トリガー1:破滅の解放“カタストロフ”
周囲に夜が充ちる中、ハイドは暗く語り始める。
隠していた事実を。自らを“ろくでなし”だと形容した意味を――。
ハイド:「……前に、俺の専門は盗みと暗殺って言ったよな。暗殺。文字通り、対象の殺害を目的とした行為だ。
統制機関にとって邪魔な存在は、いくらでもいる。機関に拾われてから11年。最初の2、3年こそ訓練漬けだったが……年齢が二桁に乗る頃には、俺は任務で外に出るようになった」
壁に背を預け俯いたまま、右手を――命を刈り取ってきた手を見やる。
ハイド:「自分の利用価値を示さないと、生きていけない。外で目にした世界に、俺の居場所は無かった。
腐った“日常”から鮮やかな“非日常”に踏み込んで、ターゲットを暗殺しては、また“日常”へと帰る……そんな日々を、何年も過ごしてきた。そのふざけた往復の中で、俺は……何人ものターゲットを殺してきたんだ」
握った掌は、何ひとつ掴む事も無く。全てが零れ落ちていく感覚を覚える。
ハイド:「ただ日々を過ごしていた人間が、唐突に、心の準備も覚悟も無い内に命を終える。相手に死ぬ前の準備や覚悟なんてさせなかった。俺が外に出る時は、死体が増える時だった」
アイリス:「…………」
ハイド:「忘れた頃に現れて、命を刈り取り、消える。後には死体と……そいつと親しかった人達の感情だけが取り残された。暗殺の日々を無限に繰り返す中で、“ファントムヘイズ”は――裏社会で囁かれる死神になった」
力無く手を下ろすと、死体のように硬く冷たい床が待つ。
ハイド:「さっき、あの二人が言ってたな。哀しみ、淋しさ、怒り、恨み……死神はそんな当たり前の感情を踏みにじって、命じられるまま殺し続けた。踏みにじった怒りや恨みが、積もり、重なり。“ファントムヘイズ”への復讐を願う者は、俺が殺しの腕を磨く程に増えていった。
けど、死神は牢獄のような“日常”を捨て、“非日常”へと飛び出した」
彼は自嘲的な声音で語り続ける。それは、
ハイド:「知ってるか? 牢獄ってのは、加害者を護るためでもあるんだぜ」
アイリス:「――――」
アイリスが小さく息を飲んだ事にすら、俯く彼は気付けなかった。
ハイド:「死神は束の間の自由を得た。けど、結局それは長続きしない。する筈も無かったんだ。だって、そうだろ。
多くの命を奪い続けた死神は……俺は、いつ命を狙われてもおかしくない、嫌われ者になっていたんだから」
重い
ハイド:「これが、
俺に自由は訪れない。憧れ続けた外の世界に、俺の安寧は存在しない」
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