第24話、人魚姫は恋に破れて泡になる…そんな童話があったよな
俺は、日本でMとLLサイズのサンダルを買った。
マジックテープで固定するタイプで、簡単に脱げることはない。
「これにミスリルを組み込んで、飛行できるようにしてほしいんだが」
「簡単ですが、この固定する仕組みは面白いですなあ」
「そういうだろうと思って、テープになったものを買ってある。
表や裏同士ではくっつかないけど、裏表だとくっつくようになっている」
「いちいち、縛る必要がないのは便利ですね」
「好きなように使っていいぞ」
ケビンの私室である。
「なぜ、お前の嫁が4人ついてくるんだ…」
「あら、お兄様のプロポーズを応援するのは、妹として当然のことですわ」
ケビンの顔が真っ赤に染まる。
「シュウ…、まさか喋ったのか…」
「すまん。だが、マーメイドを嫁にすることが可能なのか、確認しておいたほうがいいと思ったんだ。
そうしたら、色々と制約があるものの、不可能ではないと分かった」
「ホントか!」
「ああ、その過程で根掘り葉掘り追及された…。だが、おそらく結果的にはよかったんだと思う」
「何がだ」
「私からお答えいたします」
「クイーンのソフィアさんだったか」
「はい。バーバラは2年前に町の外から来た男性に身を任せて以来、男性に抱かれることを拒み、毎日漁に出ていました」
「2年前…」
ソフィアは首肯する。
「昨日、確認いたしました。
おそらく、お相手はケビン様で間違いないと思います」
「そ、それで」
「マーメイドには人に変わることのできる秘術が存在します」
「ま、まさか…」
「人間の世界にも童話として伝わっているようですが、失うものは声。そして、想いが届かなかった場合の消失」
「泡になると…」
「その通りです。
伝承と違うのは、その道を選択したら後戻りはできないということです」
「それは、あまりにも大きな代償…」
「ですから、人間になりたいと希望する者などおりません」
「俺は、マーメイドのままでも構わない。
バーバラが隣にいてくれれば」
「マーメイドは、5日に一度海に戻らないと死にます。
この町では、暮らしていけません」
「この町を出て、二人で暮らせばいい。
シュウ、悪いが…」
「ダメだ。バーバラはそんな事を望んではいない。
マーメイドの寿命は400年。
先に死ぬお前はいいさ。
残されたバーバラはどうしたらいいんだ」
「じゃあ、俺はどうすればいい。教えてくれ…」
「バーバラは、人になりケビン様と共に生きる決心をしました」
「まさか…」
「では、本人確認をいたします。
あなたは、別れるときにバーバラに何といいましたか?
正確に答えてください」
「こ、ここでそれを言うのか…」
「お前に、バーバラの覚悟がわかるなら言えるだろう」
「くっ、…いつか、お前が誇れるような男になって迎えに来る。
それまで待っていてほしい………してる……」
「聞こえませんが」
「愛してる…」
「結構です。
では、私とシュウは先に行って準備をします。
30分後に迎えに参りますから、少しお待ちください」
シュン!
「…」
「お兄様は、気楽なものですね」
「なに!」
「バーバラさんは、最低でも声を失い、これから生死をお兄様に
「…ああ」
「馬鹿ですよ。マーメイドとして平穏に暮らせる400年を捨てて、お兄様とともに老いていく道を選ぶだなんて…」
「ああ」
「お兄様に、その覚悟を受け止める…、本気の愛を受け止めるだけの覚悟はあるんですか!」
「ルシア、もうこの先は口出ししてはいけないわ」
「わかっています…だけど、バーバラさんが…もし…」
「もし…、そうなったら、俺はその場で死ぬ。
覚悟とか、そんな大層なものではない。バーバラのいない世界で生きていても無意味だからだ…
勝手な言い草だが、その時はルシアとシュウにこの町を任せることになる」
「か、勝手すぎますよ…ウウッ…」
「ああ、だが今の俺は喜びに包まれている。
バーバラも俺を愛してくれていた。それだけで十分に幸せだ」
シュン!
「待たせたな。準備が整った。いくぞ」
「ああ、頼む」
「悪いが、三人はここで待機だ。
見届けが許されるのは、クイーンと伴侶。それにバーバラの血を引くものだけだ」
「はい。ケビン様に神のご加護がありますように…」
シュン!
「お兄様ー!」
シュン!
「お待ちしておりました。
これからケビン様には、最後の試練を受けていただきます」
「はい」
「そこの花の棺に、5人のバーバラが入ってます。
その中から、あなたの想い人を選んでキスをする。それだけです。
ほかのバーバラに触れてしまったら、その時点で終わりです。
キスをした相手が違っていても終わりです。
もう、術は発動しています。後戻りはできません」
「わかりました。はじめてもよろしいですか」
「どうぞ」
ケビンは棺の前まで歩き、一通り確認して後、躊躇なく右から2番目を選んだ。
そしてキスをする…
パン! パン! パン! パン! クラッカーの音が鳴り響く。
俺が用意して、ほかのマーメイドに渡してあったものだ。
「「「おめでとう~♪」」」
「ケビン様ー」
「えっ、んぐっ、ングッ、待て、バーバラ、どういう事だ…」
「どうって、私は人間になりましたよ」
「こ、声は…」
「声と泡は、マーメイドを守るために歴代のマーメイドが作り上げてきたウソだ」
「ウ、ウソだとー!」
「それくらいのリスクがないと、マーメイドを嫁にしようという人間が現れた時に、断りきれないだろう」
「俺が、どれだけの覚悟でここに来たと思ってんだ!」
「お前には何のリスクもない。
必要なのはバーバラの覚悟だけだからな。
最後の最後まで本気で苦しんだからこそ真実味がでるだろう」
「まあ、そうだが…」
「ここで一週間暮らせばいい。
じゃあ、俺は嫁たちを連れてくるからな」
「ルシアは、真実を…」
「カエデもルシアも知らない。
ちゃんと偽りの報告をするんだぞ」
「ああ…」
シュン!
6日後にケビンの結婚式を行う事となった。
ドランの領主邸は小ぶりな城のような作りになっており、住まいを確保する必要はない。
そこの大広間を結婚式場に作り替えてやる事にした。
俺からの結婚祝いだ。
ガンダの町にいた海賊は、同士討ちにより壊滅していた。
残された元の住民は海賊の資産や船を奪い合い、小競り合いを続けている。
「こんな町を支援する必要はないな」
「ああ、塩はマーメイドの里で作らせればいい。
こんなところ、いるだけ無駄だ」
シュン!
「ドランのケビン領主です。タイラさんに取次ぎをお願いしたい」
「はっ、お待ちください」
応接室に通され少し待つとタイラ領主がやってきた。
「おお、ケビンさんにシュウさん。
先日はありがとうございました」
「物資はお役にたちましたか?」
「ええ、助かっています。
海賊も自滅したようですが、あれもシュウさんが?」
「ええ、マーメイドを救出する際に邪魔してきましたので、相打ちするよう仕掛けておきました」
「そうでしたか。それで、マーメイドたちは…」
「無事にシマガメの元に送り届けました。
皆、喜んでいましたよ」
「それは良かった。
ここへも、マーメイドの主たちが怒鳴り込んできましてね」
「そのあたりの事情はソフィアから聞いています。
大変だったでしょう」
「まあ、いなくなった原因など知るはずがないと突っぱねておきましたがね」
「それでいいです。
どうしても収まりがつかなければ、僕の名前を出してもいいですから」
「まさかですよ。マーメイドに頼りきりのだらしない生活をする奴らです。
兵士に挑んでくるような根性など皆無ですよ」
「それは安心しました。
それで、将来を見据えた農業と漁業の提案をさせて頂こうと思い、伺ったのですが」
「ホントですか!
いやあ、助かります。
すぐに担当を呼びますので!」
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