上がったのか?」


「運が良かっただけですよ」


「馬鹿を言え。運だけで数千のアンデッドを倒せるものかよ。

しかも、お前が第3席でそっちのお嬢ちゃんが第5席だと。

第3席ってことは、コンゴウの次じゃねえか」


「ええ、まあ」


カウンターで、お姉さんに対応してもらったのだが、なぜかギルドマスターが出てきてしまった。


「なあ、ゴルとドランじゃあ、空中戦が流行っているらしいが、そのあたりの事情を聞かせてくれねえかな」


「はあ、飛行の術式を書き込んだサンダルを使っているだけですよ」


「3席ってことは、お前も持ってんだろ」


「ええ持ってますよ」


「ものは相談なんだが、余分に持ってたりは…」


「ええ僕が作ってますから」


「なに!お前が作ってんのかよ!頼む。譲ってくれ!

島でナンかあったときに、飛んでいけりゃあ早く対応できるんだ」


「わかりましたよ。一足だけですよ。

Lサイズで大丈夫ですよね」

でも、そういう事でしたら、こっちのスカイボードとかも使えそうですね」


「まさか、そいつも飛べるのか」


「ええ。ただし、一般に販売してるやつなので、時速50km。高度も10mの制限をかけてあります」


「ゴルやドランじゃ、こういうのを普通に売ってるのか」


「ええ。魔道具を作る人の養成もやってますから」


「ナオミ、お前明日からゴルへ行ってこい!」


「ゴルもドランも人手不足なんですよ。

勉強がてらでも、来てくれる人は大歓迎ですから」


「よし、通常業務は終わりだ。

みんな表に出ろ。レクチャーしてもらおうじゃないか」


俺はギルマスに、嫁たちはギルド職員相手にボードのレクチャーにまわる。


「じゃあ、サンダルに魔力を流してつま先だけで軽く地面を蹴ってください」


「こ、こうか…、うわっ」


「何もしなければそのまま着地します。後ろを蹴れば前進。前を蹴ればバックします」


「お、おお、なるほど」


「足元じゃなく前を見てください!」


ゴイン!


「ってて。地上と違って、全方向に集中しなきゃいけねえのかよ…」


ボードの方も基本的な操作は説明できたようだ。


「みなさん、上手ですね」


「サーフィンで鍛えてるからね。コツは同じようなもんだから、楽しいよ」


上空でワイワイやっていたら下から大きな声がかかった。


「ゴルの町から来たシュウ・スエナガはいるか」


「はい、私ですが」


「陛下が呼んでおる。

至急、城まで出頭するように」


なぜ、出頭などという言葉を使われなければならないのか。


「ご用件は?」


「つべこべ言わずに来い」


カチンときたが、ここは会社生活の流れで「承知しました」と下手に出てしまう。

会社員のサガというやつである。




「そのほうが、ゴルダゴン連邦とかいう組織の議長で間違いないか」


「そうですが何か御用ですか」


「ふん。弱小地方が身を寄せ合ったところで、ジュールの圧倒的優位は微塵も揺るがぬわ」


「別に、この町と張り合ってはおりませんが」


「町だと。ジュールは国として独立した。通知は届いておらんのか」


「しりません」


「総務局長!どうなっておる」


「はっ、ただいま調査いたします」


「いや、町だろうが国だろうが名称の違いだけだろう。大した意味はない」


「たわけ。ユーフラシア群はジュールが吸収する事に決まったのだ」


「はあ?誰が決めた、そんな事」


「ジュール国初代女王たる我が決定した」


「知らねえよそんなもん。

付き合いきれねえから帰るぞ」


「「「はい」」」

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