第20話、チーター?知ってるよ、地上最速のネコだろう

「北の山脈の向こう側は氷の世界でした。

少数の魔物の気配はありましたが、植物もなく不毛といっていいでしょう。

その奥に魔族の拠点があり、数千のメタルガーゴイルやゴーレム、メタル系ビーストが出現しましたが、すべて討伐し拠点を破壊したところ、魔族は穴に逃げ込んでいきました」


「穴?」


「ええ、物理的な穴というよりは、空間的な穴です。

おそらく、その向こうが魔族の住処なんでしょう。

穴は強化した岩で塞いでおきましたので、当分は大丈夫だと思います」


「しかし、数千のメタルガーゴイルとはなあ」


「どのような魔族がいるのかは知りませんが、あの極寒の地では移動する事もままならないでしょう。だから、ゴーレム系に頼らざるを得なかったんだと思います。

それに、飛行系でないと山脈を超えるのも時間がかかりすぎますからね」


「いずれにしても、メタルガーゴイルの危機は避けられたと見ていいじゃろう。

シュウ、ご苦労じゃった」


「領主様には俺から報告しておこう。

お前は早く帰ってカエデたちを安心させてやってくれ」


「はい。そういえばこの2か月、まともに帰ってないですからね」


「二人はドランにいる」




シュン!

俺はドランの領主室に瞬間移動する。


「おお、シュン」 「「シュン!」」


「メタルガーゴイルとかはどうなった」


「敵の本拠を叩いてきた」


「相変わらず無茶するやつだ」


「シュウ、ケガは?」


「大丈夫だ。さあ、久しぶりに家へ帰ろう」


「シュウ、明日にでももう一度来てくれないか。相談したい事がある」


「別に疲れてないから、今でもいいぞ。

ああ、その前に、チーターって知ってるか?」


「ああ、ルシアから聞いた事がある。

365歩歩くとかいうマーチを歌う歌手だな。

日々の積み重ねが大事だと…」


「いや、それじゃあない」


「地上最速のハンター…」


「こっちの世界での話だ」


「あれか、夜こっそりと靴を直してくれる小人の童話」


「どんな話だ?」


「貧しい親子がいてな、ある日靴が壊れて外出できなくなってしまったんだ。

晩御飯も食べられなくて泣きながら眠ってしまったんだが、朝になるとご飯が消えて修理された靴が残っていたという話だ。

教訓めいたものはないし、なぜ童話として残っているのか分からないのだが」


「そうか、女王、出てきてくれ」


「シュウよ、窮屈きゅうくつなところへ押し込まないでください」


「「「!」」」


「それは…」


「チーターの女王チートリアルだ。

女王、こちらはこの国の王、ケビンと、俺の嫁カエデとルシアだ」


「チートリアルにございます。

此度、シュウとちぎりを交わしましたので、同行してまいりました」


「「「契り!」」」


「シュウ、まさかその人と…」


「どうやって…」


「勘違いするな。文字通り契約を交わしたという意味だ」


「ふふ、シュウよ。私は男女の関係になってやっても良いぞ」


「やめろ、嫁が本気にする」


「ふむ、三人目の妻か、法的には問題ないな」


「やめろ、ケビン」


「われらチーターは、繁殖力が弱く、今では100人余りになってしまいました。

特に女性が少ないため、一妻多夫制をとっています。

特に、他の優れた血を取り込むのは必須。故に冗談ごとではありません」


「具体的にどうするかは、後で4人で話し合いましょう」


「カ、カエデさん…」


「シュウ、仮にも一族を束ねる長が冗談ごとではないと言っているのです。

真剣に向き合わないでどうするのですか」


「はい…

まあ、その話は後にしよう。

このチーターたちがメタルガーゴイルを作っていた。

だから、メタルガーゴイルの危機は去ったといえる」


「すると、女王だけでなく、ほかのチーターも」


「ああ、同行してもらった」


「それで、彼女たちをどうするんだ?」


「チーターは、魔道具作りの専門家だ。

だが、今回のように悪意を持って使えばメタルガーゴイルのようなものが出てきてしまう」


「チーター自身は、それほど強い存在でもなさそうだからな」


「チーターの存在は、この4人だけの秘密にしてくれ。

彼女たちの作る道具を世に出すかどうかは俺が判断する。

迷ったときにはお前たちに相談させてもらう」


「ああ、それが一番だろうな」


「今、収納が魔道具で実現しそうなんだ」


「収納が!」


「ああ、だがこれを世に出してしまうと不正や悪事に利用されかねない」


「確かに、盗み放題になるな」


「だから、その道具は信頼できる者にしか与えられない」


「そういう事だな」


「俺のほうは以上だ。ケビンの話は?」


「西の町、ガンダから、支援の要請を受けた」


「ガンダ?」


「ああ、漁業の盛んな町なんだが、不漁が続いているらしい。

塩害で作物の育ちにくい土地だから、肉と穀物を提供してほしいそうだ。

特にマーメイド族には深刻な問題で、彼女たちは魚と海藻しか食べられない」


「ま、マーメイド族だと!」


「シュウ!妻は3人までですからね」


「いや、妻とかいう前に、人魚が存在するのか?」


「絶対に妙味を持つだろうから、ルシアと相談して内緒にしてたのに…」


「そりゃあ、人魚は男のロマンだからな」


「安心しろ、マーメイド族には婚姻という概念はない。

女系社会だからな。繁殖期に入った個体が子種だけを求めてくるんだ」


「お、お兄様、もしかして…」


「う、いや、…

だから、相談は明日にしようと…」


「そうか、女だけの社会では、男の助けは必要だな」


「うむ、そういう事だ」


「ルシア、二か月の禁欲生活で、ほら」


「そうですね。余計なおかないといけませんね」


「明日は所用がある。明後日、詳しい話を聞かせてくれ」


「ああ、明日は足腰が立たないだろうから…」





「この部屋のものは自由に使ってくれ。必要な材料があれば調達する。

ただし、この差し込み口に注意してくれ、雷と同じ種類のエネルギーを使っている。

このエネルギーは2種類の極からできていて、接触させると…」


バチッ!


オオッ!


「このように熱エネルギーを発するが、安全装置が働いて切れるようになっている」


「ふむ、興味深いですな。

このエネルギーは、どこから得ているのですか」


「屋根に光を集める装置があって、光をこのデンキというエネルギーに変換している。

ただ、デンキを使っているのは俺の家だけだ。一般的なエネルギーではない」


「デンキというのは、光からしか得られないのですか」


「いや、物を擦りあわせたり、磁力を特定の条件で…そういえば、実験セットがあったな。

ああ、あそこにある…

この先についているのは、デンキの圧がかかると発光する発光ダイオードLEDという装置だ。

そして、この部分が電気を発生させるのだが、磁石のプラスとマイナスの間で電線を巻き付けたコイルを回すとデンキが発生する。

これを応用してこの風車を回してやると、同じ軸についたコイルが回転して電気を作り出し、このようにLEDが発光する」


オオッ!


「その逆の原理で、こっちから電気を流してやると、コイルが回転して風車を回すことができる」


「こ、これは画期的な発見だ!

このLEDの部分に別の風車を付ければ、風車の回転を電気に変換して、別の場所で風車を回転させる。いわば、エネルギーの移動が可能だと…」


「光や動力だけでなく、熱エネルギーにも変換可能だ。電気は特定の抵抗をもった物質に流すと発熱する。

まあ、そのへんは、機会を見て説明してあげよう」


「こ、この軽い金属はなんだ」


「アルミという金属だ。軽いかわりに、柔らかい。だが、特定の素材と混ぜることで、鉄以上の強度を持たせることができる。

ほかにもチタンや炭素を使ったカーボンにプラスチック、透明なガラスやアクリルといった素材がある。

使い慣れたミスリルや魔鉱石もふんだんにあるから、自由に使っていいぞ」


「こ、ここは宝の宝庫なのか」

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