第6話、ギルドで依頼を受けてみたりして……

 翌朝ギルドに顔を出すと、受付のマリーさんからギルド長に合うよう言われた。

案内されるままにギルド長へ移動すると、相変わらずスキンヘッドのコンゴウさんがいた。


「シュウか、よく来たな。道場はどうだった?」


「とりあえずは基礎を叩き込んでいただきました。

紹介いただき、ありがとうございます」


「俺に感謝してるんだな。

よし、じゃあ一点目は……オヤジにやったオモチャを俺にもよこせ」


「オモチャ……ですか?」


「ああ、お前が腰にぶら下げている、シュリンプなんとかって美味そうな名前のやつだ。強化版の方だぞ」


「いいですよ。予備のゴムはたくさんありますから」


 収納からスリングショットを取り出して手渡す。


「カエデの分はないのか?」


「本体の方がないんですよね。これ、鍛冶の人にでも作ってもらえませんかね」


「分かった。検討しておく」


「二点目だ、俺は今腹が減っている……」


「はあ……」


 言いたいことは分かったが、素直に応じるつもりはない。


「俺は、こってりしたモンが好きだ……」


「はあ……それで?」


「俺は気のきかないヤツが娘の近くにいると殴りたくなるんだ」


「あっ、クマドンですね。でも、麦飯がないんですよね」


「おいマリー、食堂からメシだけもらってきてくれ」


「じゃあ、三点目だ。オヤジが十五位に任命した以上、領主への謁見えっけんが必要だ。他にも色々と説明せにゃならんが……くそっ、オヤジのやつ丸投げしやがって」


 領主って変換されたけど、厳密には王様に近いんだろうな。

もしくは首長か。語感で分かるからどうでもいいけど


「十五位って何ですか?」


「そっからかよ……」


 この町には、時々訪れる脅威に対抗するため、領主直属の兵士の他に十五人の非常勤自衛組織がある。

強さ順に一位から十五位まで割り振られており、2年間不在だった十五位に俺が任命されたって事だそうだ。

ちなみに一位が先生で、二位がギルマス。それ以降はおおむね道場生か冒険者で構成されており、緊急事態の際は最優先で対応に当たらなければならない。

手当はでるが名誉職でもあり、特権として領主軍と道場の設備・武具を無償で使うことができる。

カエデさんも七位に任じられているそうだ。


「カエデと結婚したければ、カエデの上位でなければ認めない。

認定は俺とオヤジが行うから、お前には無理だな。わっはっは」


 おい、娘の婿選びに私情を挟むなよ……と突っ込みかけたところへ、マリーさんがドンブリと茶碗によそわれたご飯を二膳持ってきた。


「あっ、僕は食事済ませてますから」


「えっ?」 「えっ……?」


 どうやら、マリーさんの分だったようだ……


「ぐっ、うまいな……」

「ええ、おいしいですね」

「あいつら、一週間も自分たちだけこれを食ってたのかよ……許せんな」

「ええ、思い知らせてやりましょう」


「よし、シュウ、お前ここの食堂で働け!

去年、料理長がポックリっちゃってな、未亡人であるおばちゃんだけなんだが……味がな……」


「コンゴウちゃんにしてはナイスアイデアですわ」


「イヤですよ。せっかく冒険者になったんですから……

道場でもまかないやれとか言われましたし、カエデさんからは専属の肉係をやれって……」


「なにっ!カエデから専属の肉係だと……あいつ……まさか」


にらまないでくださいよ。お断りしましたから」


「断っただと!お前、人の娘をなんだと思ってるんだ!」


 はあ……ため息しか出ないわ……

だけどな、今後の身の振り方も考えなくっちゃいけないし、部屋の調味料や食材もどんどん減っていくし、どうしたもんかな。


「それでだな、この町の脅威きょういのひとつに、定期的に北の迷宮から湧いてくるスケルトンとゾンビの問題がある」


「アンデッド系ですね」


「ああ、半年に一回程度の頻度で、だいたい2000から3000体くらいが迷宮から溢れてこの街に襲いかかってくる。

俺たちはアンデッドエラーと呼んでいるが、お前の前任者も、2年前の夏、アンデッドエラーの犠牲となった」


「でも、3000体を30人ですか……」


「一人で順番に100体を倒すのならお前レベルでも可能だろう。

だが、均等に来てくれるワケじゃないし順番を守ってくれるワケでもない。

奴らは本能的に弱い奴から狙ってくる。お前、囲まれて同時に襲ってくる20体に対処できるか?

まあ、どっちにしても迷宮に出向いて対アンデッドの訓練はしてもらうがな。

それから、食堂の件はマジで考えてくれ。急いで答えを出さなくてもいいから」


「十五位って事は、ランクもゴールドの1ですよね」


「ああ、そうだな。そっちは任せたマリー。

それから、シュウは明朝また顔を出してくれ。

領主謁見のスケジュールを調整するから」


 ギルドカードが金色のものに交換された。俺は依頼表の貼ってある掲示板を確認したがオークやミノタウロスなんて書かれているものは貼ってなかった。

ゴールドカードだから、掲示されているものは全て受注可能なのにな。


 仕方なく、カウンターのマリーさんに聞いてみる。


「マリーさん、美味しい肉の獲れる依頼ってありませんか?」


「美味しい肉ですか、私はさっきのクマ肉で十分ですけど」


「もっと美味しい肉で作ったほうが楽しくありませんか?」


「ドラゴンの肉はとっても美味しいそうですよ」


「ドラゴンですか……まだハードルが高そうですね。他にはないですか?できれば身近なところで」


「そういえばさっき、畑を荒らすイノシシ退治の依頼が……ああ、これこれ、イノシシの親子連れで……」


「それ、場所はどこですか?」


「えっと、10kmほど南に行った10件ほどの集落ですね」


「それ受けます」


「報酬は低いですよ」


「かまいません」


 早速、依頼書を片手に南に向かう。

10kmを一時間弱で走ると、集落が見えてきた。

依頼者に尋ねると、昨夜も現れたという。


「サクラ、匂いは残ってる?」


『大丈夫よ』


 犬ほどではないが、猫も嗅覚に優れている。

サクラの誘導で、ほどなくして親子で寝ているイノシシを見つけることができた。

風下から慎重に接近し、頭への一撃で親イノシシをほふる。

その物音で6匹のうり坊たちが騒ぎ出すも、サクラとクロウによって一網打尽にした。親イノシシはでかかった。2m近くある。


 収納にしまい、依頼者に確認してもらうと間違いないとの事。

依頼書に完了確認のサインをもらい、うり坊一匹をおすそ分けして引き返す。


「依頼完了ですね。報酬の銀貨5枚は現金がいいですか?それとも貯めておきますか?」


「貯めておいてください」


 カード発行者は、同時に専用の口座を設けることができる。

利息はつかないが、カードを提示すればいつでも現金を引き出すことができるので便利だ。


「ワタシのお肉……」


 背後霊のようにカエデさんがいた……流石に七位……気配は感じなかった。


「はいはい、新しい肉を手に入れましたからね。でも、一晩くらい寝かせないと美味しくならないので、今日はクマ肉で我慢してくださいね」


 ギルドの素材倉庫で血抜きと解体をさせてもらう。

借用料と助っ人料としてうり坊一匹。


「でかくていい肉ですね」


「ええ、色々な料理に使えます」


「部位によって分けているのはどうしてでしょう」


「部位によって、脂の入り方とか柔らかさが違いますから、それに適した料理があるんですよ」


 切り分けながら、ここはトン……いやイノカツだなとか、シチューだなとか考える。

カエデさんも嬉しそうだ。

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