ミドル5:絶対の危機と好機

GM:さて、このシーンはミドル戦闘直後から始まるよ。まずは二人とも、シーンインお願いします!


ハイド:OK、シーンイン(ダイスころころ)10!? こふっ……。

アイリス:(ダイスころころ)1だね。ふっ。


 アイリス …… 侵蝕率85→86

 ハイド  …… 侵蝕率91→101


GM:随分差が開いたね……?

ハイド:せやな(白目)

GM:ま、まぁ大丈夫だろ、多分だけど。



 ローレルとの戦闘から離脱した二人は停止したエレベーター横の坂を駆け降りていく。

 だがやはり位置が割れているらしく、階下に多数のエージェント群の姿を捉えた。上のフロアからも戦闘音に混ざり多数の足音が近付いているのを感じ取れる。

 このままエレベーターのシャフト内に留まっていては囲まれてしまう。


ハイド:「チッ、挟み撃ちか……アイリス、こっちだ!」


 この窮地を脱するため、ハイドは近場の非常口に手を掛ける。その手に、アイリスの手が重なった。


アイリス:「うん、私もそう提案しようとしていた所だ。奇遇だね。しかし……ハイド」


 どこか伏目がちに、隣に立つ少年の名前を呼ぶ。


アイリス:「先に誘いをかけた私がいうのもアレだけど、ここを出たらきっと、もう後には完全に引けなくなる。しかし、発信機をどうにか出来るのなら、君単身で逃げ延びる事も叶うだろう」


「”私と共にここから逃げ出す”。その選択は揺らいでいないかい?」


ハイド:「あん? 今更何言ってんだお前。思い出せよ、お前がなんて言って俺を誘ったか。俺がなんて答えてお前の手を取ったか。盗むと決めたら意地でも盗む。それが俺のやり方だ。だから──」


「一緒に逃げ切るぞ、お姫様アイリス


 強い想いを込め、手を重ねる少女の名前を呼ぶ。


アイリス:「────」


 長く、どこか心地の良い、数秒の沈黙。


アイリス:「不思議だ。何故かは理解出来ないが、今の言い回しはこう、心が躍ったよ。うん、満点をあげようじゃないか」


 緊迫した状況下で穏やかに微笑み、二人は非常口を開け放つ。

 だが、一歩踏み出した彼女達は、目を見開く事になる。なぜなら──非常口と思われたそれは5m四方ほどの狭い足場だけが取り付けられた、高所ドアだったからだ。

 追われていた事で当初の考えより高い位置から出たため、地上へはまだ程遠い。もはや退くことも叶わない。飛び降りても着地時にリザレクトするしかなく、回復が間に合わなければ囲まれるだろう。

 近くには地上へ向かって伸びる電線が一本のみ……だが、これを高速で伝う事が出来たなら、あるいは追手を振り切る事も可能かもしれない!



GM:という事で、二人には協力して状況を打破するべく連続判定を行なってもらおう!



判定ツリー

 連続判定1:電線を高速で伝う手段を模索せよ

 │(〈情報:誘拐〉達成値上限12)

 └連続判定2:模索から答えを導き出せ

  (〈情報:共犯者〉 15)


 ※この判定は先に判定して出した達成値分、後のもう一人は固定値を得られる。

  判定に失敗した場合、背後からの追手と小規模な戦闘を行なったものとして1D10の侵蝕率上昇を行ない、再判定に臨んでもらう。



ハイド:なるほど。一人じゃ絶対に判定に成功出来ないのか!

アイリス:これは何とも心が踊るね。

GM:そういう事だ。それでは宣言の後、判定をどうぞ!

ハイド:こちらから行こう。

 【情報窃盗】:《生き字引》:メジャー:〈意志〉:-:自身:至近:侵蝕1:〈情報:~〉の代わりに判定。判定ダイス+2個。

 (ダイスころころ)達成値は、9。回らないか……!

GM:惜しかったね! 次はアイリスの手番だ。

アイリス:まぁ、やるだけやってみるさ。

 まずは《オリジン:サイバー》を宣言! これでシーン間の【社会】を用いた達成値を+2だ。加えてここで『ミーミルの覚書』の効果を宣言。『要人への貸し』として判定ダイスを+3個する。

 (ダイスころころ)出目は、10か。

GM:ハイドの達成値が9だったので、固定値に+9。

 したがって、累計達成値19。成功だ!

アイリス:ふむ。判定には失敗してるのに最終的には成功とは何とも不思議な気分だね。しかし、これは喜ばしいな。

ハイド:二人の力が合わさった結果だな、一人では突破出来なかった。



 ハイドは先程トリカブトの二人──カラスバとアイドスから受けた忠告を思い返す。

 発信機。恐らくは硬めの材質で取り外しが難しい物だろう。自身が付けているブレスレットとアイリスのチョーカーが同じ造りである事にも気付ける。

 発信機はこれらで間違いない。


ハイド:「首輪のつもりか……最悪だぜ管理者オーソリティの野郎……アイリス、このブレスレットとお前のチョーカー、壊せるか?」

アイリス:「ふむ……うん、私の試算なら問題は無いね。ただし、呼吸や身体の乱れ、私の剣筋のブレで君の身体を傷付ける可能性があるが、それでも構わないかい?」

ハイド:「ま、そこは共犯者の腕前を信じるとするさ。やってくれ」


 ハイドは自身の左腕と、そこに装着されたブレスレットを差し出す。それを受けて、アイリスは因子で隠蔽していた”歪の剣”の姿を露わにした。


アイリス:「分かったよ。可能な範囲で動かないようにしていて欲しい。……」


 コンマ数秒の逡巡しゅんじゅん。そして「──ッ!」息をつかぬ間に振り下ろす。その剣筋は見事、ハイドのブレスレットのみを切断してみせた。


アイリス:「よし、これで君は問題ないね」


 次は己の番だと、自らの首に剣を定めようと試みるが……長剣であるためにどうにも狙いが定まらない。


アイリス:「ふむ、ハイド。君にひとつお願いがある」

ハイド:「おう、言ってみろ。状況が好転するなら何でもやってやる」

アイリス:「そうか。なら遠慮なく言ってしまうが……君がこのチョーカーを斬ってくれ」


 そう告げて、少女は自身の得物である剣の柄を少年に向けて差し出した。その眼差しは、真っ直ぐに彼を捉えて離さない。


ハイド:「……そう来るか。正直、ナイフくらいしかまともに扱った事は無いんだが……」


 少年は差し出された剣を一瞥いちべつすると、少女の瞳に視線を移す。自身を信じる目だ。──柄をしっかりと握り、アイリスに剣先を向け構える。


ハイド:「OK、やってやるよ。伊達や酔狂でこんなとこまで逃げて来た訳じゃねぇ。覚悟はとっくに決まってる。……怖けりゃ目を閉じてろ」

アイリス:「恐怖なんて感じないさ。遠慮なくやってくれ」


 少女は自らの急所のひとつである首を、惜しげもなく晒して見せる。


ハイド:「言ってくれるな。そんじゃ……行くぜ」


 ハイドはノイマンとしての思考力で考え尽くす。どう剣を使えば、アイリスを傷付けずにチョーカーを破壊出来るか。

 狭い足場の端ギリギリの位置に立ち、剣を構える。計算しろ、頭を止めるな。

 あらゆる思考を巡らせ、託された刃を──「ッ!」アイリスの首元を目掛け、突き込んだ。斬撃では無く、刺突。動作を最小限に抑える事で、身体を思考の限界まで精密に動かして見せたのだ。

 小さな金属質の破壊音と共に、少女の首元から破壊された服従の証チョーカーが落下した。彼女の白い肌に傷は……無い。


アイリス:「……良い腕じゃないか。刺突とは、なるほど、またひとつ学習出来たよ。あとは、私達の体重を支えきるだけの材質は……これだ」


 ハイドのコート端の装飾ベルトを指差し、すまないと一言謝罪を入れてから適切な長さに切断。落ちたふたつの発信機と合わせ、瞬く間に”ジッブライン”の形へと整え上げた。


ハイド:「時間がねぇ。しっかり掴まってろ」

アイリス:「うん、君にこの身を預けよう。エスコートを頼んだよ、ハイド」

ハイド:「任せな。夜空の散歩と洒落込もうぜ、アイリス!」


 少年は少女の身体を抱き寄せると足場を蹴り、眼下の夜景に向けて飛び出す。

 片手で支える命綱すら無いジップラインを頼りに急速降下する。


ハイド:「ははっ、見ろよアイリス! すげぇ景色だぜ!」

アイリス:「あぁ、私の言語能力ではこの心から沸き立つ感情を、その、上手く表現しきれないが……」


 街の灯りが、景色が。まるで流星のように二人の視界を駆け奔って行く。それはまるで少年からもらった流星の冊子に載った星々のようで……その景色に、少女は言葉を選択出来ない。それだけの衝撃と感動が、彼女の心を揺さぶっていた。

 これほどの刺激が、あの白いだけの空間に果たしてあったのか、いや、ある筈も無い。


アイリス:「……うん、ここで言葉を選ぶのは諦めよう」


 これから、彼と共に駆ける世界は一体どんな光景と刺激を私にもたらしてくれるのか、それに想いを馳せるだけでも心が踊る。故に!


アイリス:「──最高だっ!!!」


 生まれて初めての、満点にして満面の笑顔を、共犯者ハイドに向けて見せたのだ。

 背後にエージェント達の気配を感じる。一歩遅ければ、間違いなく捕えられていただろう。だが、彼らには追従する手段が無い。

 無粋に放った銃弾は、高速滑降する少年少女に掠りすらしない。

 重なった二人の、ひとつ影は宵闇へと溶けていく──。

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