第37話、祭りでも企画してみようか

マーメイドレストランはラスベガスの郊外にオープンした。

コンクリートむき出しの外装で2階建てである。

窓はなく、外見上違うのは正面の出入り口と側面にある搬入口だけである。

搬入口はステンレス製の二重扉で、常時ロックされている。


正面の自動扉は、三つの扉があり、最初は強化ガラスの自動ドアで、二つ目は魔法による強化が追加されている。

ここには認証用のゴーレムが設置され、会員証を持たない客は入れない。

三っつ目の扉は間にステンレスのメッシュを挟んだ三層構造になっており、戦車の砲弾を受けてもひびが入る程度である。

言ってみれば、ちょっとしたシェルターなのだ。


内側は円周の水槽になっており、客は内側から周りを見ることになる。

水槽の中は、色とりどりのサンゴや海藻が設置され、ここをマーメイドたちと魚が泳いでいる。


ここの責任者になってもらったのは、2期前の国務長官である。

アリスの紹介で引き合わせてもらい決定した温和なお爺ちゃんである。


財政界にも顔が広く知られておりうってつけの人物といえる。

レストラン「Little Mermaid」のオープニングセレモニーはすごかった。

手配はアリスと麻美に一任したのだが、時間帯を変えて財界・政界・芸能・ファッション界とそれこそTVでしか見たことのない顔ぶれがそろった。

みんな、生のマーメイドが見られるからと来てくれたのだ。


マスコミはシャットアウトしたのだが、宣材用の動画は用意しておいた。

当日のニュース番組では出入りする来訪者の様子や宣材動画が各局で流されていた。



「ふう、こんな大騒ぎになるとはな」


「当然ですよ。

マーメイドと直接会える場所なんてないんですからね」


「ファッション業界は結構連携してるんだろ」


「ええ、2社で、マーメイドオンリーのファッションショーを開きましたしね。

でも、マーメイドが料理を運んでくれて、泳ぐマーメイドを見られるっていうのは別物ですよ。

そうそう、例のテーマパークからも話が来てるんですけど、どうします?」


「人魚姫の舞台の話だよな。でも、それを受けたら、デンマークの方も対応しないと文句が来るんじゃないか?」


「それが、同じ演目で年2回の定期公演ってことで折り合いがついたらしいですよ」


「出たいって希望者はいるのか?」


「大勢いるわよ。

例のファッションショーに出た子が服とか持ち帰ったじゃない。

それで、みんな外の世界に興味津々よ」


「じゃあ、受けてもいいんじゃないか」


「そうなると、こっちの人手を増やさないと…」


「私の友達でよければ、何人でも応援を呼べるわよ。

アリスばっかりずるいって、やきもちやかれちゃって大変なんだから」


「じゃあ、それで対応してくれ。アリスにも瞬間移動をつけるから、移動は必ず麻美かアリスが対応してくれよな」


「「了解」」


「俺は、向こうの世界が統一化の動きをしてるんで、ちょっと対応が込み入ってるんだ」


「へえ、ついに国王さま?」


「そんなんじゃねえよ…、というか、それだけは避けたい」


「だよねw」




カエデのお腹が目立ってきた。

ちなみに、チートリアルの子は俺の子ではなかったらしい。

だが、できる限りのことはしてやる。


チーターたちには、新路線の飛行艇を任せてある。

どうやら時速500kmで安定させるために全翼機にするようだ。

ジュールの島巡回用には従来のものを使う。


ジュールの議会では、やはりゴルとドランを見下した意見もあったようだが、先日の俺を見た者が同意し可決された。

ゴルドランの方では、ついでにタンペイも吸収しようという意見が多かったため、結局大陸全部を網羅したユーフラシア連邦共和国が誕生した。

国といっても、あくまでも議会制であり、俺が初代議長で、副議長がセキさんとタナーさん。ケビンとタイラ氏は書記長という肩書で落ち着いた。

本部はドランに設置され、月1回の定例議会が開催される。


ジュールには養豚と稲作を導入することにした。

タンペイには食肉用の牛とトウモロコシである。

牛と豚はどちらも、正規にアメリカから購入する。


こうして、ユーフラシア連邦は急速に発展していく。

働き口はいたるところにある。

次は衛生と健康。それから教育である。

衛生については、クリーンと水の魔法具を普及させることで対応できる。

各町に公衆浴場を設置し、入浴も習慣づけた。


集合住宅を全部の町に建設し、住まいも確保しつつ、病院と学校・職業訓練所を併設していく。

同時に住民台帳を作り、税金も公平に徴収していくことにした。




やがて、カエデは俺の子供を産んだ。

当面、カエデと子供は日本で育てていくが、落ち着くまではカエデの実家で…

おい、道場で育てるのかよ…。不安しかねえぞ。


「名前はどうしようか」


「黒髪で黒い瞳だから、私の名前と同じ植物の名前がいいな」


「植物か…、ヒマワリ、桔梗、サクラはいるし…、2月3日の誕生花は…カスミソウか」


「カスミって、いいんじゃない。末永かすみ」


「漢字は香純かな。

カスミソウの花言葉は夢見心地だってさ」


カスミには、ステータスエディットのスキルが備わっていた。

いずれは、自分で操作できるのだが、俺はカスミに防御系の常時発動スキルをセットしておいた。





「国の運営も、ひとまず落ち着いてきましたので、私は以前のように相談役に退き、後任にセキさんを推薦したいと思います」


「なぜですか、何かご不満でも」


「いえ、結構強引に進めてきましたけど、やっぱり一歩離れた視点で見た方がいいと思うんですよ。

歪んだところがあれば、それを提言して、セキ議長の下で是正していただく。

そういう時期にきたんだと思っています」


「確かに、議長に頼りすぎていたと思う。

議長は地球側との調整で不可欠の存在ではあるが、このところ、こちらでの活動に偏っていた。

どうだろう、議長の提案を受けて、セキ新議長でやってみたらいいかと思うのだが」


こうして、ユーフラシア連邦の新体制が発足した。





「なあ、ケビン。

そろそろ、お前も向こうとの交渉をやってみないか」


「おいおい、言葉もわからないのに、どうしろっていうんだよ」


「言語変換はセットしてやる。

当面、俺と一緒に交渉の場に同席するだけでいい」


「そうすると、書記長はタイラに任せるのか」


「ある程度は分散してやればいいだろう」


「まあ、魅力的な話ではあるな」


「だろ。

俺の印税やマーメイド達の稼いだ金が結構あるんだ。

ビールとか大量に買い付けて、国をあげて祭りでもやってみないか」


「そうだな、年に一度くらい、そういう日があってもいいかな」


「よし、肉祭り決定な」


「ああ」


とは言っても、それほど大げさなことでもない。

20万人規模のお祭りである。

ちょっと大きな市程度である。横浜市や川崎市には全然及ばない。


ビール、ワイン、ソフトドリンク。

豚肉、牛肉、鶏肉。

各種オードブルにスナック類。

ともかく買いまくった。


予算?

一人5000円として10億円程度だ。

発電機を用意して、音響設備も整える。


ともかく、この世界には娯楽が少ない。

宗教観もない代わりに、音楽もないのだ。


試験放送的に、ポップスや民族音楽を流してやると、それなりに興味を持つ者が現れる。

木の棒で金属をたたいたり、竹を叩いたり。

音楽が生まれると踊りが始まる。

こうして、新しい文化が生まれつつあった。

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