第19話、嗚呼、メタルドラゴンの悲劇

「シュウ、対策はないのか?」


「とりあえず、長距離探査ロングレンジサーチを使える俺とサクラで警戒にあたります。

今のところ、それしか方法がありません」


三日後、今度はエルフの里が襲われたと連絡が入る。


「くそう、どうすればいい…」


「エルフとドワーフをゴルに避難させては?」


「畑と鉱山を閉鎖するのは、影響が大きいし、なにより本人たちが承知しないだろう」


「やはり、北の山脈越えで、本拠をたたくしかないのかよ」


「本拠ですか?」


「ああ、ガーゴイルは北の山脈を超えてくる。まあ、目撃情報だけだがな」


「俺、偵察に行ってきますよ。

見えている範囲なら瞬間移動できますから」


「だが、まったく情報がないんだぞ。

単独では危険すぎる」


「単独だからいいんですよ。

何かあったら、躊躇ちゅうちょしないで瞬間移動できますから」


「まあ、それしかないんじゃろうな」


「カエデたちには黙っていてくださいね。

付いてくるって言いだしかねませんから」


「ああ、わかっている…」




金属加工の工場でジュラルミンの板を譲ってもらう。

腐植には弱いが、軽く丈夫なため、航空機に使われているものだ。

10mm厚で2m四方のサイズを20万円。

それから、強化タイプのアクリル板。


何を作るかって、当然戦闘機に決まっている。

デルタ翼の全翼機。寝転がって操縦するタイプで、両脇にクロウとサクラの搭乗スペースも確保。

下面にミスリルをコーティングし、空気取り入れ口だけを設置。

飛行と加速用の風魔法を書き込み、試験飛行で振動の大きな部分を微調整していく。

もう、男のロマン満載で、搭乗も瞬間移動なので継ぎ目なし。


「急発進や急な方向転換すると、体にかかるGが半端ないな。

どうにか対策しないと…サクラとクロウは平気だった?」


『スノボーみたいだニャ』


意味がわからん。


『この飛行艇と一体化する魔法を使っています。

それよりも、重力魔法でGを中和しては如何ですか』


「Gの中和か、やってみよう…

なんか、体が浮いてるんですけど…」


『標準重力は残すように設定しないと…』


「ん、ああ、こうか…おっ、戻った。

だけど、なんか乗ってる感じがしないなぁ…

中和の割合を一割にして…おっ、いい感じだ」


『つまらんニャ』


「あとは、ミサイルの収納と射出口を作って、翼と先端を鋭利にして全体に強化を施す…と、こんな感じでいいかな」


『山脈まで300km程度ですが、瞬間移動を繰り返したほうが早いと思うのですが…』


「いいの、ロマンなんだから。よし、出発!」


『シュウ、空しか見えないニャ』


「ああ、クロウには探査サーチのスキルがないんだった。スキルエディットで…あれ?」


『私たちのスキルは、神様が直接設定してくれましたから、スキルエディットでは修正できません』


「そうなんだ…、ゴメン、クロウは我慢して」


『つまらんニャ』


クロウは丸くなって寝てしまった。



「すげえ、山脈を越えたら氷の世界かよ」


『シュウ、寒いニャ…』


「ああ、結界で室温を設定しておこう」


『植物も生えていませんね』


「しっかし、雪と氷だけで何もないよな…」


『探査に少しですが魔物の反応がありますけど…』


「たいした魔物じゃなさそうだよね」


『シュウ!正面にメタルガーゴイルの反応があります』


「ああ、数は…どうみても数千はいるよな…

まてよ、あいつら生物じゃないよな…」


「ゴーレムに近いかもしれませんが…」


「やってみるか、『収納!』」


シュン!


『えーっと、それ反則ですよね』


「うーん、ここは派手な空中戦のシーンかと思ったんだけど…

やっぱりさ、適度な量にしてくれないとさ。こっちだってミサイルの準備とか、こんな戦闘機まで作ったんだからさ…」


『あそこ、城があります』


「ああ、ゾロゾロとゴーレムやメタル系が出てきてるな「


『シュウ、窓を開けるニャ!クロウが退治してくるニャ』


「いいけど…」


シュ


『うっ、寒いニャ…』


クロウは丸くなって寝てしまった。


『収納!』


シュン!


『また、そんなズボラな対応を…

あっ、メタル系のドラゴンです!ブレスを…』


ゴー……  ゴー…  ゴー    ゴー


「空中でブレスはダメだって…、ジェット噴射みたいなもんだからさ」


こちらにブレスを吐く姿勢のまま、メタルドラゴンは後方へ飛んでいく。


『見えなくなりましたね』


「じゃあ、今の収納したゴーレムを加工して、空爆してやろう」


ドゴーン ドゴーン ドゴーン


『生命反応が消えていきます』


「ああ、小さいのが100くらい残っているな。降りて確認してみるか」


がれきを収納しながら反応のあった場所へ行くと20cmほどの小人の集団が固まって震えていた。


「なんだ、こいつらは?」


『チーターですね。

魔族というよりも、妖精に近い存在です。

チート…、反則級の複写能力と魔道具制作能力を持ちながら、創造性がないために人や魔族から便利な道具として使われます。

寿命は人間と同等で、美食家であるため、彼らを使役するには美味しいものの提供が必要です。

彼らにとって契約は絶対で、相手が放棄しない限り守られます』


「美味いものか。

おい言葉は分かるか?」


「わかりますわ」


「おまえは?」


「チーターの女王、チートリアルです」


「美味いものを食わせれば俺に従うのか?」


「人に従うなど、われらのプライドが許しません。

とびきりのご馳走を捧げるなら多少の協力は約束しましょう」


「肉は好きか?」


「「「肉!」」」  「「「ニク!」」」  「「「肉!」」」

  「「「ニク!」」」


収納からクマ丼と唐揚げを一人前出してやる。


「これでどうだ?」


クンクン クンクン クンクン


「しょ、食しても良いのですか…」


ニンニクやタレの香りに我慢できないようだ。

十分間をあけてから、言葉にする。


「俺に絶対の忠誠を誓えば食っていいぞ」


「ぜ、絶対の忠誠など…」


「「「チカウ!」」」 

女王の言葉を待たずに一斉に熊どんと唐揚げに襲い掛かるチーターたち。


「くっ、ち、誓います。

お前たち、私を差し置いて!」


チーターは手をナイフとフォークに変化させて平らげていく。


「こ、これでは、足りません。おかわりを!」


「「「おかわり!」」」


「家に帰ったらいくらでも食わせてやる。

それよりも、ここの事を教えろ。

お前たちを使っていた奴らはどこへ行った」


「奥の穴が魔界と繋がっていて、そこから逃げていきました」


「あな?」


瓦礫がれきを片付けていくと、ぽっかりと20mほどの黒い穴が開いていた。


「ふむ、とりあえず塞ぐとして…

あのミスリル製のガーゴイルやドラゴンはお前たちが作ったのか?」


「そうです。

ああ、あのお肉はどのような調味料を…」


「食べ物の話は後だ。

ドラゴンはほかにもあるのか?」


「完成体が2つ」


「飛行の能力を消して、魔族を襲うように修正できるか」


「簡単です」


「じゃあ、光を受けたら起動するようにしてくれ」


「はい、すぐに」


ガチャガチャ


「完了しました」


『収納!』


「えっ」 「「「おお!」」」


「ど、どこへ行ったのですか」


「空間を捻じ曲げて、専用のスペースを作ってある。そこに保管するんだ」


「く、空間に…」


「ま、待ってくれ。これを一度保管して、出してくれないか」


「ああ、簡単だが、何だそれは?」


「魔法を解析する魔道具だ」


「いいぞ、『収納!』『でろ!』どうだ?」


「ま、魔法は解析できた。これなら作れるかもしれない」


「つ、作れるのか!」


「少し時間はかかりそうだが、作れる!作って見せる!」


「それはすごいぞ。

完成したら、とびきりのご馳走だ」


「ホントか!頑張る」


メタルドラゴンを岩で封印し、それを中心とした岩のくさびで穴を塞ぐ。


「魔界の奴らが楔を砕いたら、メタルドラゴンが暴れだす。クククッ楽しみだ」

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