第38話、ゾンビinUSA って、映画かよ!

叩いていた木の音が、長さや太さを変えると違う音になると気づいたのは誰だったのか。

あるいは、鍋の底だったのかもしれない。

そこから工夫が始まる。


あるものはスチールパンのような楽器を作り、あるものは色々な大きさの鍋を叩くようになった。

ここに、学校で教えようとしていた縦笛と音階が投入されると、音楽は瞬く間に広まった。

縦笛の音にあわせた竹が切り出され、音階順に並べられる。

竹琴である。

木琴や鉄琴、石琴に銅琴も次々に生み出された。


ここにハープを一台投入する。

鉄の糸を震わせると音が出ることを知ると、ドワーフを中心に弦楽器が広がっていくが、この世界には合成繊維や絹糸が存在しないため、これはゴルの一部の地域にとどまってしまう。

弦楽器とは対照的に、笛のバリエーションが広がっていく。

オカリナやホルン、竹笛に金管楽器へと発展していく。


唯一学校で提供されたのは、きらきら星の楽譜であったが、一度聞いたポップスを再現しようとする者まで現れてくると、みんな思い思いに好きな旋律を奏でていく。

メロディーがあれば、それにあわせて声を出し、やがて詩を奏でるものが登場する。


手軽さで、管楽器優勢と思われたときに、登場したのがカスタネットとタンバリンだ。

こいつはたちが悪い。リズムを刻むだけで、練習もせずにいきなり演奏に参加できるからだ。




こういった背景の中で、肉祭りが開催された。


肉祭りには絶対的な優先事項を設けてある。

女性と老人・子供を最優先で、男は肉を焼き酒を運ぶのだ。

その合間に飲食をする。


「では、みなさん一緒にカウントダウンしましょう!

5・4・3・2・1

おめでとうユーフラシア!かんぱーい!」


「「「「「おめでとう!」」」」」


一応、名目はユーフラシア国誕生パーティーと銘打っている。


ジュワーッ


「ほれ、焼けたぞ。どんどん食ってくれ」


「まだ生じゃない。もっとしっかり焼いてよ」


「そ、そうか…

しかし、シュウのやつ、とうとうこの大陸を一つにしちまいやがったな」


「カスミちゃんのお父さんだもんね~」


「わしも、ひい爺様かよ…」


「孫って、こんなにかわいいモノなのね~」


「あら、娘は可愛くなかったのかな?」


「自分の子供って、育てるのに必死だからそういう余裕がないのよね」


「ひ孫になると、もっと可愛いぞい」


「ところで、お父さんはどうしたの?」


「ドランで挨拶してから、各町を回るみたいよ」


「最初に見たときは、そんな大層なやつとは思えなかったんだがな」



やがて、女性や子供は眠り、漢達の時間が訪れる。


「野郎ども、こっからが祭りの本番だぜ!」


「おー!」


「煩い!何時だと思っての!」


「・・・」


漢達の宴は、静かに続くのだった。




アメリカ、アトランタ上空で奇妙なものが撮影された。


「間違いありません。ガーゴイルです」


「すると、これは君の世界から…」


「いえ、ガーゴイルは魔族の偵察隊です。

魔族については、僕もそれほど知っているわけではありませんが、向こうの世界で遭遇した時は、5mほどの真っ暗な穴を通ってやってきていました」


「すると、どこかにその穴が開いているというのか」


「少なくとも、飛行ルートの延長線上は調べた方がいいと思いますよ」


穴はすぐに見つかった。

廃ビルの屋上にあったのだ。


警察は直ちに周辺を閉鎖し、軍は現地の対応にあたった。


「屋上の一部を破壊し、底の側から確認しましたが、下からは普通に空が見えます。

棒を突っ込んでも。このとおり何も起こりません。

ところが、下から石を投げると落下する途中で消失します」


「やはり、空間に穴が開いていると考えるべきだろうな」


「次に、上から遠隔操作でカメラを入れてみました」


「暗いな」


「根本的に光源がないせいです。

昼夜の区別があるのかどうかは、時間経過を待たないと不明です。

カメラを水平状態にします」


「上下逆なのか」


「というよりも、同じ状態。つまり、向こうも上に向かって穴が開いていると判断できます。

上下を逆にします」


「薄っすらと地面が見えるな」


「穴を通過した、こちらの光の影響と思われます」


「岩場のようだな」


「はい。

それで、こちらからドローンを投入してみましたが、突入した瞬間に通信が切れました。

慌てて操縦ユニットを穴に突っ込んで、カメラ越しに捜査して回収はできましたが…」


「動くものは?」


「現在、カメラ4台を設置して監視しておりますが、今のところ変化はありません。

一応、武装した兵士を10名配置し、監視を継続していますが、何か出現した場合はどうしますか」


「一応呼びかけを行って反応を待て。

ただし、危険と感じたら射殺するように」


「了解」


「プレジデント、いかがいたしましょうか」


「部隊投入の準備は?」


「一個小隊が下のフロアで待機中です。

指示があればいつでも」


-うわっ-


「どうした」


-と、突然ネズミのような生物が!階下に逃走中です-


「逃がすな、絶対に捕まえろ」


-一名、噛まれた模様、医療スタッフのところに行かせます-


-こちら11階フロア。ネズミなんぞ…捕まえろ!-


-逃げられました。下のフロアで対応願います-


-こ、こちら屋上、噛まれた兵士が…ウワッ!-


「どうした!屋上チーム」


・・・


「くそ、何があった」


-こちら、チーム11、屋上の兵士が…まるでゾンビです。撃て、撃て-


「チーム11、どうなった!応答しろ!」


-チーム09、ネズミ捕獲できず。階上からの攻撃に備えます-


-こちらチーム01.上から兵士が落ちてき…、動き出しました!うわぁ-


「シュウを呼べ!緊急事態だ!」




「ゾンビなら、銀をありったけ用意してください。

それから、周辺を封鎖して、ゾンビが現れたら確実に頭と膝を打ち砕いてください」


「頭だけでは止められないというのか」


「ダメです。ともかく動けなくして、これ以上の広がりを防いでください。

あと、警棒ありますか、ありったけください」


「ど、どうするんだ」


「手持ちの銀がありますから、先っぽをコーティングします。

これで触れれば灰になりますから」


「くそう、ゾンビが出てくるとは…」


「いや、出てきたのはネズミらしい。ネズミに噛まれた者がゾンビ化したようだ」


「そのネズミは?」


「まだ、捕まっていない」


「場所は?」


「アトランタだ」


「ヘリを出してください。僕が行きます。

銀と警棒を急いでヘリに積んでください」


「わかった」


「現地の宝石店に連絡して、銀製品を何でもいいから提供させてください。

それをゾンビに投げつければ撃退できるはずです」


「わかった、よろしく頼む」


「あっ、現地のライブ映像ありますか」


「ああ、一階が写ってる」


「銀と警棒はここへ。瞬間移動で行きます」




警棒50本と銀2kgを抱えてアトランタに飛ぶ。

警棒を50本まとめてコーティングし、現地の兵士に渡す。


「ゾンビの肌にこの警棒の先を叩きつけてください。

かすっただけでも大丈夫ですから」


「わ、分かった」


「『サーチ:ゾンビ!』

くっ、多いな。先に外のゾンビを退治します。

ビルから出てくるゾンビはさっき言った方法で倒してください。

じゃ、お願いします」


俺は高速移動でゾンビを倒して回る。

最後はビルに残ったゾンビだ。


「よし、これで最後。

次に発生した場所の近くにネズミがいるはず…」

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