第15話、アンデッド射撃大会。優勝者はカエデのマッサージ?

待機地点から100mの地点が開戦ポイントだ。

先頭集団が目印の松明に近づいた時、号令がかかる。


「ライトボール発射!」


それに呼応し、5人の魔術師がライトボールを打ち上げる。

ここまでは、去年と同じだという。

例年であれば、これを合図に隠れていた65人が先頭集団に切りかかるのだが、今年の号令は違った。


「撃て!」  バシュ! バシュ!  バシュ!


4秒から5秒空けて再度バシュ! バシュ!  バシュ!

一人が一分間に12から15発の銀弾を射出すると、全体では1000発近くになる。

無駄打ちもあるが、一発で複数の魔物を打ち抜く事も多いため、実質弾数分の魔物を倒したと想定する。

こうなってくると、倒れた魔物が障害となり、進行速度が極端に遅くなってくる。


「二人組にシフトチェンジ、交互に撃て!」


様々な状況のシミュレーションを時間をかけて行い、それに応じた訓練もしてきた。

十分に狙いをさだめると共に、無駄玉を減らす。


「左方が多くなってきた、15組・16組は左方に移動!」


10分で約半数、20分で三分の二を倒した。


「ライトボール二発目 発射!」


「三人組にシフトチェンジ! 持ち場を離れるなよ、出てきた魔物だけを狙え!」


こちらから仕掛けにはいかない。あくまでも接近してきた魔物を撃つ。

このスタンスは徹底してあった。

最悪、日の出まで持ちこたえれば魔物は灰になる。

去年までは、日の出を待ちながら4時間・5時間と死力を尽くして戦ってきた。

当然、片手では足りない犠牲者が出る。

俺の前任であった十五位もその一人である。

今回がいくら楽勝ムードだとは言え、何が起こるか分からない。

魔物を全滅させた前例などないからだ。


次の一団が現れたらどうする。次がアンデッドでなかったらどうする。

常に最悪の事態を想定して、全員で議論を繰り返した。一人の犠牲者も出さないために。


「先生、団長、例年の10倍以上のアンデッドが来ています。

ハグレは見当たりません。 残りの魔物は、ゆっくりですが確実に進行しています。」


「今のところ、後続は無しって事だな」


「ええ、感知にはかかりません」


「5人組にシフトチェンジ! 最後の一体まで気を抜くなよ!」


「「「了解です!」」」

やっと返事をする余裕が出てきた。


「5人の中で一人目休憩に入れ、20分交代だ!」


「「「了解です!」」」


前線と町の門との中間に仮設本部を作ってあり、トイレ・食事・飲み物などを用意してある。


「あ疲れ様です、はい暖かいおしぼりですよ」


「はははっ、左手がガチガチに固まって、スリングショットが抜けないっす・・・」


「仕方ないですよ、真剣勝負なんですから。 今、マッサージしますからそのベンチに座ってくださいね」


カエデは、去年まで最前線で戦ってきた。 今年、前線から退いたのは想定外の事態に対応するためだと全員が理解している。

例えば、最後尾にドラゴンが潜んでいたら、俺とカエデと先生と団長は戦士の前に出て戦う。

それをみんなが承知しているから、後方部隊は楽でいいですね・・・なんて誰も考えない。


「俺の方もマッサージできますよ~・・・、なんでみんなカエデに集まるんすか・・・」


当然、こちらの声は遮蔽してある。

これも、事前打ち合わせの中で決めた事だ。

休憩所は音楽を流し、リラックスしてもらう。 完全にリフレッシュして前線に戻ってもらうためだ。

例え目の前の魔物は殲滅できても、夜明けまで気を抜くわけにはいかない。



「やった、日の出だー!」

魔物の残骸が陽光を浴びて灰になっていく。

全員が誰かと抱き合い、涙を流していた。 それまでの緊張感が解け、達成感が満ちていく。

前例のない魔物殲滅と、なにより犠牲者ゼロで成し遂げたのだ。

先生も団長と握手を交わしている。


「うおぉぉ~!」 お義父さんが叫びながら走ってくる。

カエデの身を案じたが、抱きつかれたのは俺だった。

「えっ?」 なに、後ろに続く人の群れは・・・

お義父さんに押し倒され、その上にみんながかぶさってくる。


「シュウ、礼を言うぞ! おまグエが、いグエかっだら・・・」


俺がいなかったら、例年のままだったら・・・この中の何人かは、この場にいなかったはず・・・

そうか、仕方ない、この重量を、命の重みを受け入れよう・・・ぐぇ・・・



「今回対応いただいた団員と番号持ちの皆さんには、領主である私より報奨金として一人金貨5枚を渡したいと思います」


「構いませんが、原資はどうなさるおつもりですか?」


「ドランの町より、この町への侵略を企てた賠償金として金貨500枚をいただきました。それを充てようと思います」

領主に代わって俺が応えた。


「その、侵略というのは初耳なんですが・・・」


全員に顛末を報告し、今後は共栄のために交易を開始する旨付け加えた。

本当に、対等な関係が築けるのか。 

一部のみが潤う交易ではないか等の質疑が飛び交ったが、そこはこれから検討を進めるため、具体的なアイデアがあれば俺の方で受け付けると説明した。


「ワシんとこは、必要な物を作るだけだ。 交易とかは興味ないんじゃが」


「そんな事はありませんよ。 スリングショットのゴムは僕しか用立てできません。

じゃあ、ドランの町で興味を持ったら・・・僕がゴムだけ渡して終わらせると思いますか?」


「完成品として売ってくれるっちゅうのか」


「町の利益とは、そういう事です。

ドワーフだから関係ない・・・そうですか、お酒も交易の対象にするつもりですが、そうですか、仕方ないです」


「待て! 酒じゃと?」


「ええ、こちらから出すだけでなく、向こうのお酒も仕入れます。 技術交換によって、もっと美味しいお酒ができるんじゃないかと思ってたんですがね」


「ドワーフ一族は、交易に全面協力するぞ!」


もう、笑い話にしかならなかった。


「エルフ族は・・・あまり影響しそうにないんですが」


「エルフの皆さんは森や林に詳しいですよね」


「ええ、まあ」


「森を維持するためには、間伐が必要で、当然下草とか低木とかの知識もありますよね」


「ええ」


「実は、新しい穀物とかイモ類を僕の国から持ってくるつもりなんですが、導入のためのアドバイザーになっていただけませんか?

当然、予備知識は提供します」


「うーん、エルフの本質からは外れますが、興味はありますね」


「そこを突き詰めていくと、特定の植物を加工してステーキに近いものを作れるようになります。

今度、サンプルを持ってエルフの里へ伺いますよ」


「植物を加工したステーキですか。そこは惹かれますね」


「ドランの町は、食糧事情が悪化しつつあります。

ですから、取り急ぎいくつかの穀物などを提供してあげる必要がありますが、それ以外はこちらで実績をあげてから提供していけばいいんです。

もし、人手が足りなければ、ドランから呼び寄せればいいんです。そういった人の交流も始めようと思っています」


「そこは、わしら農家の出番だな」


「それと、魔法を刻み込んだ道具が作れないか検討しています」


「そんな事が可能なのか?」


「理論上は可能なハズです。実は、ミスリル銀は魔法を書き込むのに適した素材ですが、魔力の蓄えができません。

魔力を蓄える素材を見つけ出して、ミスリル銀とあわせてやれば実現できると思うのですが・・・」


「魔鉱石なら、鉱山にあるぞ。わしらはそれを使って坑道の明かりにしておるぞい」


「本当ですか! それなら、近いうちにお酒を持って鉱山に行きますよ」


「わしらは強い酒しか飲まんぞ。 生半可な酒を持ってきたら、叩き返すからな!」


「大丈夫。ドワーフでも火を吹くような酒がありますから」


首長会議は盛り上がっていった。

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