第40話、バンパイアウイルスだと ゾンビじゃねえのかよ
アメリカ陸軍基地フォート・デトリック内に設けられたアメリカ陸軍ウィルス医学研究所では、極秘で入手したネズミの死骸2体からウィルスの特定作業を行っていた。
折しも、プレジデントが辞意を表明しており、この報告は宙ぶらりんの状態となってしまった。
もし、プレジデントが知っていれば、あのような事態は起こらなかったかもしれない。
メリーランド州にあるアメリカ陸軍ウイルス医学研究所では、プロジェクトによってチームが編成される。
今回のプロジェクトでは、主任のミヤギさんと、ピーターと私マリエの3人が指名された。
ピーターの親が、アトランタに住んでおりたまたま帰っていた彼が密かにネズミを確保してきたのだ。
ウィルスの分離、培養、マウスへの投与を繰り返すうちに、ゾンビ化は2種類のウィルスに絞られてきた。
「おかしいんですよ。
どちらも、不死身に近い状態を示して、飛沫感染で増えていくんですが、両方ともに銀と紫外線で駆除されてしまうんです。
ウィルス自体は75%のアルコール塗布で死滅することも確認できています」
「違いはないのか?」
「それが…、片方は感染と同時に生命活動を停止するのに対して、片方は生命活動が活性化してるんです」
「活性化?」
「運動能力や新陳代謝は2倍に増えています」
「それでは、ゾンビではないだろう」
「そうなんですよ」
「まあいい。とりあえず、ゾンビウィルスの方をワクチン開発課へ回そう。多分、民間への委託になるだろうが」
「はい」
「もう一つの方は、引き続き特性を調べてくれ」
「はい」
継続する事になったTypeBの方は、驚くべき代物だった。
狂暴化するのだが、とんでもない回復力を見せたのだ。
ケガで死にかけているマウスに投与したところ、3時間で全快した。
更に、ガン細胞をも駆逐してみせたのだ。
後天性免疫不全症候群AIDSに対しても効果があり、ある意味で万能薬と思えた。
「紫外線と銀が弱点か…、もし、投与してがん細胞を駆除してからTypeBウイルスを消せれば、文字通り万能薬の完成だな」
「そうでなくとも、紫外線を浴びずに生活することは可能です。銀を持たなくとも、生きていくことができます」
「問題は狂暴化だな」
「生肉や血液の投与で、破壊衝動を抑えられることも確認できています」
「主任、これって吸血鬼の…」
「言いたいことは分かりますが、十字架やニンニクといったものに何の抵抗も効果もありません。
吸血鬼ではありません、スーパーウィルスですよ」
「だがな、紫外線と銀で灰になっちまうんだぞ」
「末期症状の患者にとっては、最後の希望ですよ。
少なくとも、地下で隔離すれば生きられるんです」
「保冷水筒に血を入れて持たせれば、外出も可能か…
分かった、所長に報告して判断を仰ごう」
「お願いします」
「ふう、バンパイア・ウイルスかね…」
「これは、軍事利用も可能ではないのかね。
まさに不死身の兵士だ」
「銀はともかくとして、紫外線対策をどうするかだ」
「UVカットの全身スーツはどうでしょうか」
「それとサングラスで…まさにMIBだな。
だが、例えば重傷で助かる見込みのない兵士に投与したらどうかね。
それと、バンパイア・ウィルスに感染した後でゾンビ・ウィルスが効くのかどうか。
ゾンビ・ウィルスを無効にできるなら、暫定的なゾンビ対策に使えるではないか」
「は、至急確認いたします」
「ともかく、これは極秘プロジェクトだ。
ゾンビ・ウィルスはコード・ZV001、バンパイア・ウィルスはVV001で統一しよう。
関係者以外は秘密厳守で頼む」
VV001は、感染速度でZV001に劣るものの、感染後はZV001に対して抗体を持つことが確認された。
しかも、心停止直後の血管投与ならば有効であった。
こうして、軍部内で密かにVプロジェクトが展開されていった。
軍関係の病院に運び込まれた重症患者は、家族の同意を得てVV001を投与される。
そして、軍関係の施設には、密かに血液がストックされるようになった。
ストックというよりも、専属のIDカードで供給される自動販売機だ。
特殊部隊Vチームは、災害救助など様々な場面で活躍した。
常人の2倍の運動能力と不死身性あっての活躍だったが、一般人の知るところではない。
Vプロジェクト参加者の中には、家庭に復帰する者もいたが、不慮の事故だけは避けられなかった。
たとえば、銀の食器である。
パスタを食べようとして、フォークを持った途端に灰になってしまうのである。
家族には徹底して銀製品を処分するよう通知してあったのだが、うっかりが悲劇を呼ぶ。
私の妹は、急性骨髄性白血病で、生存率委は約50%。
遺伝子異常のタイプであることから、5年生存率が20%前後です。
私は妹ケイトとよく話し合ったうえで覚悟を決めました。
「なに!君まで発症したというのか」
「はい、同居の妹も発症してしまいました。
どこかで、感染につながるミスがあったんだと思います」
「仕方ない、プロジェクトの関係者として特殊部隊のスタッフに加わってもらう。
まあ、内情を知る君がスタッフになってくれるのは我々としても助かるところだ」
私たちには特別仕様の全身スーツが支給されました。
実際の肌の色に近く、サングラスをしていればほとんど分かりません。
今日も、勤務後に二人で買い物に出かけています。
妹の病気は感知しており、今では私の助手としてがんばってくれています。
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