ミドル5:怨讐の過日
「お熱いねぇ、キッド。まさか“お人形”とそんなに仲良くなってるとは」
議論を重ねる二人の近距離で声がすると同時に、身が竦むような憎悪を感じる――《ワーディング》だ。憎悪に満ちたそれはレネゲイドを激しく揺さぶる!
GM:という事で、シーンインと合わせて2D10の侵蝕上昇だ!
アイリス:侵蝕値 70 → 85
ハイド:侵蝕値 77 → 88
アイリス:超ビビったようだ。
ハイド:出やがったか!
オディウス:「お邪魔だったかい?」
アイリス:「――ッ!? ……これは驚いた。まさかもう追い付かれていたとはね」
ハイド:「チッ……よりにもよって、テメェかよ……!」
オディウス:「
アイリス:「いや、歪めたのは他ならぬ君だが。……して、何用だい? “姿を現した”からには理由があるのだろう」
ジトーっと
オディウス:「ちょっとした野暮用でね……別にこっちから仕掛けようって腹じゃない」
ハイド:「野暮用ね。どうせ
オディウスは非武装に見えるも、ハイドは油断なく構える。
だがアイリスはあくまで自然体で接している。どの道、隠密のプロ相手では構えていようと殺されるのがシミュレート出来てしまったのだ。
アイリス:「違いない。戦闘目的で無いのならコミュニケーションが目的かな?
生憎、私達は
オディウス:「はっ、全く賢い“お人形さん”だ。だが、生憎その計画は脇に置いておく事になるぜ」
ハイド:「……どういう意味だ」
オディウス:「こういう意味さ」
オディウスの言葉と共に二人は気付く。大勢の足音が、既にこの廃ビルを取り囲んでいる。
先程の《ワーディング》が
アイリス:「――建物付近に設置したセンサーに多数の反応を確認した。どうやら取り囲まれたらしい。
わざわざ私達の居場所をバラすためにワーディングを張ったのか。そして、コミュニケーションは私達を釘付けにするための時間稼ぎ。
いやはや、流石に統制機関幹部ともなると油断も隙も無いな」
オディウス:「そういう事だが、“お人形”に褒められても別に嬉しくねぇな」
ハイド:「……これがテメェの狙いか? アイリスを連れ戻すんじゃないのかよ」
オディウス:「さぁてね。それをお前に話す義理なんざねぇな、キッド」
ハイド:「そうかよ……クソッタレが」
ハイド:GM、ここで《七色の直感》を宣言したい。オディウスの感情をオーラとして読み取ろうとする。
アイリス:良いね。どういう意図の行動なのかも知りたいしね。
GM:なるほど……許可しよう!
正直に言えば、ここで使われるとは全く想定していなかった。だが、これを機にオディウスについて少し掘り下げる事も出来るのではないか。そんな期待を胸に、即興で文面を考えていく。
気付かれないよう、細心の注意を払いオディウスの感情を覗き見る。
そうして見えた色は――黒。
闇のような底知れない黒いオーラで、オディウスの姿が捉えられなくなる程に大きく、深く揺らめいている。
この感情は……憎悪。それ以外、何ひとつとして他の色は見受けられなかった。
ハイド:「…………」
垣間見た底冷えするような感情を意外に思いつつも、顔には出さない。
ハイド:「……で、状況はテメェの狙い通りに進んでるわけだ。俺達に何を期待してるのかは知らねぇけどな」
オディウス:「期待なんざしてないさ。UGNに勝とうが負けようが、最終的に目的を達成するのは……俺だ。
ま。戦闘に巻き込まれちゃ堪らねぇからよ。俺はここらでお暇させてもらうさ」
徐々に、オディウスの姿が消えていく。
最後に残った口許は歪み、そのまま何もない闇へと変貌した。
アイリス:「……さて、本当に去ったのかは怪しいが、どうにも戦闘は避けられそうにない。
だからハイド。少しの間、私の方を見ないでおいてくれ」
ハイド:「あ、あぁ」
身に纏う制服のリボンに手を掛け始めたアイリスに背を向ける。
ハイド:「……少し、意外だったな。また目の前で着替え始めるのかと思ったぞ」
アイリス:「君が前に言っただろう? 『肌を見せるのは心から大切だと思った、唯一無二の相手だけ』にしろと。生憎、私は忘れられない体質だからな。これでも学習能力には自信もある。それに……」
《不可視の領域》で半径1mだけを領域で覆い隠し、着替え始めた。
アイリス:「……この服はちょっと気に入ってるんだ。汚してしまうのは勿体ないというものさ」
しゅるしゅると衣擦れの音が、多数の足音が迫る中で場違いに鳴る。
別段大きな音でも無い筈のそれは、ハイドの耳にはやけに届く。
やがて解除された領域の中からは戦闘服に身を包み、制服を大事そうに抱えたアイリスが姿を現した。
アイリス:「さて、待たせてしまったな。これで準備は完了だ」
ハイド:「……おう。前回の反省が活かされてる事を喜んどくべきだろうな」
《構造看破》で解析した廃ビルの構造を元に、脱出ルートを想定したハイドは双銃を構える。
ハイド:「さて、切り抜けるとするか。行けるとこまで行くために、な」
アイリス:「了解した。ここで歩みを止めるのは私としても
……まだ、ここで止まりたくは無い。眼前の脅威を突破して、先へ
廃ビルの中を突破する二人は、UGNの雑兵を蹴散らしながら外へと向かう。
だがその退却を止めたのは、他でもない。白と黒の服を纏う彼女達だった。
戦闘による土煙で視界が悪くてもハッキリと
アン:「やっと見つけた……“ファントムヘイズ”。サイさんの仇」
ハイド:「……お出ましか」
エフェクトを使うまでもなく読み取れる感情に、一瞬だけ心が痛む。だがそれを、ハイドは決して表情に出す事はしない。
アイリス:「……こんばんは、アン。そしてメイ。正直に言えば、このような形で再会はしたくなかった。
一応、こちらから提案させて欲しい。私達に戦闘の意志は無く、出来る事なら戦いたくもない。
一度だけでも構わない。その手を止めては貰えないだろうか?」
メイとアンに向けられたその視線は、とても真摯だ。嘘偽りない本心だとすぐに分かる程に。
メイ:「……私としても貴女と戦いたくは無いわ、アイリス。
だからこちらからも提案するわ。貴女の事をUGNは保護する事だって出来る。今ならまだ、ね」
誘惑するように、甘く手を差し伸べる。
メイ:「この手を取って、平穏な暮らしを送るのはどうかしら、アイリス」
永久にも感じられる程に、長い、長い、数秒だけの静寂が廃墟を支配した。
アイリス:「……私としても、それは魅力的な提案だ。だが――その手を取る事は、出来ない」
メイ:「それはどうして? お互い、戦う理由が無い筈でしょう」
アイリス:「……いや。理由はふたつ」
指を二本立てて、静かに、諭すように、口を開く。
アイリス:「ひとつ。私を保護すれば、君たちには大きな迷惑が掛かる。君たちの大事な人を、『猫宮サイを殺せ』と命じたFHセル、統制機関の魔の手が君たちとUGNに降りかかる事だろう。私はそれを容認出来ない」
そっと、指をひとつ曲げる。
アイリス:「ふたつ。生憎だが、私は彼と先約がある。
ふたつ目の指を、曲げる。
アイリス:「私はもっと世界を見て回りたい。そして――あの彗星を、ハイドと観に行くんだ」
固く握った拳を下ろす。メイの手を取る事は出来ないと、暗に示していた。
アイリス:シナリオロイスの名前を本名の『メイ』に変更。そして感情を好意と隔意に。
加えてアンにもロイスを取得する。同情と隔意だ。両方とも、ネガティブが表だ。
アイリス:「私は刺激を欲する。もっと世界を。もっと景色を観たいんだ。だからもう一度
「どうかお願いだ。そこを退いてくれ。私は心の底から、君たちを傷つけたくないと思考する」
アイリスは
突き詰めると、最後は自分の欲望を優先してしまう。UGNとは、根本的にすれ違うように設計されてしまっているのだった。
ハイド:「……ま、そういう事だ。悪いが、こいつは俺と行く。
だから、道を開けてもらうぜ。怪我したくなきゃ……大人しく退いてろ」
ハイド:こちらもシナリオロイスの名前を『アン』に変更。メイにもロイスを取得する。両方とも同情と隔意、ネガティブが表だ。
そして、『運命共同体』に尽力と不安で絆を結ぶ。ポジティブが表だ。
メイ:「……貴女達にとっては、互いが大切な存在なのね」
複雑そうな表情を浮かべるメイ。だが――
メイ:「ここで私が退けば、アンを見捨てる事になる。それだけは出来ないのよ」
アン:「何だっていい。どっちにしろ“ファントムヘイズ”が標的なんだ。こっちの誘いを断ったなら敵でしかない。
どうせ戦う相手なんだ、知らない方が……やり易い」
アンが戦闘態勢を取ったのを見て、メイもまた構える。
メイ:「――最終勧告です。怪我で済まなくなる前に、大人しく投降を」
ハイド:「……突破するぞ、アイリス」
アイリス:「……分かったよ、ハイド」
二人は返事の代わりに、隣に並び立つ共犯者――いや、運命共同体へと声を掛け合う。
アイリスは“初めて”剣を抜き、
アイリス:「眼前の二人を排除対象に設定。ここを突破し、私達の逃げ道を切り拓く!!」
友人になれるかもしれなかった二人へと、静かに、切っ先を向けた。
勝つのは――生き残るのは、誰だろうか。
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