第48話、放送局を案内しろって 俺はただの元会社員だ

人類がシベリアからアメリカへ渡ったのが25000年前といわれている。

このころは、陸続きだったのだ。

マンモスやカリブーを追っていったものだが、青銅器時代は5500年ほど前から始まる。

つまり、アメリカへは石器時代に渡ったのである。


この世界の問題は、25000年前にシベリアにそこまでの人がいたのかどうか…

人類は7万年前に気候変動で数千人規模まで数を減らしたといわれる。

アメリカ先住民であるモンゴロイドは、アフリカを出てイラン高原を経由してモンゴルまで進出した。

そしてモンゴルで分岐してシベリア経由でアラスカに到達する。

この世界では、このグループが全滅したと考えられるのだ。


そして、人類は小規模化した状態を立て直せないまま孤立したと考えるのが筋だろう。




ベースキャンプ隊の方にも進展があったようだ。

カナダとメキシコが独自に研究チームを編成することを決め、準備中とのことだ。


俺は体育館ほどのジュラルミンの箱を三つ制作し、そこにすべて収容するよう指示した。

一つは予備だ。

さらに、多目的装輪装甲車パトリアAMVを10台購入し、飛行仕様に改造する。

元々が水上走行可能な車両で、文字通り陸・海・空に対応した車両になった。

こっちはバンパイアの運転手込みでレンタルだ。


補給は、すべてアメリカ空軍が行うことで合意された。



この間に俺はメソポタミアとの接触に入る。

メソポタミアは、アッシュル(アッシリア)とバビロニアに分かれており、どちらも5000人程度の規模である。

エジプトと交易があるとのことから、パトリアの試運転がてらビビ王女とドライブだ。

パトリアは地上でも時速100km出すことが可能で、航続距離は800kmと長い。とは言っても、直線距離で1000kmくらいあるので、空を行く。


「ほ、本当に飛んでおる!」


「ええ。嘘はつきませんよ」



アッシュルの中核機関はアールムと呼ばれた市民会であり、国家運営の重要事項はここで審議され、決定する。

これは現代でもわかっていたことだが、この体制が維持されていた。

これとは別に王制があり、争議の裁定は王が行う。つまり司法である。行政と司法が独立しているのだ。

これに引き換え、バビロニアはエジプトと同様に完全な王政だった。



とりあえずの顔つなぎを終えた俺は、カナダとメキシコから、ベース基地の希望位置を確認し、先に地ならしをしておく。

準備が整った国から、瞬間移動で箱ごと転移するのだ。

箱といっても倉庫であり、出入り口は大きく設けてある。

箱の中は簡単な間仕切りが設けられ、事務エリア、宿泊エリア、倉庫エリア、食事兼会議エリアなどに分けられている。

このあたりに俺は関与しない。


どちらの国も、兵士が30人で学者が20人。

レンタル車両は2台ずつ希望された。

とりあえず、一か月の契約で、進捗により再度調整することとし、人員もろとも瞬間移動で現地入りする。


到着後は、兵士が周辺を柵で囲い、屋上に見張り用の仮施設をこしらえて準備を進めていく。

学者さんは2台に分かれて、現地の下見に出かけていった。




次に手をあげたのはブラジル・コロンビア・アルゼンチンの3国だ。

追加でジュラルミンの箱を三つ制作し、同じように準備を進めてもらう。



アメリカチームはニューイングランドソウゲンライチョウやカリフォルニアハイイログマ、バッドランドオオツノヒツジ、ウミベミンクなど、絶滅種を捕獲し動物園に送り込みつつ、人の痕跡を確認している。

歴史通りなら、アラスカに到達した人類は、東海岸沿いに南下していく。



「東海岸を調査しましたが、やはり人類の痕跡はありませんね」


「僕もアラスカ方面を確認してきましたが、エスキモーやイヌイットはいませんでした」


「となると、人類はベーリング地峡を渡らなかったとなりますか」


「まだ結論を出すのは早いでしょう。カナダチームの報告を待ちましょう」



「あとは、各国のTV局から、ベースキャンプ以外の撮影をさせろと言ってきてますが、どうしましょうか」


「空撮だけでよければ、バンパイアチームで対応できますよ。

例えば、高度10m以下には下げないとかですね」


「その前提で、企画書を提出させて決めるか」


「ですが、TV局の事ですから、結構強引に迫ってきますよ。

普通の人に耐えられるでしょうか」


「じゃあ、僕が対応しましょうか。

その代わり、料金を8時から18時までで5千ドルとか吹っ掛ければいいですよ。

半分はキャンプの維持費に使ってもらうってことで」


「シュウが対応して10時間で5千ドルは安すぎるだろう。

ちょっとした有名人の講演会の金額だぞ。しかも2時間程度だ。

7時からの半日でその金額だな」


「一日1万ドルですか」


「その時間をライブにしてみろ。10時間で1万ドルだぞ。これでも安すぎるくらいだ」


「電波が届きませんからライブは無理ですよ」


「コースは、こちらで指定してはどうかしら。

それと、放映権を一律二十分の一にしてもらうの」


「そうか、当然世界中の国から申し込みが殺到するだろうからな」


「そうなると、コースとしては環太平洋、環大西洋、四大文明、アフリカ・ヨーロッパ、オーストラリア・インド・中東、アメリカ大陸縦断の6コースかな」


「アジアも必要でしょ。中国・シベリア・モンゴル・ロシアコース」


「それならば1・2か所くらいは着陸可能ですね」


こうして、TV局の対応が決まった。


各社は一か所だけ申し込みをし、完全に抽選とする。

申し込み資格は電波による放送局であること。

そして、T国だけは除外させてもらう。


抽選は完全に公開形式で行われた。




環太平洋は、日本の民放が当選した。


「準備はいいですか」


「はい」


「では、出発します」


当選した国は、24時間以内に英語のナレーションに変えて申し込みのあった国に配布することとしている。

コースは西海岸を南下し、一旦南極に出てニュージーランド、インドネシアに台湾を通って北上し、日本オホーツク海・ベーリング海峡・アラスカ・カナダで帰投する。

地上に降りるのは南極とニュージーランドのジャイアントモアとニホンオオカミ生息地だ。


南極ではペンギンとアナウンサーが戯れ、迫力あるジャイアントモアやシロナガスクジラの映像も取れた。


十分な成果だろう。



環大西洋は、ドイツの放送局だ。

スタートをドイツにして、北上。ノルウェーとスウェーデンからアイスランド・グリーンランド、アメリカ大陸東海岸を南下しアルゼンチンからアフリカ大陸の西海岸を北上する。

見所は南アフリカのケープライオンとフォークランド諸島のシロオオカミだろう。



次に4台文明である。

これはエジプトの国営放送が当選した。

黄河文明・揚子江文明・メソポタミア文明は空撮のみで、バビロニア・アッシリアに立ち寄り、最後はエジプトだ。

ビビ王女には根回ししておいて、対応をお願いした。

ここでの問答は二回目となる学者さんだ。

絹のローブやストールなど、いろいろと手土産を用意してきて、盛り上がっている。



アフリカ・ヨーロッパコースはギリシャが当選した。

ギリシャからアフリカを縦断し、東海岸沿いに北上する。

マダガスカルで史上最も重いとされる巨鳥エピオルニスを撮影し、モーリシャスに行ってドードー。

さらにトルコでオーロックスだ。

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