第36話、マッコウ君 正体は…

「待て、そやつらを捕らえるのじゃ」


「はっ」


「いい加減にしろよ。嫁に手を出すようなら城ごとつぶすぞ」


「面白い、やってみるがいい」


「ああ、お前たちは先にギルドへ行っててくれ」


「「「はい」」」


シュン!


「何!消えたぞ」


「単なる瞬間移動だよ。さて、相手になってやるからかかって来いよ」


「ほざくな!」


ゴフッ


今の俺はすべてのパラメータをFFFにしてある。

十進法で4095である。

一般的な大人で20程度である。

達人でも500いけばギルマスクラスと考えられるのに、その10倍近いとなると想像できるだろう。


ちなみに、マックスはFFFFであるが、そのパラメータで戦うと、とんでもないカロリーを消費する。

餓死したくないので、普段はFFFで生活しているのだ。


時速で考えると分かりやすいだろう。

相手が時速10kmで動くのに対して、俺はで400kmで動くことができる。


パンパンパンパンパン


相手が動き出した瞬間に手加減した腹パンで吹き飛ばしておく。


「おのれ、呪術『死神の鎌!』」


おぞましい感覚に、全身が総毛だつ。

バアさんから、黒い何かが染み出してきて、鎌を持った骸骨に姿を変える。

こいつはヤバいやつだ。


俺は瞬間移動でバアさんの背後に回り込み、脳と心臓を凍結させる。


その瞬間に骸骨は消えた。


「さくら、今のはなんだ」


『古代魔法形式の一つで、呪術です。

現在の障壁では防御できない術式の一つです』


「対策は?」


『同じ系統の術式をぶつけるか、今のように術者を殺すことです』


「なりゆきとはいえ、女王を殺してしまった。

どうする、今ならまだ蘇生できると思うが…」


「すまんな、手を汚させてしまって」


「うん?、ギルドのマスターじゃないですか」


「ああ、先代領主の息子タナー・ジュールだ。

そいつは義理の母親にあたるが、呪術によって恐怖政治を続けてきたそいつに城から追い出された。

みんな呪術が怖くて従ってきただけだから、蘇生の必要はない」


「やはり」


「そいつは、親父の後妻になった後で、城の禁書庫を漁り今の呪術を身に着けたようだ。

親父が死んだのも、そいつの仕業だったと思うが、なにしろさっきの術が強すぎて誰も詮索できなかったんだ」


「俺は一通り古代文字も読むことができる。

その禁書庫を確認させてもらえないだろうか」


「悪いが今の俺には、何の権限もない…」


「タナー様、あなた様こそ、正統な後継者でございます。

我ら三人が同意しておりますので、暫定領主としてご指示下さいませ」


「そうか、ならば即刻この女の首を刎ねよ。

俺は禁書を全て処分する」


「まあ、待って下さい」


「何故だシュウ」


「禁書と言っても、歴史的な事実が書かれていたりするから、一応内容を確認して呪術に関するような危険なものだけ処分すればいいと思うんだけど」


「うーむ、もっともだが…」


「それと、できれば呪術に関する防御手段を確認したいんだ」


「そっちが本音だな。

わかった、その代わり確認できた内容は俺にも教えろよ」


こうして、その日は一日禁書庫に閉じこもることになった。

嫁たちは、波乗りに行ったみたいだ。


禁書を確認しながらタナー暫定領主が言った。


「なあ、ゴルとドランが組んで何をやろうってんだ?」


「別にこれといった目的はないですよ。

交流が盛んになって、簡単に行き来できるようになったら、技術交流や物流が増えてきて、それなら税制とかも同じにしてはどうかという意見が出たんですよ」


「まあ、普通の流れだな」


「ところが、ゴルのセキ領主から、二つの町の上にもう一つ組織を作って、意志決定をした方が速いと言われましてね」


「町の独自性を維持しつつ、その上に組織をか…。俺にはできない発想だな。

だが、行き来するといっても丸一日以上かかるだろう」


「あの、スカイボードを大きくして人が乗れるとしたらどうです」


「なに!」


「10人乗りの飛行艇を運航してるんですよ」


「どれくらいの時間で行けるんだ」


「片道2時間です。2台用意して2時間おきに発着してます」


「2時間だと…」


「それ以外に、町の中の集落を周回する飛行艇も導入してます」


「くっ…」


「ここも、点在する島との行き来が課題ですよね」


「その連邦とかに加入すれば、ここにもその飛行艇を配備してくれるのか」


「今、うちに必要なのは人手です。ここにはそれがある」


「わかった。正式に領主になったら話し合ってみる。一度その飛行艇を見せてもらえないか」


「飛行艇自体は、指定したポイントを回るだけなので事前の整備が必要なんですよ。俺たちの乗ってきたやつなら自由に運転できるから乗ってみますか」


「頼む。島をいくつか回ってみてくれ」


選択した禁書を燃やし、車で海を越える。


「すごいぞ!本当に空を飛んでる。

すまん、あの島のとんがった屋根の家へいってくれ」


「はいはい。了解ですよ」


指定された家の前に止める。


付近にいた住民が何事かと近づいてくる。


ガチャ


「俺だ。島長はいるか」


「おお、ぼっちゃん。何事ですかこれは」


「ぼっちゃんはやめてくれ。

ここにいるシュウが、あの女を倒してくれた」


「まさか、本当ですか!」


「ああ、今は暫定領主になった。

みんなの承認がもらえれば、俺が領主になる」


「おお。やっと正当な後継ぎが…」


「それでな、ゴルとドランと、ともに歩んでいこうと思う。

全部の町が対等な関係でだ」


「そ、それは…」


「町の規模からいえばジュールは飛びぬけておるかもしれん。

だが、この乗りものを見ただろう。空を飛ぶんだぞ。

ゴル・ドランと組めば、わが町にもこれを配備してくれるそうだ。

しかも、各町を回る定期便も運航される。

島で病人が出たら、すぐに町まで連れていけるんだぞ」


「本当にそのようなことが可能に?」


「ああ、シュウが約束してくれた。

それに、向こうでは人手が足りないそうだ。

貧しい者に仕事も与えてやれるんだ」


「できれば、この町にも新しい産業を興そうと思っています。

協力していただけませんか」


「それは、願ってもないことです」


こうして主だった島をめぐり、協力を取り付けることができた。


「じゃあ、また2日後に来る」


「ああ、頼む」


「何か必要なものはあるか?」


「今のところはないな」


「あの、できましたら、島に2つくらいボードをいただけると助かります」


「島の数は?」


「15です」


「じゃあ、余分を考えて50作ってくるよ」


「本当ですか!助かります」


「ナオミ、そのかわり私たちのボードも忘れないでね」


「うん、一週間あれば作れるからね」


「お前たちのボード?」


「えへへ、サーフィンボードを作ってもらうんだ。

シュウも要る?」


「いや、俺にはそんな体力はないよ。

さあ、帰ろうか」


「「「はい」」」


帰りは、海沿いを北上していった。


「わあ、イルカがいっぱいいるね」


「あ、見てみて、向こうにマッコウ君がいるよ」


「すごい、真っ黒なんだ」


「真っ黒がなまってマッコウになったんだってさ」


「…ほんと?」


「マーメイドの間ではそう伝わっています…」


「日本だと抹香鯨は抹香っていうお香と、腸から採れる龍涎香の香りが似ているところからきてるんだけどな」


「ブー、マッコウ君はクラゲですよ」


「「「えー!」」」


「あ、あんなでかいクラゲが…」

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