第16話、ドワーフは酒に強いんじゃなかったのかよ!

「まずは、大分県から むぎ焼酎二階○、一升瓶を10本。アルコール度数25度です」


「うん、飲みやすいが物足りんな。ベースは麦か。わしらの作る酒に近いがな」


「次に、サン〇リーの角○、700mlを10本。アルコール度数40度です」


「おっ、いい感じだ。だが、甘すぎるな」


「次は、イギリスのシングルモルト、グレン○ィディック、700mlを10本。こちらもアルコール度数40度」


「前のと似とるが、口当たりが若干きついか。」


「続いて、僕の好きなメーカー○マーク、バーボンです。原料はトウモロコシ。今回はカスクストレングス、55度 700mlを5本持ってきました」


「うっ、少し強いがまだまだじゃのう・・・ひっく」


そろそろ、ストレートでは厳しくなってきたようだ。

だが、まだ終わらない。


「ペル○ アブ〇ン。リキュールに分類されますが、僕の世界では伝説と言われるスピリッツです。

一度製造中止になりましたが、最近になって復活しました。

前身はニガヨモギの茎が一本入っていたと聞いていますが、これには入っていません。

緑のお酒で、アルコール度数68度の700mlを5本。

元々は薬として重用されていました。

これは強いお酒ですので、ストレートよりも何かで割った方がいいですよ」


そう言われて従うドワーフがいる訳もなく、まだ大丈夫じゃとか言ってる。

大丈夫って、お酒の味を楽しもうよ。我慢大会じゃないんだからさ。


「じゃあ、次出しますね。

沖縄で直接買ってきた ど○ん80度、一升瓶を10本持ってきました。

舐めるように少量づつ飲むと、だんだん甘味を感じてきます。

間違っても一気に煽る事はしないでください」


ぎゃっ、ひい、焼けるぅ・・・阿鼻叫喚かよ。


「どうですか族長、ドワーフでも火を吹くお酒でしょう・・・って、族長?」


族長は座ったまま白目を剥いている。


「あーあっ、ロン〇コやズブロ〇カ、ドーバー〇ピリッツ、大本命のスピ〇タスを出してないのにな・・・」



事の発端は、先日の首長会議である。

酒を何かで割って飲むのは邪道だというドワーフの族長。

待てよと思い出す。

自然発酵では、アルコール度数20度くらいまでしか上がらないらしい。

蒸留や熟成の技術が確立されるのは中世ヨーロッパ以降である。

もし、ご都合主義でウイスキー的なものを登場させるなら、それなりの規模の蒸留設備が必要となる。

ましてや、酒好きのドワーフが熟成を待てるとも思えない。


つまり、ドワーフが飲んでいるのはドブロクだろうと想像できる。

どぶろくの原料は澱粉を含むものならなんでも構わない。

材料を蒸して柔らかくし、麹と酵母で発酵させるだけである。

口当たりもいいし、体内で発酵が続くらしいので、度数の割に酔うらしい。

家毎にオリジナルを作成できるし、3・4日で作れる。

まさに、気の短いドワーフ向けである。


ドワーフが軟弱な酒と酷評しているのは、蜂蜜酒やりんご酒・ぶどう酒などであろう。

どぶろくにしても果実酒にしても、ストレートが美味しい。


そこで、酒によっては割って飲むべきだ派の俺対ドワーフの酒対決が決定した。


完勝である。選抜された10名の酒豪は、最終的に80度の焼酎で撃沈したのだ。

あんなものをストレートで煽れば、口・食道・胃までが悲鳴をあげる。



「「「まいりました!」」」


翌朝、族長を含む10名が負けを認めた。


「まあ、今後僕の力になってくれればいいですよ。

ところで、今回のような酒精・・・アルコール度数の高いお酒を作ってみたいと思いませんか?」


「「「できるのか!」」」


俺は小型の蒸留器を取り出した。


「要は、どれだけ純粋なアルコールに近づけるかって事ですね。

原酒をこちらのポットにいれて加熱します。するとアルコールが先に蒸発して上の管を通っていき、更にこの先で冷やされて液体になります。

これを濾過してもう一度繰り返せば、昨夜中盤あたりで飲んだ度数のお酒になります。

あとは飲みやすく加工してやればいいんです。

昨夜の茶色いやつは木の樽にいれて3年間寝かせたものです」


「3年も待つのか!」 「ムリ!」


「もっと大きな装置を作って、今飲むものと熟成させるものを両方作ればいいんですよ。

香りの良い木は、エルフに相談すればいいんです」


「エルフか・・・あいつらは軟弱な酒をこのむからな・・・」


「だが、茶色い酒は旨かったぞ。エルフに頭を下げる価値はある!」


「熟成はエルフに任せてもいいんじゃないか? 手元に有るとワシらが我慢できんじゃろう」


「この模型は贈呈しますので、みなさんで十分に検討してください」


「よし、早速分解しよう!」


「待て待て、一度酒を作ってみよう。 分解はそれからじゃ」


「分解しなくても、理屈は分かっておるのだから、中型のものを試作すんべえよ」


蒸留器はドワーフの職人魂と酒好き両方に衝撃を与えたらしい。

今回の模型はポット・スチル。BARの名前になっている事も多いし、ウイスキーのボトルにもなっている。


多分数日のうちに試作機が完成するだろう。

エルフを巻き込めば、香草の知識を提供してもらって、楽しいお酒ができるかもしれない。

量産できれば、ドワーフの酒として販売路線に乗せられる。 

当初の目的であった魔鉱石も大量にもらい、次の目的地であるエルフの里に向かう。



「お酒用の樽ですか。 ぶどう酒を寝かせるのに木の樽を使っていますけど」


「それならば話が早いです。 まずは、こちらをお試し下さい」


領主のところでもふるまったXOを取り出す。

今回は、ちゃんとブランデーグラスを用意してある。


「どうぞ。 このお酒はグラスを手のひらで温め、香りと一緒に楽しむお酒です」


「ほう・・・確かに芳醇ほうじゅんな香りがする。 アルコール度数は高そうだが、こう、揺り椅子なんかで一人でゆっくり楽しむには良さそうですね」


「まさに、そういうお酒です」


「ふむ、これを寝かせるために木樽が必要だと・・・」


「色々なお酒が出来てくると思います。 これ、実は白ワインを寝かせたものなんです」


「あはは、相談役は冗談がお好きなようだ。 我々も、何十年と寝かせた白ワインを飲みますが、こんなにはなりませんよ」


「ええ、樽詰めの前に加える一手間が、ワインとブランデーを別物にしているんです」


「一手間とは?」


「その前に、白ワインはぶどうの身だけを発酵させて作りますよね」


「ええ、そのとおりです」


「ブランデーを作る白ワインは、甘味が少なくて酸味の強いものを使います。

そして、発酵させたワインを加熱します」


「そんなことをしたら、風味も香りも飛んでしまいますよ」


「ええ、ブランデーの香りは、樽の木によって後付けされたものです。

実は、発酵させたワインを加熱するときに、78度少しの温度を維持します。

100度になると水まで沸騰してしまいますから」


「その、78度ちょいがアルコールの沸点ということですか・・・」


「そのとおりです。 蒸気になったアルコールを逃がさないようにして、今度は冷やしてやると高い濃度のアルコールになります。

そのアルコールを寝かせるとブランデーになります」


「そんな手間をかけるなんて・・・いや、酸味の強いぶどうにも使い道があったなんて・・・」


「今、ドワーフたちが蒸留する装置を作っています。

完成したら、寝かせるための樽を用立てていただけませんか」


「エルフとドワーフ合作のお酒ですか・・・とんでもない事を考えますね」

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