第58話、ムー大陸らしきものが見つかった
よわった。
何もする気が起きない。
妻たちとセックスしようにも、勃起しなかった。
|PTSD(Post Traumatic Stress Disorder )《心的外傷後ストレス障害》だろうか…
俺はアメリカでカウンセリングを受けることにした。
このような場合、最初に必要なのが「安全感覚の確立」だ。
つまり、身の危険を感じる心配はなく、誰かが助けてくれるという信頼感の回復。
次に必要なのは.「責任の所在の変革」だ。
事件が自分自身の責任で起こってしまったと自責的、自罰的に考えず、適切で妥当な範囲で起こったものだと責任を外に向けかえること。
そして、対処可能性の向上。
自分自身の能力やスキルや資源を用いて、危険を回避できるという自分自身への信頼感の回復。
東日本大震災の時に、PTSDに対して、どうしたらよいかは学んでいる。
だが、俺の場合、誰も助けてくれない。
結局自分で何とかするしかないのだ。
責任を転化するのは容易だ。
スペインのせいだと考えればいい。
そして、モヤモヤを感じていた時に、もっとよく考えて行動していれば回避できた。
先に、ちょっとクギを指しておけばよかったのだ。
だが、これでは堂々巡りにしかならない…
俺は定例のミーティングでスペインの侵略行為を報告した。
「馬鹿者!」
ハリスさんに怒鳴られた。当然だ…
「なぜ、君が責任を感じる必要がある。
思いあがるなシュウ、このプロジェクトの責任者は私だ。
スペインをけん制しておかなかったのは、気づけなかった私の責だ」
「えっ?」
「君は、我々の要望を叶えてくれるし、大きな力を持っている。
自分の責任だと感じる気持ちはよくわかるが、最終決定権は私にある。
あそこまで調整しておきながら、それでもスペインが文明を滅ぼすと気づけなかったのは、このプロジェクトの責任であり、私の落ち度だ」
ああ、そうだった。
いつの間にか、自分一人でやっているつもりになっていたが、ホールを閉じるまではプロジェクトで動いていたのだ…
そして、俺はカエデにすべてを打ち明けた。
「そっか、ここに連れてくればよかったのに」
「えっ?」
「ここは、世界で一番安全な場所だよ。
なにかあれば、お爺ちゃんやお父さんお母さんが飛んできてくれる。
タイガやシズクもいるし、チーターたちもいるんだから、シュウが少しでも不安に思ったらここに連れてくればいいの」
「いいのか」
「いいに決まってるでしょ。
全部ひとりで抱え込まないで。
ここにいるのはシュウの家族なのよ」
ああ、そうだった…
自分には家族がいたんだ…
それでも、完全に吹っ切れたわけではないが、気持ちがスッと軽くなった。
ミュウとクロにはかわいそうなことをした。
俺は、花を持ってミュウの墓に向かった。
第9の世界はユーフラシアにどことなく似ていた。
決定的に違ったのは、太平洋のど真ん中に大陸があり、オーストラリアとアフリカが存在しなかった。
まさか、ムー大陸なのか…
アメリカ大陸に人類の痕跡はなかった。
滅んだのか、ベーリング海峡を渡れなかったのか…
「人の集落は、アジアと中央の大陸に集中しています」
「中央の大陸はどんな感じだった」
「それが、航空機が多く飛び交っていて、近づけませんでした」
「まさか、それだけ発達した世界なのか?」
「ただ、推進力がわかりません。
プロペラやローター、ジェット噴射の様子はなく、ひょっとしたら魔法のようなものかもしれません」
「視認できるほどに近づいても、探知されなかったということですか」
「ええ、レーダーのような機能はないのかもしれませんね。
それと、高層の建造物はあったのですが、遠くから見ても滑らかな感じでした」
「どうしましょうか。
接触するにしても、大勢で行って複数の目で確かめるか、これまでのようにシュウくんに任せるかですが」
「相手が友好的でない場合を想定すると、少人数の方がよいのでは」
「では、一度有志だけで接触してみましょうか」
こうして、翌日俺と代表と他2名により訪問した。
大陸上空に入ると、警戒艇のような飛行艇に包囲された。
一機が発光信号を出して先導していくようなので後をついていく。
中央付近の建物に着陸すると、建物から人が現れた。
全身を覆い、目と鼻と口だけ出た白いスーツを着て、銃のようなものを持っている。
俺たちは両手をあげて敵意のないことを示す。
「ようこそ、ラ・ムーへ。
あなた方は何者ですか?」
ハリスさんは理解できないようなので、俺が返事をする。
「私たちは、この星の並行世界からきました。
それぞれの世界がいつ頃分岐して、どんな歴史を歩いてきたのか知るためです」
「そういう世界があるという理論は聞いたことがあります。
もしよければ、建物の中で話しませんか」
「ありがとうございます。
お言葉に甘えて中でお話しさせてください」
俺は多目的装輪装甲車パトリアAMVを収納へしまった。
「ほう、空間の制御ですか」
「ええ、こうしておけば、余計なものはしまっておけますので便利なんですよ」
実は、緊急時にはみんなを連れて瞬間移動で帰るつもりだったのだ。
「では、スーツを脱ぎますから、驚かないでくださいね」
スーツの下は黒いアリだった。
「我々がサルから分岐したのが約250万年前になります。
あなたがたは如何ですか」
「約50万年前といわれていますが、確かにそのころの遺跡には毛の少ないサルがいた痕跡はみられます」
「失礼ですが、我々の世界のアリは、大きくても3cm程度で、このように大きな固体は見たことがありません」
「そうですね。
サルは骨が残りますから、進化の過程がわかります。
でも、我々に硬い外皮はあっても化石として残ることはありません。
せいぜい小さい種類が松脂などで固まって残る程度です。
我々自身も進化の過程が追えず、記録に残る3000年前くらいしかわかりません」
「すると、僕らの世界でも、大きな種族がいた可能性があるということですね」
「そうなりますね。
ただ、この世界のサルはそれなりに進化して、みなさんと同じような外見をしています。
ですが、文字を持たず、せいぜい集落を作って火を使うくらいです」
「こちらの乗り物は、魔法を使っていますよね。
ほかの動力はないんですか?」
「熱は使いますが火は使いません。
動力は魔法のみです。
そちらは違うのですか?」
「火を前提としたものが多く使われています。
今の世界は、魔法は主流ではありません」
「なぜ、魔法を主流としないのですか」
「僕は、別の並行世界で魔法を学びましたが、彼らは魔法のない進化をしてきました。
例えば、魔法で光を作ります『ライト!』
彼らは火を電気というエネルギーに変えてこのように道具を使って光を得ます。
どうぞ、これは手土産として差し上げます。
光らなくなったら、この部分を太陽にあててしばらくすれば点くようになります」
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