第34話、ソフトクリームを作ろう!会社員だったけどな

パティシエのスキルをセットして、ソフトクリームのレシピに挑戦してきたが、いまいちピンとこない。

逆に業務用のソフトクリームサーバーを購入し、市販されている原液にクリーンで処理した生乳を加えることで濃厚な味を出すことができた。


「もう一種類はどうするかな…、アセロラに似たあのジャムを使ってみるか」



「どう?」


「これって、あのジャムですよね。エルフからもらったあれ…

酸味がほどよく効いて、なんだろうイチゴを凍らせて練乳をかけて程よい感じに仕上げたみたいです」


「うん、大ヒット間違いなしです」


嫁と同様に浅見もアリスも太鼓判を押してくれた。

ジョンもアニーも絶賛だ。


アメリカ食品医薬品局には、アリスが直接かけあってくれている。


「どうかしら?」


「有害な成分は入ってないし、アレルゲンも検出されなかったけど、こんな酸っぱい木の実なんて誰も食べないわよ」


「じゃあ、これは?」


「ジャムね…、あっ、これって新鮮な酸っぱさ、いけるんじゃない」


「じゃあ、こっちは?」


「えっ、アリス…、どこから出したの?」


「いいから食べてみて」


「ふーん、香りは甘酸っぱくていい感じ…、味は、ペロッ!!!

ソフトクリームよねこれ。ああ、病みつきになりそう。

鮮烈な酸味はあるんだけど、クリームとの相性がバッチリよ」


食品医薬品局には加工していない実を渡し、試験栽培してもらう事になった。

ベリー系だろうという事で、エルフベリーと命名した。

こうして、牧場限定でエルフベリーのソフトクリーム販売が決定。


「牧場限定というのは、あまり効果が見込めないと思いますけど」


「こちらのエルフベリー量産体制が整っていない以上、これで十分だよ。

収益はマーメイドのシーフードレストランで出せばいいさ」


「周辺をアクリルの水槽で囲った水族館みたいなレストランですね」


「入れ替わりで、本物のマーメイドが泳いで、マーメイドが調理する本格派レストランだ。

向こうの世界のエビや貝を提供してやれば材料費もかからない」


「でも、そういうビジネスには、犯罪組織が関与してきますよ」


「来るなら来るがいいさ。

どんな相手であろうと、徹底的に洗い出して壊滅させてやりますよ」


「警察ですら手を焼いているのよ」


「過信はしません。万全の態勢で備えますよ」


「無茶はしないでくださいね」




マーメイドがよく捕ってくるのは、体長40cmの青エビというやつで、ロブスターのような大エビだが身は甘い。

わさび醤油で刺身が旨いのだが、さすがに生では出せないだろう。

バターとエビの味噌でソテーしたのも美味しい。

魚ではフロシキというエイみたいな魚で、こいつは白身で弾力があり、イカのような味がする。

同じ白身魚でも、ヒラメに近いゾーリという魚は、ウナギに近いかもしれない。

今度かば焼きにしてみよう。


深海用のゴーレムは、時々であるがジャイアントクラブという1m級のカニを捕獲してくる。

タラバガニ風のこいつは、刺身・天ぷら・網焼き・ソテー、どう料理しても美味である。


そのうちに、妙な生き物に気が付いた。

水上から見るとボールである。

直径30cmほどで、ゴマ粒のような目が二つ。

天辺に穴が開いており、イルカの鼻のように呼吸しているような感じである。


水面下はスカートのようなヒダヒダが巡っており、そこから4本の触角のようなものが伸びている。

半透明で、一見するとクラゲのようなのだが…


「ああ、それならココです。

人懐っこくて、じゃれついてくるんですよ。

一日、小魚を1・2匹食べるだけで、性格も温厚ですし無害ですよ」


マーメイドから話を聞く限り、ほ乳類っぽいとのことだった。

うーん、不思議生物である。


搾乳ゴーレムの試作もできたし、レストランの用地買収も順調に進む中、ゴランの牧場から緊急の連絡が入った。

チーターが携帯電話を元に作った魔道電話だ。


『シュウさん、産まれそうです』


『分かった、すぐ行く!』


カエデではない、ホルスタインの子供だ。


「さらっとした水みたいなものが出てきました」


「うん、一次破水だね、このまま2時間以上経過するようなら介助。徐々に子牛が出てきたら継続監視です」


スキルを酪農担当技師にしてあり、一応のことは分かるしできる。

一時間後、無事に出産が終わり、治癒でへその緒の治療だけしておく。

子牛の体をタオルできれいにしてやると、30分でよろよろと立ち上がり、母牛の乳を飲み始めた。


「なんか、涙が出てきました」


「一週間は母牛の母乳を飲ませて、そのあとはミルクに切り替えです」


ダダダッ


「生まれたんですか!」


「ああ、無事に生まれた」


「すげえ、乳を飲んでるよ…」


「一週間たったら、乳しぼりの開始だ」


「「「おおー!」」」


牧場の作業員は20名でサトウカエデの農場は10名。

隣接しているため、相互応援を可能としている。

統括責任者は、農水部よりモッコリンという逞しいのがやってきた。


「ボスゥ、サトウカエデも双葉ちゃんが成長してるのよ。

たまには様子を見てあげてね」


「ああ…」


モッコリンは男である。

女性だらけの環境で育ってしまったため、言葉だけがアレなだけである。




「ジョン、生まれたぞ、第一号だ」


「どうだった」


「自然分娩でいけた」


「そいつは何よりだ。

人間が手を出すのは、本当に危なくなった時だけでいい」


「こっちはどうだ」


「ベリーのソフトがバカ売れだよ」


「なあ、ここの牛乳って高温殺菌だよな」


「ああ、町まで距離があるからな。町に近い牧場では低温殺菌を手掛けているところもあるらしいが…」


高温短時間殺菌(HTST)とは、生乳を72℃以上で連続的に15秒以上加熱殺菌する方法で、低温殺菌の牛乳が4日程度の賞味期限なのに対し、10日以上の消費期限となっている。

これよりも更に消費期限の長い超高温殺菌方法も存在する。


「一応、クリーンの殺菌で超高温殺菌の基準を満たしているって許可も受けてあるが、ここで飲む分だけでも生乳を提供してみないか」


「まあ、せっかく来てくれるんだから、うまいミルクを飲んでもらうのは構わないが…」


「いずれは、生乳を出荷できるところを目指さないか」


「そりゃあ、俺だって旨いミルクを提供したいさ。だが、それだけの消費を恒常的に確保するのは…、待て、お前の魔法は超高温殺菌のレベルなのか!」


「ああ、それでいて成分は変質していない」


「そりゃあ、願ってもないことだが、実現は可能なのか」


「少し時間をもらえれば可能だ。

その間に、独自ブランドを立ち上げる準備をしておけよ。

資金が必要なら俺が出資してやる」


「シュウ&ジョンカンパニーだな。

ブランド名はソフィアしか思いつかないぞ」


「ジョンの名を先にしろよ。お前の作った牛乳なんだ」


「パックにはマーメイドのロゴマークを入れて…、コンビニやミルクスタンドに俺のミルクが並ぶんだな」


「ただし、パックで運搬すると生クリーム状になることもあるからな。そこを理解できない人には敬遠されるぞ」


「ああ、分かってる」



アリスに頼んでホワイトハウスや行政官庁でジョンのミルクを飲んでもらう。


「ああ、昔のミルクはこういう味だったよ」


「確かに、ミルクで健康被害が出たこともあったが、こんなに違う味だったとは」



ブランドミルク「ソフィア」が発売されると、明らかな味の違いに高温殺菌方法の牛乳は敬遠されていき、低温殺菌に切り替える牧場も増えてきた。

それでも、コストや輸送時間の問題があり、都市部ではソフィアが圧倒的シェアを得るようになってきた。


俺の牧場でも、第二、第三の出産があり、少しずつ牛乳の提供が可能になってくる。

だが、スイーツにまで回るのはまだまだ先のことである。

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