第23話、マーメイドは魚類ではない…と思う

「なあ、ケビン。マーメイドクイーンって知られているのかな」


「当然だろ。

マーメイドクイーンは豊穣ほうじょうなる海をもたらしてくれる。

唯一、海に面していない我が領だが、大陸全土がうるおうんだ。

クイーンの出現は全人類の希望だ」


「そうか…」


「クイーンがどうかしたのか?

まさか、誕生したというのか!」


「うっ…、順を追って話すから聞いてくれ」


「明日からのガンダ行きに関係してるのか?」


「ああ、明日からの準備を終えて、昨日下見に行ったんだ」


「マーメイドに会うのを待ちきれなかったか」


「否定はしないが、西に向かって飛んだが海に出たので、南下したらタンペイの町に出た。

そこのタイラという領主と面会したのだが、2か月くらい前にガンダは海賊に襲撃されて滅びたそうだ」


「待てよ、俺は10日ほど前に、ガンダの領主代理というのに会ってるんだぞ」


「おそらく、海賊の罠だ。

お前を拉致して、物資を要求するつもりだったのだろう。

ここからが本題だ。

マーメイドは50年前に、ガンダの町の者に捕らえられ、半数が漁に出て半数が町で客をとらされていた」


「ま、まさか…」


「お前が抱いたのは、そういう状況のマーメイドだろう」


「た、確かに、泊まった部屋でマーメイドをあてがわれた…、だが、自分から志願してきたんだと…」


「そのマーメイドの名前は聞いたか?」


「バーバラという赤毛の娘だ」


「一安心だな。バーバラは最後に助けたマーメイドたちだ。

俺は抱いていない」


「兄弟にならずに済んだか…、いや、俺たちはもう義理の兄弟だろ!」


「相変わらずのボケ&ツッコミだな。

ガンダを逃げ出した、半数の町民はタンペイで保護されており、その中に50人のマーメイドもいた。

だが、少数民族の種を維持するという名目でタンペイの町でも男に抱かれていた」


「タイラは食えない男だからな」


「本来のマーメイドは、シマガメという巨大な亀の元で暮らしていて、彼女たちの希望はそこへ戻ることだった。

一応、領主のタイラに断りを入れてから、彼女たちを送り届けた」


「よくタイラが承知したな」


「その前に、支援として麦20トン、小麦粉20トン。ジャガイモとサツマイモを同じだけ提供したからな。

嫌とは言えないだろう。

支援は、こことゴルの共同名義にしてある」


「まあ、相談役だし、町の持ち出しではないが、よくそれだけ備蓄してあったな」


「俺の世界で買い付けたものだ。金貨5000枚分は結構な負担だったが、こっちの世界ではカネなんて使わないからな」


「支援が必要なら言ってくれ」


「ああ、ありがとう。だが大丈夫だ、金ならそのうちに回ってくる」


「うちの相談役は頼もしい限りだ」


「それでだ、海賊の元に囚われていたマーメイドも助け出し、海賊は同士討ちするよう仕向けてきた」


「例の精神支配マインドハーネスだな」


「そうだ、明日にでも様子を見てくるが、海賊は叩き潰す」


「ああ、そうしてくれ」


「ガンダを再興するなら、また支援が必要になるかも知れないがな」


「魚を供給してもらえるなら、支援はするぞ」


「その話は後だ。

最初に助けたマーメイドから、救出した礼だといわれ抱いた…いや抱かれた」


「何人のマーメイドを抱いたのか聞かないが問題ないだろう」


「ああ、俺にも正確な数は分からない。

その最初に助けたマーメイドはソフィアという金髪の美しい娘だった。

今後もマーメイド全体の面倒をみるつもりだが、別れ際に額にキスをしたんだ」


「ああ、想像できるな」


「そしたら、ソフィアがクイーンになった」


ガタッ


「おい!」


「頭に金のティアラが現れ、金の瞳に金の尻尾…」


「ああ、記録に残るクイーンの特徴だ」


「というわけで、ゴルの東側の砂浜をマーメイドの里にする。

シマガメが世代交代するまで、面倒を見なきゃならん」


「お前がクイーンの伴侶なのか」


「ああ、一番の問題は、4人目の妻なんだが…」


「クイーンの伴侶は、マーメイド全体の伴侶となる。

法の制約は受けないよ。

だが、羨ましい限りだ…」


「法的に問題がないのなら、次は体力的な問題だ…」


「全員を抱くんだもんな…」


「ああ、頼むぞ兄弟!協力してくれ」


「だが、俺はそれほど空けられないぞ」


「お前と、信用できるヤツに瞬間移動を与える。

女には絶対に悟られないヤツだ」


「いいのか」


「ああ、世界のためだ」


「なあ…、バーバラを妻に迎えることはできないのだろうか…」


「本気なのか?

というか、後継ぎはどうするんだ」


「側室の候補は何人でもいる。

だが、正直なところ側室を持つ気はない。

俺はバーバラを愛している。

後継者に適しているのは、お前とルシアの子供だと思う」


「うっ、まあ、先のことは後で考えよう」


「頼む、明日から一週間は空いてるんだ。

この一週間で、俺はバーバラを探し出して求婚プロポーズするつもりでいた。

一週間かけて絶対にバーバラを妻にする」


「そこまでの思いなのか」


「ああ、あの日以来、女性はバーバラしか考えられない」


「分かった。俺も応援する」




「ごめんなさい」


俺は、自宅で3人の妻を前にソフィアと二人で土下座していた。


「それにしても、マーメイドクイーンとは、予想の斜め上すぎます」


「困っている人たちを捨てておけないのは知っていましたが…」


「…抱いていただく回数が減ってしまいました」


「ソフィアでしたよね。私はカエデ。最初の妻よ」


「ルシアです。二番目の妻です」


「チートリアルです。三番目です」


「ソフィアです。ごめんなさい。シュンさんの奥さんだなんて望んでなかったんです…」


「いいのよ。抱いてしまった以上、責任は男にあるの。

幸い、それだけの甲斐性はありますから、安心してください。

それに、私は当分の間、男女の営みは控えなくてはいけませんから」


「「「…!」」」


「できたのか?」


「カエデ、おめでとう!」


「羨ましい…」


「今日、日本の病院で診てもらいましたから間違いありません」


カエデとルシアは、結婚式の直後、神様が住民登録をしてくれた。

なので、国民健康保険に加入している。


「そうだ!

マーメイドへの支援として魚を大量に仕入れてあるんだ。

今日は寿司パーティーにしよう」


「「すしって?」」


「魚やエビを使ったご飯よ。

エビでも貝でも、好きなものを食べればいいの」


スキルに寿司職人をセットし、タマゴを焼いて酢飯を作る。

チーターにはちらしずしを作っておく。


「私は芽ネギ」 「最初はマグロで」 「お任せで…」 「貝が好きなんですけど…」


シャリッ  「芽ネギのシャキシャキ感がたまらない…」


モグッ   「やっぱりマグロが美味しい」


チビッ   「生で食べるお魚が、こんなに美味しいなんて…」


アグッ   「海水で洗って食べる貝も美味しいけど、酢飯と貝のバランスがいいです」


「タマゴ」  「ブリ」  「次はアカガイとホッキガイ」


チートリアルは、小さめに作ったがまだ食べている。


「ヒラメ」  「中トロ」  「アオヤギとホタテ」


「マーメイドは、もっと新鮮なものを食べているんでしょ。これじゃあ満足できないんじゃない?」


「そんなことありません。

行動範囲は狭いですから、深いところにいる魚や大きな魚は捕れません。食べたことのないお魚や貝がいっぱいありますね。

それに、酢飯やお醤油なんてありませんし、こんな丁寧に調理してませんから、驚きました。

人間の世界にこれだけ完成された魚の料理が存在するなんて信じられません」


「そうだろう。ところで、あいつらはなんで浮かんでるんだ?」


「飛行艇の技術をまねして、ブーツの裏にミスリルを張り付けてます」

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