第65話、第11世界の布教活動…俺は宣教師でも車のセールスマンでもねえよ!

第4世界はゼウス様の管轄だ。

サクラとソフィアに下見をさせておいたのだが、やはり4大文明の流域中心に集落ができているようだ。

まずは黄河・揚子江文明だ。というよりも、もっと進んだ時代のイメージで真漢という国になっている。


産業は絹織物と水稲作が定着しており、青銅器・鉄器も使われている。

カイコが誕生しているのは有難い。

塩と鉄が国の専売となっており、勝手に作ることができない。

なんとも面倒なことだ。


人口は数百万人規模で、皇帝が統治している。

綺麗に彩色された薄い土器が焼かれ、文様も見られる。磁器の文化だ。


黄河・揚子江を中心に広く国が展開され一つの街には数十万人の人がいる。

こんなの、どうやって布教すんだよ…


神という概念はなく、天上人という古代の英霊が住む世界があり、皇帝は天上人と同等と解釈されている。


無理じゃね…これ。


とりあえず、黄河中流域で皇帝のいる洛陽へ入るが、まあ、にぎやかだ。


牛・豚・犬・鶏・馬が飼われており、稲作と並行して大豆・麦・芋・桑なども栽培されている。


魔法は、妖術と呼ばれ、一部の者が使っているようだ。



思い悩んだ挙句、皇帝に直接面会を申し入れてみることにした。


多目的装輪装甲車パトリアAMVで空から乗り付け、天子の使いだと名乗った。

手土産としてチタン製の宝剣とステンレス製の両手剣を持参する。




「すると、天上には英霊などおらず、ゼウスという天子様がおるだけと申すのか」


「さようでございます。

王、皇帝といえど、天上に入ることは許されません。

唯一、私だけが使いとして行き来することを許されております。

その証拠として、これなる二振りの剣を持参いたしました」


「この剣がなんだというのだ」


「地上には存在しない金属でできております。

どうぞ、お手に取ってご確認くださいませ」


「おお!これほど軽い剣とは…

だが、大きい方は普通の鉄とどう違う」


「鉄よりも頑丈で、錆びません」


「これをわしにと申すか」


「はい」


「して、何が望みだ」


「国民がゼウス様を敬い、感謝の祈りを捧げていただきたい」


「感謝とは?」


「ゼウス様のご機嫌を損ねることは、世界の崩壊を意味します。

ですから、世界が在るのはゼウス様のおかげと」


「俄かには信じられんが…」


「何をお見せすれば信じていただけますか?

 例えば、そこの木に雷いかづちをおとすとか」


ピカッ ドーン!


「「「おお!」」」


「水を降らせる」


シャーッ!


「「「おお!」」」


「不敬なる者がいれば、雷を落として罰して見せましょう」


「い、いや、それは…」


「ゼウス様の石像を置いておきますので、これを祀る建物を建て、皇帝自らが敬い。全国民にも知らしめていただきたい。

以上です。

では、失礼を」


シュン!




次はインドだが、インドでもメソポタミアでも同じように王に直訴した。

エジプト、ヨーロッパも同じだ。


アメリカ大陸に人は渡っていない。

とりあえず、第4世界はこの程度で様子を見ることにした。




さて、第11世界である。

ここはルシファー様の管轄となるが、また亜人種…しかも鬼とは。

鬼といっても、額に突起が出ているだけで、頭の天辺に角があるわけではない。

地理的には第1世界と同等で、特に北東アジアを中心に広がっている。



どうも、角のある人々は魔法を使っているようだ。

この世界は、魔法と科学が混在している世界だった。


今回から、新たに布教活動用のスタッフが加わっている。

これは、プレジデントが手配してくれたもので、まあ、布教の可否が世界崩壊に直結していると考えれば当然だろう。

この世界でもアメリカの歴史は浅い。

それなりに先住民族との共存はできているが、それでも近代史としては600年程度なのだ。

したがって、王制はなく大統領制となっている。


俺と布教スタッフは、アメリカ大統領に直訴するのが手っ取り早いと判断した。

並行世界から来た旨を説明し、協力を仰ぐことにしたのだ。


というよりも、こっちでもグリーンホールは基地だったのだ。

少しだけ違う軍服の兵士に囲まれた時には笑いだしてしまったほどである。


俺たちの説明は受け入れられ、世にも珍しいアメリカ合衆国プレジデント同士の対談が実現した。

両方ともに、ユーモアのセンスがあるようで、メディアへの中継で、自分こそが合衆国のプレジデントだと主張するシーンから中継が始まったのだ。


最後は共同声明にそれぞれが署名し、このグリーンホールは当面開けたままにしておくこととなった。


俺は飛行型ワゴンを10台作り、プレジデントに5台提供した。

この車で日本へ行き、角のある魔法を使える人間をスカウトする。

日本の首相も角持ちで、軍隊と政府関係者の中から10名をアメリカに派遣してもらう合意を取り付けた。

残りの5台は日本へのプレゼントだ。


流石に魔道具はつくられておらず、首相から大変感謝された。

首相とプレジデント専用車両は、当然特別仕様のマッサージチェア付きだ。


ここで割り込んできたのが朝鮮と中国だ。

この世界では戦争は回避されていたので、日本と良好な関係にある。

仕方なく、両国へも一台ずつ寄贈することになった。


日本へはスカイボードも30枚提供したのだが、中国と朝鮮はこれも欲しいと言ってきたが、今のところ断っている。


この世界でも、プレジデントの仲介でバチカンと事前協議を行った。

なにしろ、ルシファーといえば天界を追放された堕天使であり、悪魔方のボスなのだ。

当然抵抗されるかと思ったが、すんなりと受け入れられた。

見返りはワゴン車2台である…


しかも、パールホワイトベースで、金色の装飾を施したものだ。

俺は承諾せざるを得ない。

また、こうなってくると悪ノリするのが(第一世界の)日本のメーカーだ。

得体のしれないマニアックな奴らを集めて、4台の特別仕様車を作ってきやがった…

勿論、2台は第一世界のバチカン用だ。

運転手?

バンパイアにも敬虔けいけんなクリスチャンは大勢いるよ。

なんたって、十字架は別に弱点じゃないんだからさ…


現代のバチカンも大喜びで金ぴか飛行仕様の日本車を受け取ったよ。

日本のメーカーは、第11世界の同名メーカーと結託して、同じ型のワゴン車を作り始めやがったよ。

表向きはメンテナンス対応のためだと…


こうして俺は、第11世界のアメリカから全世界に向けてルシファー様の布教活動を行うことになった。

原稿はチームが作ってくれるからいいけどさ。


そしたらさ、人口の多い国から、全面協力するからワゴン車をよこせと言ってきた。

仕様を変えるのは面倒だから、日本のT社ワゴン車を用意しろって言ってやったよ。

もうね、発売直後からバカ売れよ…


各国には納車時に美味いもんを用意させて、チーターに食わせたよ。

あいつら、個別に雇ったら、とんでもない給料になるんだろうな…ホント。

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