第69話、ダークエルフがいた
第3世界に住むウンディーネは、亜人というよりも水の妖精に近い。
そのため、あまり物欲もなく、食事についても特にこだわりがなく…と、思っていたのだが、実は美食家だった。
町には食べ物屋と食材を売る店が並んでおり、牛丼店の店も売り上げがいまいちだった。
試しに一軒の食堂に入ってみたが、なるほど新鮮な野菜の刺身とか、ゆで野菜などのメニューが目立つ。
魚の刺身だけでなく、牛レバーの刺身とか塩焼など、あまり調味料を使ったものはない。
「これは、作戦を練る必要があるな」
「そうにゃ、クロウはここの魚のメニューで満足にゃ」
「そうすると、ここの人たちが食べたことのない食材を考えるか」
「ポテトチップスとか良いと思うにゃ」
「ああ、うす塩あたりだな。それとジャガバターも行けそうだが、うーん、今一ピンとこないんだよな」
「プリンがいいにゃ」
「ポテチやプリンだと簡単にマネできるだろ。
それじゃあ、作り方だけ取られておしまいだぞ。
マーメイドのソフィアあたりに相談してみるか」
ソフィアに相談したら、簡単に答えが見つかった。
確かにアレならマネできないな。
俺たちはソレを準備してウンディーネの女王のもとに向かった。
「王女様、もう少しルシファー様の布教を進めていただけませんか」
「そうはいっても、この国の者は自分の生活に密着したものでないと無関心なのですよ」
「では、関心の持てる食材などを提供できれば推し進めていただけると」
「そういう事です」
「今提供している牛丼では効果がないというわけですね」
「牛丼というのは、味の濃いタレで獣臭さを殺しているだけで、まあ、確かに美味しいですけど私たちが満足できる程ではありませんね。
もっと素材の良さを引き出すような料理はありませんか?」
「では、こちらの親子丼は如何でしょう。
鶏肉は地域名産の地鶏を使い、タマゴも厳選したものを使っています」
「確かに美味しいですけど、私たちを満足させるほどではありませんね。
まあ、普段の食事としては合格点ですけど」
唐揚げもトンカツも油が多すぎて好みではないようだ。
「素材の味を活かした料理ならば、タラバガニは如何でしょう。
深海に住んでいるため、特殊なゴーレムで捕獲してきました。
今回は刺身と素焼きとゆでガニをご用意させていただきました。
まずは何もつけずにお召し上がりください」
「どれ、… … …
これです!ああ、この触感、ほのかな甘み、ああ、極上のお味です」
「カニ酢もお試しください。味に変化が出ますよ」
「ああ、至極の時間です…」
「ただ、高級食材ですし、なにしろ200m以上の深海でしか捕れませんから、普段の食事に出すのは無理ですね」
「200m!泳ぎの得意な私たちでもそれは無理…」
「まあ、ルシファー様の布教をもっと積極的にやっていただけるなら、時々はお持ちしますよ」
「や、約束ですよ。絶対ですからね!」
民間にはソフトクリームを提供することで了解を得た。
同じ第3世界のノーム国は、主に鉱石業を生業としており、石の加工に自信を持っている。
ただ、ドワーフと違って酒で釣れるほど酒のみではない。
「新しい料理を普及してくれるのは嬉しいが、わしらの心を掴むほどではないのう」
「そう思って、今日は飛び切りの宝石を持ってきました。
こちらは如何でしょう」
「宝石の加工でわしらの技術を超えるものなどあるはずがなかろう」
「ダイヤモンドのラウンド・ブリリアント・カットという数学的に反射を計算しつくした58のカットを施したものです」
「なに!…こ、これは、見事な輝き…58ものカットを施しておるのか…」
「ダイヤの原石は、それほど綺麗な輝きはありませんよね。しかも固く研磨も一苦労ですよね。
ここまでカットするのがどれほどの技術かノームの皆さんにはご理解いただけるでしょう。
今回は、カットを理解していただくために、大きめの石。そして、これは人口的に作り出したものです。
天然物には劣りますが、2カラットのものを持ってきました」
「た、確かにこの大きさならカットの構造がわかる」
「如何でしょう。
ルシファー様の布教をもっと大々的にやっていただけるならこれを置いていきましょう」
「や、やるとも!いや、やらせてもらう」
第二獣人国は、狩猟を生業とする第一獣人国と違って、ネコ系やラビット系など、戦闘が不向きなタイプが集まっている。
主な産業は織物と服飾で、手縫いの用品店や生地専門店が軒を並べている。
「如何でしょう、こちらは化学繊維といいまして、原料自体を人工的に作り出した量産型の生地でございます。
それと比べて、こちらは虫の繭から紡ぎだした天然のシルク。最高級品です。
特殊な虫の繭で、私どもの世界でも特定の場所にしか生息していませんし、特定の葉しか食べない虫です」
「おお、なんと柔らかい生地なのじゃ。
量産型も肌触りがいい…」
「布教活動を積極的に展開していただけるなら、定期的に納品いたしましょう」
「ああ、やらせてもらおう」
こうして第3世界はルシファー様の信仰を盤石のものとした。
いいのかそれで…
第16世界はゼウス様のエリアだ。
グリーンホールの向こうは草原が広がり、森の中にまばらに家屋が見える。
そこはエルフの集落だった。
厳密にいえば、小麦色の肌をしたダークエルフだ。
「こんにちわ」
「あら、お客さんなんて珍しい」
「ここはダークエルフさんの集落なんですか?」
「そうですよ。
このあたりに住んでいるのはダークエルフだけですよ」
「ほかの種族の方はいないんですか」
「別の大陸には、エルフやハイエルフがいるって聞いてますけど、私たちにはわかりません」
「私たちは神様の使いで来たんですけど、神様ってわかりますか?」
「ええ。私たちも森の神様を信仰していますから」
「その神様を祀る教会とか、神官様はおられますか?」
「いえ、森の神様はすべての木々に宿っていますから、特に誰がとかどこがというおのはありません」
「では、ここの一番偉い人に会いたいのですが」
「村長でしたら、中央の一番高い木に住んでますよ」
「ありがとうございます」
いわれた場所に行ってみると、確かに巨大な老木があり、そこに組み込まれたような家があった。
成長によって家が傾いたりしないのだろうか…
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